深い知見・経験×熱量「起業家の総合力」があるか
「スマートフォンアプリの“ゴールド・ラッシュ”が終わり、アイデアとエンジニアリングに強い若い起業家、小さいチームといった、これまでのスタートアップの主流が変わるのではないか」と指摘するのは、Genuine Startupsの伊藤健吾共同代表だ。スマートフォン関連のサービスが一段落し、今年は「トレンドの過渡期」と言われた1年だった。そこで改めて注目されたのが「社会課題・成長課題の解決につながる事業を行う起業家」だ。
グロービス・キャピタル・パートナーズの仮屋薗氏は「社会課題やそのソリューションに対する深い知見や経験があり、それを革新する“熱量”とうまくバランスがとれ、アライアンスを含めて事業構想を描く『起業家としての総合力』が問われる」と話す。
ラクスルの松本恭攝は前職の外資系コンサルタント時代に問題意識を強く持った「印刷業界」に対して、中小印刷会社をつなぎ、“シェアリング・エコノミー”で変革を起こし、さらに、ユーザーの中小企業にも印刷だけでなく、マーケティングや配送サービスなど事業も拡大。企業として右肩上がりの事業成長している点が評価された。「非稼働資産の有効活用、地方も含めた中小企業への事業機会の創出を実現しながら、収益化も同時に行っている。さらに、新しい取り組みを見ても、事業モデルの革新性も見られる」(産業革新機構・土田氏)。
WHILLの杉江理はそのビジョンと可能性が評価された。「格好悪くて『100m先のコンビニも諦める』というユーザーの課題を解決するという起業家としての発想、ビジョンがいい。技術力も高く、性能もデザインもいい、日本らしい企業ではないか」(マネックスグループ・松本氏)。その他にも、NTTドコモとの業務提携をはじめ大企業と関連性が出てきたことへの評価も高かった。
創業1年目でランクインしたソラコム・玉川憲は「IoT(モノのインターネット)に対応するセンサーや端末向けの通信サービス」を9月末に提供し始めたばかり。クラウドサービス事業で世界を席巻したアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のIoT版として注目を集め、今後のIoT市場の成長性、海外展開への可能性といった事業のスケール性が評価された。
今後、スタートアップの主要テーマとしてあげられる「フィンテック(金融とITの融合)」領域からも2人ランクインした。マネーフォワードの辻庸介とfreeeの佐々木大輔だ。ともにこれまでのキャリアを活かした起業をし、優秀な経営陣を揃え、起業家としてのパーソナリティが評価された。辻は今年に入り、静岡銀行やSBIホールディングス、山口フィナンシャルグループ、東邦銀行などと資本業務提携を進め、全面外交で進化している点、一方、佐々木は短期的でなく、5年以上先を見越して事業推進する視点の高さ、正面突破を試みる肝の据わり方が評価され、ライバル関係の両者が起こす相乗効果への期待も高い。
C Channelの森川亮社長は起業家のあるべき姿について次のように話す。「起業家は『新しい産業』をいかにつくれるか。それが世界に通じるかどうか。誰も実現したことがない、難易度の高い挑戦をする“クレイジーな人”。そんな起業家がもっと出てきてほしいですね」
今後、日本のスタートアップ・シーンは、30代から40代前半の「社会課題解決型」の起業家が主役となるだろう。若き起業家だけでなく、実現可能性を問わず挑戦をするクレイジーさ、壮大な構想力、総合力を持った起業家が数多く生まれ、日本社会そして日本経済を変える日もそう遠くない。
■ランキング評価委員会
Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2016」ランキング評価委員会は10月2日、10月8日の2回(それぞれ2時間程度)に分けて行われた。弊誌・高野真編集長をモデレーターに、日本のスタートアップ業界に詳しい計8人の評価委員会メンバーから、ショートリストの起業家25人についての意見を聞き、ランキング上位集団を選定。最終的に、委員の投票によって順位を決めた。
評議委員メンバー[左から]フィスコ 狩野仁志 代表取締役社長、グロービス・キャピタル・パートナーズ 仮屋薗聡一 マネージング・パートナー、あすかホールディングス 谷家衛 取締役会長、Genuine Startups 伊藤健吾 共同代表、WiL 伊佐山元 共同創業者CEO、産業革新機構 土田誠行 専務執行役員、C Channel 森川亮 代表取締役、マネックスグループ 松本大 代表執行役社長