「社会構造を変えるには、世の中にインパクトを与 えられるリーダーを育成するしかありません」
世界の子どもたちを日本に集めて、懸け橋となるリ ーダーを育てよう。小林りんは、そんな思いから高校 と同じ資格が得られる日本初の全寮制インターナショ ナルスクール「インターナショナルスクール・オブ・ ア ジア軽井沢(ISAK)」を2014年8月に開校させた。 資金集めに6年間奔走。彼女が大きなお腹を抱え て頭を下げてまわる姿を見た人は多い。 「大変申し訳ありませんが、授乳の時間なので、お先 に失礼させていただきます」 夜の会食中、そう頭を下げて中座することもあった。
そうまでして打ち込むには、もちろん彼女がフィリピンをはじめ、世界の現実を直に見てきた経験があるからだ。資金難で開校に時間を費やすと、彼女は予定を変更して小規模のサマースクールから始めた。 学校の特徴となった「正解がないものを考えさせる」「自分で課題を発見する能力をつける」といった教育方針は、徐々に注目を浴び、世界中から教師やボランティアが集まるまでになった。 富裕層の子弟や最貧国の奨学生まで、生徒が続々と集まり始めると、ISAKでもっとも刺激を受けたのは大人たちかもしれない。海外からやってきた女性教師の生物の授業を、小林が学びを得たように話す。
「染色体のXとYを、私はただXYと覚えただけでしたが、授業ではXYを教えた後に、『染色体で遺伝をする病気があります。ハンチントン・ディジーズという病気ですが、その染色体を持った2人が結婚をしたら?』 と生徒たちに問いかけるのです」
2人の間に子どもができたら、その卵子の染色体は検査すべきか否か。これは生命倫理に関わってくる。そこで教師は、生徒たちに役割を与えるのだ。「あなたは仏教徒ね」「あなたはキリスト教徒」。あるいは、 厚生労働省の役人、医師、患者の家族とロールを代えていく。
「この絶対的なファクトを見ながら、どういう立場の違いによって見解が変わるかというようなことを議論するんです」これこそダイバシティだろう。国、民族、性、立場、文化の違いを、生で学んでいく。大人の社会でさえ収拾のつかないもめ事を、子どもたちが真剣に議論し、相手の立場を知り、そして自分との違いに気づいていく。第三の道を見いだそうとする子どもたちの姿に、大人の方が気づかされていくのだ。いまの小学生が大人になる頃、67%の人々は現在存在しない職業に就くと言われている。フロンティアを切り開ける未来のリーダーを育てることこそ、大人の責任だろう。
新しい価値観を子どもたちとともに創る。小林とISAKの挑戦は、いま始まったばかりである。(全文掲載)