環境や社会に配慮した「エシカル消費」を、日々の暮らしにどう根付かせるか。東京都が推進する「TOKYOエシカル」は、企業や団体の連携をはじめとする多様なアプローチでその実現を目指しており、これまでにさまざまな共創が生まれた。上智大学とタキヒヨーによる連携もそのひとつだ。両者の担当者がその取り組みの内容や思いについて語った。
人や社会、環境、地域に配慮した消費行動を意味する「エシカル消費」。持続可能な社会を目指すうえで欠かせない行動だが、こうした考え方を社会に浸透させ、日常の消費行動につなげるには、個々の企業や団体の努力だけでは限界がある。
そこで東京都が推進しているのが「TOKYOエシカル」だ。エシカル消費の理解を深め、日常的な実践へとつなげることを目指し、事業者や団体が連携しながら社会的なムーブメントを創出するプロジェクトである。現在、約300の企業・団体が参画し、パートナー間でさまざまな連携が生まれている。そのひとつが、上智大学と繊維商社タキヒヨーによるコラボレーションだ。
偶然の出会いから始まったTシャツづくり
上智大学は、早くからサステナビリティに取り組んできた。その背景について、上智学院ダイバーシティ・サステナビリティ推進室室長の藤野圭は次のように語る。
「上智学院の設立母体であるイエズス会は、優先課題として、貧しい人々や弱い立場に置かれた人々との連帯、若者への伴走、そして共通の家(地球)への配慮を重視しています。
本学においても、こうした価値観に基づき、教育・研究活動を通じて社会的責任を果たすため、2021年にサステナビリティ推進本部を立ち上げました。カトリック大学としての教育精神は、SDGsが目指す持続可能で包摂的な社会の実現とも高い親和性があります。」
24年には先に設置されていたダイバーシティ推進室と統合し、ダイバーシティ・サステナビリティ推進室となった。こうした体制の整備が、TOKYOエシカルへの参加につながったという。
「大学としての窓口が明確になったことで、外部からお声がけをいただく機会が増えました。それまでは、個々の教員や研究所、学生団体がサステナビリティ関連のプロジェクトに参加することはあっても、大学として組織的に関わる機会は限られていました。しかし、推進室が設置されたことで、大学としての意思決定や連携がしやすくなり、こうした外部ネットワークやプロジェクトにも参加しやすくなりました。サーキュラーエコノミーは本学でも関心の高いテーマであり、外部の皆さんと連携しながら取り組みを進める機会を持ちたいと考え、TOKYOエシカルへの参加を決めました」(藤野)
一方、アパレルの川上から川下まで一貫したものづくりに携わるタキヒヨーも、早くからサステナビリティに取り組んできた。専門チームを立ち上げたのは19年で、同業のなかでもかなり早い動きだったと、同社グローバルブランドグループ サステナブルセクション サステナブルPRチーム/DX推進チームのチーフを務める森康智は話す。
「早くからサステナビリティに意識を向けていた海外のラグジュアリーブランドとの取引が多く、その知見に触れる機会が多かったことが大きいと思います。当社は『サステナブルソリューションカンパニー』を掲げています。社内の啓発や、サプライチェーンの取り組みに関する発信、異業種や産学連携による新しい取り組みが私のミッションです」
そのミッションを遂行するうえで、森が着目したのがTOKYOエシカルだった。
「サステナビリティは慈善活動ではなく、ビジネスと両立させていくことが重要です。それには、閉じた取り組みだと達成できることが少ない。開かれた取り組みを通じて共創をしていくことが大事だと思っていた矢先にTOKYOエシカルの存在を知り、すぐに参加を決めました」
両者の出会いは24年9月。TOKYOエシカルのパートナー企業や団体がエシカル消費の普及に向けたアイデアを検討・共有するパートナーミーティングだった。上智大学とタキヒヨーは偶然同じテーブルになり、互いに自己紹介するなかで、協業の話が持ち上がった。上智大学がちょうどアパレル製品を作れる会社を探していたこともあり、話はとんとん拍子に進んだ。
「大学公式サステナブルTシャツをつくりたいと考え、取り組み先を探していたのですが、なかなか希望に合う会社が見つかりませんでした。Tシャツづくりのためだけに参加したわけではなかったのですが、お話をうかがうと、タキヒヨーさんはまさにサステナブルなものづくりに非常に真摯に取り組んでいることがわかり、すぐに構想をお話ししました」(藤野)
タキヒヨーにとっても、絶好のタイミングだった。同社では、素材の再利用や循環を通じて廃棄物ゼロを目指す「NO WASTE PROJECT」を展開し、サステナブル素材「ROOPS(ループス)」を提供している。ちょうどその頃、その素材とデジタルプリント技術を融合させたオンデマンドTシャツプリントサービスをキンコーズ・ジャパンと共同で開始するなど、新たなアプローチを始めたばかりだったのだ。
「プリントTシャツを制作するには版をつくる必要があり、例えば数百枚といった最小ロットが発生します。売れ残れば、大量の廃棄につながる可能性があります。しかし、この方式なら1枚ずつプリントできるので、無駄が出ません。このような、立場の違うパートナーとだからこそできる新たなソリューションやストーリーの創出を模索していたところでした」(森)
学生のアイデアが起点、「上智らしさ」を言語化
そもそも、なぜ上智大学はサステナブルTシャツを制作しようと考えたのか。その背景にあるのは、学生にサステナビリティの意識を広めたいという思いだと藤野は強調する。
「大学単独の取り組みが社会に与えるインパクトには限りがありますが、多くの学生がサステナビリティへの意識を持って卒業し、社会に出ていけば、社会を変える力になるかもしれません。そうした学生を育て、社会に送り出すことが大学の役割だと考えています。そのためにも、サステナビリティに関心の低い層にも目を向け、意識や行動の変化につながる働きかけに取り組んでいます」
その働きかけにTシャツを活用する発想は、学生のアイデアから生まれた。ダイバーシティ・サステナビリティ推進室には「学生職員制度」があり、学生を職員と同じように雇用し、アイデアの創出から実装までを任せている。現在、13人が所属しており、今回の企画は、その一人の発想が出発点となった。
「上智大学には『ソフィアジャージ』というオリジナルアパレルグッズがあり、学生の多くが購入する人気アイテムとなっています。そこで、この人気を生かして、サステナブルなファッションを広められないかというアイデアが生まれました。まずは比較的価格を抑えやすく、学生も手に取りやすいTシャツから取り組みを始めることにしました」(藤野)
その学生の思いにタキヒヨーが賛同し、両者の共創がスタートした。Tシャツのデザインは公募することになり、一次審査の基準をめぐる議論にもタキヒヨーが加わった。そこで取り組んだのは、「上智らしさ」を言語化する作業だったと森は振り返る。
「学生たちからは『グローバル』といった言葉がすぐに出てきました。でも、グローバルを標榜する大学はたくさんありますし、そのなかで上智のグローバルとは何なのかを徹底的に話し合いました」
公募には、約90作品が集まった。一次審査を経て、学生の投票による最終審査で選ばれたのは、サステナビリティの取り組みが上智大学から世界へと広がっていく様子が描かれた作品だった。
「日本の上智から、世界にサステナビリティが芽吹いていく。そのコンセプトを、イラストが見事に表現しており、全会一致で決まりました」(藤野)
こうして完成したサステナブルTシャツは学生から好評で、「大学がこうした取り組みをしていることを誇らしく感じる」という声も寄せられたという。さらには、予定していなかった展開もあった。
「最優秀作品以外にも、いいコンセプトやデザインがたくさんありました。これだけ多くの学生が真剣に上智とサステナビリティについて考えてくれたのだから、埋もれさせるのはもったいないという意見が学生からも出て、応募デザインの展示会を開くことになりました。人通りの多い場所にすべてのロゴを展示したところ、たくさんの方の目に留まり、上智学生のサステナブルな社会を願う想いを共有するいい機会になりました」(藤野)
一方、森も今回のプロジェクトには手応えを感じている。
「リサイクルコットンの普及につながることはもちろんうれしいですが、課題解決に向けて一緒に取り組むことができた、良い事例になったと感じています。この取り組みをきっかけに、企業や学生から相談を受ける機会も増えてきました。ストーリーのあるものづくりを通じて、サステナビリティをファッションとして楽しく伝え、着ることや購入することの意味を考えるきっかけにつなげていく。こうした取り組みが、さらに広がっていけばいいと思います」
この共創を通じて、両者はTOKYOエシカルの意義を改めて実感したという。
「TOKYOエシカルには毎回、何か一緒にできないかという視点を持つようにして参加しています。大勢の方と名刺交換をすると、『ちょうど今考えていることに近いかも』という出会いがあるので、今後も参加し続けたいです」(藤野)
森も、TOKYOエシカルをもっと活用していきたいと意気込む。
「ほかの企業さんとも、『こういうことをやりたいね』という話が出てきていて、今まさに取り組みが広がっているところです。ただ、意識は高いけれど、どうしていいかわからないという方も多い。ファッションはいろいろなものの媒介になるので、そこで一緒に何かできればと思っています」
一枚のTシャツから始まった取り組みが、次の共創へとつながっていく。TOKYOエシカルという「場」が、それを後押しする。
TOKYOエシカルの主な取り組み
①カンファレンス・交流会の実施
エシカル消費に関するカンファレンスやパートナー同士の交流会を開催。自社の取り組みを考えるきっかけや新たな気づきを得るとともに、異業種の企業・団体との連携の可能性を探る場を提供しています。
②情報発信
TOKYOエシカルの公式サイトや公式Instagramを通じて、参画する企業・団体の取り組みを発信。自社の活動を広く知ってもらうとともに、消費者がエシカル消費を実践するきっかけとなるヒントも発信しています。
③助成金制度の紹介
TOKYOエシカルに参画するパートナー企業・団体が実施するエシカル消費の普及啓発活動に対する経費の一部を助成します。
④エシカルアクションコンテストの開催
子どもたちがエシカル消費を「自分ごと」として考え、行動するきっかけとなるよう、都内の小学生を対象としたイラストコンテストを開催。入選作品をカレンダーにして都内の全小学校に配布し、エシカルな行動を広く呼びかけています。
TOKYOエシカルキャンペーン
東京都とパートナー企業・団体が連携し、エシカル消費の認知拡大と実践促進を図る一斉・集中的なキャンペーンを以下の通り実施しております。
・パートナー各社の店頭等におけるポスターやPOPの掲出
・エシカル消費に関する体験イベントや啓発活動の実施
・プレゼント企画の展開
・各社の公式WEBサイトやSNSを通じた情報発信
[実施期間(予定)]
2026年11月1日(日)〜11月30日(月)
→詳しくはこちら
ふじの・けい◎上智学院 ダイバーシティ・サステナビリティ推進室 室長。グローバル教育センター、総務局を経て、2021年よりサステナビリティ推進本部を兼務。24年のダイバーシティ・サステナビリティ推進室への統合にともない現職。
もり・やすとも◎タキヒヨー グローバルブランドグループ サステナブルセクション サステナブルPRチーム/DX推進チーム チーフ。IR・広報室、採用プロジェクトチームを経て26年より現職。サステナブル・エシカルとファッションのこれからを一緒に考えるオウンドメディア「__ for good(ブランク フォー グッド)」を運営している。



