テクノロジー

2016.01.25 20:01

ユーザベース 梅田優祐・新野良介・稲垣裕介ー「世界一の情報インフラ」への道 後編

soft_light / shutterstock

前編はこちら

目標の山を登ると見えてくる次に登るべき高い山

スタートアップの世界では、仲間内での共同創業は成功しにくいという「定説」がある。しかし、前編の役員報酬減額の際のエピソードからも伝わるように、同社経営陣の結束力は固い。梅田は「定説」について、こう笑い飛ばした。「トップが複数いることで意思決定が遅れるというのがその理由ですよね。でも、僕たちにとってそれはまったく逆。むしろスピードアップにつながっている。つまり自分と同じ考えを持った自分の分身があとふたりいるわけです。ひとりで複数のミッションを同時にマネジメントするより、自分の分身と複数の事業を分担したほうが決定は早くなりますよね」

実際のところ、現在、ユーザベースではSPEEDAを新野と稲垣が中心にオペレーションし、梅田がNewsPicksを見るという体制を敷いている。しかも新野は主にシンガポールに常駐し、国内のオペレーションは稲垣が担当するという完全な分業体制で行われている。

「梅田と新野のふたりがそれぞれ国内、国外のマーケットを担当し、僕は社内のことを見る。そんな風にちゃんと分担ができている」(稲垣)

「分業体制ができていなければ、私がシンガポールに腰を下ろして、海外事業の開拓に打ち込むわけにはいきません。オペレーションを稲垣がやってくれているから、それができる。おかげでアジア市場の最前線を自分の目で確かめながら、東京を含む4拠点を経営することができる」(新野)

彼ら3人の間のコミュニケーションは、3人だけのグループLINEと月1回のミーティングで十分に機能しているという。もちろん、同じSPEEDAを担当する新野と稲垣はもっと密にコミュニケーションをとっている。この3人の役割分担が面白いのは、次年度も同じかどうかわからないというところ。これまでもそれぞれの役割は毎年のように変わっていて、去年は梅田と稲垣が密にコミュニケーションをとることが多かったという。

「特にこの2年はそれぞれがそれぞれの持ち場で働き、3人揃ってかかわることが少なかった。それでもうまくやっていけたのは、共同経営するに当たって、“言わないのは不満がない証拠”ということにして、とにかく少しでも言いたいことがあれば何でも3人で話し合うというスタンスを続けてきたから。これまでも、3人の意見が一致しないまま何かを進めたことはない。そうやって同じ“星”を見ている3人なので、大きなチャレンジも乗り越えられたと思っている」(梅田)

彼ら3人の信頼関係は、一朝一夕に築かれたものではなかったのだ。

何でもオープンに話し合って信頼関係を醸成した彼らには、揺らぐことのない共通の目標がある。それが「世界一の経済メディアをつくる」だ。すべての事業目標は、この共通目標を達成するためには何が足りないかを考えるところから始まるという。それゆえ、事業目標はその足りないものを足りるようにするために、できることを全力で実行するという短期的なものになる。それを、彼らは「目の前の山を登る」と表現する。

目の前の山に登って高い位置に進めば、違う景色が見えてくる

「山に登っていまより高い位置に進めば、違う景色が見えてくる。それなら、今度はあの山を登ればいいとわかる。僕らはずっとそうやってきた」(梅田)

創業当時の「山」は、「SPEEDAを広めて、まず食えるようになること」だった。その山を登ってみて見えてきたのは「SPEEDAに世界の情報を入れよう」という次の山だった。そうやって、NewsPicksで経済ニュースに進出し、SPEEDAでは海外展開を進め、今のユーザベースの成長を達成してきた。「事業は人の生き方と同じだと思っている。その時々でのベストトライをするしかない。だから、事業では常に一番バリューが高くてワクワクすることにチャレンジしてきた」(新野)

そんな彼らだからこそ、昨年末までに登ろうと思っていた「山」の頂上に達せず「計画未達」となってしまったことは、非常に悔しいことだったのだ。

そんな3人が、中長期的に目標としていることがある。チームづくりだ。「いかに世界の優秀な人材がウチの社に集まってくるか。そのための仕組みづくりは常にやっている」(新野)

そのひとつが、ユーザベースという会社の個性の源泉ともなっている「7つのルール」だろう。同社のエントランスには、誰もが見えるように「7つのルール」が掲示されている。

1. 自由主義で行こう
2. 創造性がなければ意味がない
3. ユーザーの理想から始める
4. スピードで驚かす
5. 迷ったら挑戦する道を選ぶ
6. 渦中の友を助ける
7. 異能は才能

この7つのルールが決められたのは、会社が順調に成長し、社員数が30人を超えたころのことだった。梅田が当時を振り返って言う。「3人で起業し、少人数でやっていたときは、勝手に価値観の共有がされていた。しかし30人体制になって、僕らが“当然、みんなわかってるよね?”ということがわかってないことに気がついてしまった。内部の不満がピークになっていたんです。これじゃ、俺たちが目標にしてきた“ハッピーに働く”になってないぞと、3人で真剣に話し合って決めたのです」

この7つのルールと、「世界一の経済メディアになる」というビジョン、そしてバリューが全社的に共有され、ユーザベースのチーム力は強固なものになった。

揺るがないルールがあるからそれ以外の部分は変えていける

強力なリーダーによって導かれるチームは、そのリーダーがいなくなったときにダメになる。しかし、会社として目指す共通の星があれば、人が変わってもチームとしてやることは変わらない。効果はそれだけではないと、新野が続ける。「常に変わらないものが掲げてあるので、それ以外の部分はいくらでも変えられる。可変性を最大化するという効果もある」

社内制度面では、今年から新たに「自由研究制度」を試験的に取り入れている。これは、1年のうち1カ月間だけ完全に業務から離れて、何でもいいので好きなことに挑戦するというものだ。社員たちが個々に持っている「やりたいこと」を実現させることで、ハピネスを追求するという狙いがある。すでにカンボジアで教育関係のNPOに参加してきた社員もいるという。

「企業の文化力を高め、同時に生産性も上げることを期待しているんです。最近はエンジニアやセールス、それに編集部員と、いろいろな職種の人たちが集まっている。しかも日本語を母国語としないメンバーもいる。ユーザベースのカルチャーを築くことは必要なことです」(稲垣)

文化や業務内容は異なっても、共通の「7つのルール」を共有したメンバーが、全力で共通のビジョンに向かってひた走る。そんなユーザ
ベースの強さの秘密によく似たものが、最近、日本中で話題になった。ラグビーのワールドカップで日本代表チームがチーム一丸となって南アフリカを下した試合である。この試合をテレビ観戦した新野は「まるでうちの会社みたいだ」と感じたという。
「日本代表の選手それぞれが全力で自分の役割をやり切り、自分がつらいときでも、『渦中の友を助ける』というウチのルールと同じことをした。その結果として世界を驚かせることができたということに、とても勇気をもらった」らしい。

ラグビー日本代表の次なる目標は、日本開催の次期ワールドカップでの大躍進であることは揺るぎないが、ユーザベースの次の目標はいったい何か。梅田はこう答えた。「次の山を登ってみると景色が変わっているかもしれないので、中長期的な目標は答えにくい(笑)。詳しいことはまだ言える段階にはありませんが、いま考えているのは、SPEEDAとNewsPicksに加えて、将来的には新しいサービスをもうひとつスタートさせるつもりです」

彼らはまた、世界一の経済メディアに向けての一歩を踏み出す。

文 ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.18 2016年1月号(2015/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事