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2015.12.30

先駆者たちが語る最高の失敗 「花を切り落として雑草に水をやる」

illustration by Berto Martinez

あれは1982年か83年のことでした。私はある会議で南部アトランタに行った際、時間をとって「ホーム・デポ」という店を見に行きました。当時は4店舗から6店舗へ広げたばかりで、全店がアトランタ市内にありました。そのとき、4店舗に足を運びましたが、どの店も売り上げが好調で社員の士気も高い。しかも、バランスシートが美しい―。迷わず、同社の株を買いました。

ところが、何を血迷ったのか、たった2年で手放してしまったのです。すると、たちまち株価が購入時の25倍に跳ね上がり、やがて50倍くらいに!私が売り払った後、一応、元手の3倍くらいは戻ってきましたが、なんの慰めにもなりませんでした。

「もし、あのまま成長を見守り続けていたら」と、今でも悔やまれてなりません。20店が40店、やがてはあ400店に。健全経営で競合がいなかったのです。何よりも、ホーム・デポはお客さんを大切にしていました。

仮に、もうしばらく持ち続けたとしても、まず損することはなかったでしょう。今でも、なんであんな早く株を手放してしまったのかと考えることがあります。確かに、私は投資家人生で、ダンキン・ドーナツやタコベルをはじめ、多くの当たりに恵まれました。でも、この失敗は本当に大きかった……。

そりゃ、10回中6回も勝てば、ふつうはたいしたものですよ。でも、大きく勝つことで負けた分を取り戻したいものです。負けることはたくさんあります。でも、当たりが3倍、5倍、20倍になるものがあるからこそ、元本を半分割ったものがあっても許されます。

投資家とは、そういう大当たりを絶対に逃したくはないのです。それなのに、私はまさにそういう大物が生まれようとしていた瞬間に立ち会っていたにもかかわらず目の前で逃してしまいました。

でも、よくよく考えてみれば、ホーム・デポをこまめにフォローしていたわけでもなく、思考停止状態に陥ってしまっていたんですよね。ふだん、フォローするときはだいたい、半年に1回くらい店の様子を見に行ったり、3カ月ごとにウォール街のアナリストに会社の近況について聞いたりします。特に専門的な話はしません。大事なのは、つながっておくことなのです。「最近、店の調子はどう?」「昔からある店のほうもうまくいっている?」といった具合に。それだけでいいのです。でも、それをしませんでした。

89年か90年頃、ウォーレン・バフェットから電話で、「株主総会のレポートであなたのコメントを使いたい」と言われたことがあります。

「当たりを手放して、損を出し続けるものにしがみつくのは、言ってみれば、花を切り落として雑草に水をやるようなものだ」というものでした。私は「どうぞどうぞ」と言いましたが、当の本人がこの体たらくですからね。まさに、花を切り落としていたわけです。

これはよい教訓になりました。
とにかく、すぐに株を手放したりしないことです。まずは、投資先の状況をしっかりと確認することが肝心。もちろん、意固地になってはいけません。株価が上がったからといって、永遠に上がり続けるわけではありませんから。

それでも、上がるときには理由があります。当たり銘柄をすぐに手放してはダメ。こまめに状況を把握する。上がる根拠を知っておくことが大事なのです。


ピーター・リンチ◎投資家。1977~90年に、米投資信託会社フィデリティ・インベストメンツのマネジャーとして旗艦ファンド「マゼラン・ファンド」を管理し、平均年率29.2%のリターンを維持した。『ピーター・リンチの株の法則』(邦訳:ダイヤモンド社刊)など著書多数。

フォーブス ジャパン編集部 = 翻訳

この記事は 「Forbes JAPAN No.17 2015年12月号(2015/10/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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