33歳。ギニアビサウ生まれ。ポルトガルのリスボンで育ち、ニューヨークを拠点に活動する彼のライフスタイルは、まさしくノマドそのものだ。「経営者として、モデルとして、あちこちを動き回るのが僕のスタイルなんです」と本人も言う。そうして訪れた世界各地で人々がどんな服を着て、どう暮らしているのかを目の当たりにし、湧き上がるインスピレーションがデザインのストーリーを紡ぎだす。
フルタイムでモデルの仕事をしていた頃から、機会があれば自分のファッションブランドを立ち上げたいと考えていた。シューズブランドのコンセプトを思い描きはじめたのは2008年の事だ。モデル出身の彼は靴づくりについてはまったくの素人だったため、ポール・スミスなどのデザイナーに相談するところから始めた。
アルマンド・カブラルの靴にはハイカットのスニーカーからクラシカルなドレスシューズまでのラインナップがあり、価格帯は375ドルから700ドルまで。ニューヨーク、マイアミ、そしてビバリーヒルズのブルーミングデール百貨店や、「Mr. Porter」、「Matches」などのオンラインストアで、幅広く扱われている。また米国外でも、ドバイやシンガポールの小売店や、日本の「スーパー エー マーケット」などで売られている。そうした中でも、彼の靴がとりわけヒットしている国は日本だ。「日本は、ぼくのブランドにとってまぎれもなくナンバーワンのマーケットです。ボリュームの点で、その次に重要なマーケットはアメリカですね」
ところで、高級フットウェアの世界では最近、ポルトガル製品が人気の的になりつつある。そのポルトガルをこよなく愛する男であるというのに、アルマンド・カブラルの靴はイタリア製というのは、どうにも腑に落ちない。「ぼくも最初は、すべてをポルトガルでつくれないかと考えていました。お手頃な価格で、すばらしい品質が手に入るから。ところが、立ち上げの最初の段階から力になってくれたルーキー・ザンブラーノがイタリアに住んでいて、ツテのある工房もみんなイタリアだったので、ポルトガルまで出向いてもらうのは、財政的には無理な相談でした。ですが今、メイド・イン・ポルトガルの品質への理解が高まりつつあり、ランバンのようなブランドもあの国で靴づくりを始めていますから、ぼくたちも製造の移転を考えていますよ」
さて2016年、アルマンド・カブラルの新年の誓いには、新作のファッションショーが連日続く2月のファッションウィークよりも前に開設を予定している、オンライン・ショッピングサイトを完成させることが大きな比重を占めている。そしてまた、男性モデルと靴のデザイナーを兼ねる彼には常に心がけていることがある。「もしもぼくが買うほうの立場なら、はたしてこの靴を選ぶだろうか?ということです。これまでの経験でわかってきたのは、快適さを兼ね備えてこそデザインは生きるということです。ですから、ぼくたちの靴にはもちろん美的な部分もありますが、履き心地のよさでもお気に召していただけると思いますよ」と、身長188㎝のスリムな黒人男性は語った。