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HIROSHI TASAKA

以前、元西武監督の広岡達朗氏が、プロ野球のテレビ中継で、解説者を務めていたときのこと。

その試合中に、ある外野手が、大飛球を見事なダイビングキャッチでアウトにするという、素晴らしいファインプレーをした。

それは、素人目には、まったく見事なプレーであり、アナウンサーも、「ファインプレーでしたね!」と、解説者の広岡氏に相づちを求めた。
しかし、広岡氏は、渋い表情で、こう語った。

「あのファインプレーは、悪いファインプレーです。そもそも、あの選手は、この場面での守備位置が間違っている。だから、自分のいないところに球が飛んでくる。たまたま、ファインプレーになったから結果オーライですが、あれは、悪いファインプレーです」

「なるほど」と頷きながら、さらにその試合をテレビで見ていると、今度は、ある内野手が、飛んでくる強いゴロを捕球できずにエラーをした。

そのとき、アナウンサーからコメントを求められた広岡氏は、こう答えた。

「あのエラーは、仕方がない。あの場面で、あの選手の守備位置は正しかった。たまたま判定はエラーになりましたが、あの強いイレギュラー気味のゴロを捕れなかったのは、仕方がないでしょう。あれは、良いエラーです」

これは、野球ファンにとっても、深く考えさせられるエピソードだが、我々経営者やマネジャーにも、一つの難しい問いを投げかけてくる。

我々は、部下の成功や失敗を前に、「それは悪い成功だ」「それは良い失敗だ」と、信念を持って語れるか?
このエピソードは、その問いを投げかけてくる。

たしかに、ビジネスの世界にも、「悪い成功」と「良い失敗」がある。

たまたま好条件が重なって、結果的には「成功」したが、それを続けていると、いつか必ず、大きな失敗に結びつく、危うい仕事のスタイルがある。

たまたま悪条件が重なって、結果的には「失敗」したが、それを続けていけば、長い目でみて、必ず良い結果を出していく仕事のスタイルがある。

では、我々経営者やマネジャーは、その二つを見分ける目を持っているか?

その目を持っていなければ、部下に対して、「それは悪い成功だ」「それは良い失敗だ」と、信念を持って語ることはできない。

そして、仮に、我々が、その二つを見分ける目を持っていたとしても、現在のような、「短期的業績重視」と「業績至上主義」の風潮の中で、まがりなりにも「成功」を収めた部下に対して、「それは悪い成功だ」と、厳しい言葉をかけることができるか?

最近、報道される大手製造業の不適切会計問題や、建設関連企業の手抜き工事問題。

表沙汰になってみれば、誰が見ても「目の前の業績のために、こんなことを続けていれば、いつか最悪の結果になる」と分かっていること。
その最悪の結果を引き起こしてしまう経営の背景にあるのは、短期的業績に目を奪われ、「悪い成功」を看過してしまう企業文化であろう。

では、仮に、我々が、良き企業文化を育み、部下に対して、襟を正し、「それは悪い成功だ」と厳しい言葉を投げかけたとき、その部下は、何をもって、その言葉を受け容れるのか?

その瞬間に、我々経営者やマネジャーに問われるのは、実は、「企業の将来の発展のために」という大義だけではない。

その部下の「成長」を願う思い。

その思いの深さが、問われる瞬間でもある。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)GACメンバー。世界賢人会議Club of Budapest日本代表。tasaka@hiroshitasaka.jp

HIROSHI TASAKA

 

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