「創業者のひらめきによるTNF1.0」から「優秀な社員と解析技術によるTNF2.0」の時代へ。そして、TNF3.0を経て「多国籍な経営チーム(ネクストキャビネット)によるグローバル展開」の時代へ。「お客さまにいちばんいいものを提供したい」と考え、「家庭的雰囲気をもった革新的集団になろう」と訴え続けてきたアントレプレナーの懐の広さに迫る。
基礎から社会インフラを支えている会社
広島県三原市のタケウチ建設は、独自の地盤改良技術を開発している。杭を使わずに井桁状の地盤改良体と基礎を一体化させる「TNF(テンダー・ネット・ファンデーション)工法」を核に複数の国内・海外登録特許(計23件)を保有しながら、技術の継続的な深化を実現してきた。
同工法は、地震による液状化現象で地盤沈下が起きた際にも建物の被害を抑制する。地震の揺れの伝わり方も小さくなるという。1993年の初施工以来、累計施工実績は2025年に2,000棟を達成。耐震性と経済性(杭打ちが不要で施工費用も工期も大幅に抑制)の両立が評価され、物流倉庫や工場、商業施設といった低層(5階建て以下)大規模建築を中心に全国で採用実績を伸ばしてきた。
「例えば、24年1月の能登半島地震では、激しい液状化に見舞われた地域(新潟市西区など)において、他工法を用いた店舗が地盤沈下や噴砂、敷地・建物の亀裂などで営業停止に追い込まれたのに対し、同一区画内のTNF工法を採用した店舗には被害がほぼ見られず、地震直後も通常営業を継続することができました」
地震の発生後にも通い慣れた店舗が営業している。その何にも代えがたい安心感を、文字どおり、まさに物理的に地中の基礎から支えていたのがタケウチ建設である。
1990年にタケウチ建設を設立した竹内謹治は、広島大学工学部建築学科卒の一級建築士だ。独自の思想や哲学、設計理論を机上で終わらせず、実際の施工までを自社で一貫して引き受けて、顧客や社会のニーズに対してダイレクトに応えていく。そのためには単に設計事務所を立ち上げるだけではなく、自らが建設会社を興す必要があった。
「何も難しい話ではありません。『お客さまにいちばんいいものを提供したい』と考えているから、タケウチ建設を設立したのです。私は、設計も現場もできます。また、意匠設計も構造設計もできます。私の目線は、常にお客さまに向いています。そうすると、最初から最後まで自分たちで手がけたほうが品質の良いものができます」
お客さまのために、いかに工夫を重ねるか。その一心で自らの仕事のあり方を突き詰めた結果、タケウチ建設が生まれた。「TNF工法」がもたらす安心。その価値を根底で支えているのは、竹内の純真な想いと、揺るぎないアントレプレナーシップだった。
「ガウディだって、そうですよ。自分ならではの構想を描き、全体を見渡しながら、自ら建設現場に入っていく。その姿勢は同じです」
家庭的雰囲気をもった革新的集団になろう
1993年の初施工以来、「TNF工法」の建物は各地で地震にも見舞われてきた。しかし、これまでの30年以上の歴史において、累計施工実績約2,200棟のなかで1棟たりとも地震で倒壊した建物はないという。
「2022年には進化形の『TNF2.0工法』を発表しました。地盤の圧密沈下解析や応力解析を行いながら、より安全で、ローコストな、その土地や建物に適した地盤改良・基礎工法を提案しているのです。22年6月期の売上高は約54億円でしたが、26年6月期は約118億円にまで伸ばすことができています。この2倍以上の売上拡大に大きく貢献しているのが、さらに効率的にバージョンアップした『TNF2.0工法』なのです」
例えば、「TNF工法」のリピーターになっている顧客として「バロー」(ホームセンター:東海地方を中心に展開)が挙げられる。地震被害に対する不安を軽減しながら、建築コストも抑えられる。そうしたメリットが「TNF2.0工法」によってさらに高まるのなら、新たな出店時にリピートするのは自然な流れといえるだろう。
「1993年に施工が始まった『TNF工法』は、私のひらめきから生まれたものです。技術が私に属人化していました。しかし、新たな数値解析の手法を投入した『TNF2.0』は、タケウチ建設の優秀な社員たちによる努力の結晶です。『TNF工法』を発展させ見事なまでにブレークスルーさせたのは、特にこの10年の間に素晴らしい成長を遂げてくれた社員たちなのです」
今、竹内の純真にして揺るぎないアントレプレナーシップのもとに集まった成長途上の社員たちによって、タケウチ建設は「素晴らしい集団」に変貌しているのだという。
「タケウチ建設は、経営方針の最上位に『家庭的雰囲気をもった革新的集団になろう』という言葉を掲げています。例えば、独身の男性社員が結婚したら、その奥さんも社員になったり——。幼いお子さんが本社1階の駐車場で遊んでいたり——。私が何も言わなくても自律的に動ける従業員が数多くいて、しかも家庭的な空気が社内に充満している。これこそがタケウチ建設の理想であり、現実でもあるのです」
タケウチ建設では、この10年ほどで外国籍社員の割合が増えて、現在は全社員の67%を占めているという。イラン、フィリピン、インドネシア、ベトナム、ミャンマーなど9カ国の高度人材が在籍して、設計、研究開発、施工管理、バックオフィスの各部署で活躍。マネージャー・リーダー職の過半数を外国籍社員が担い、多様性に富んだ組織が形成されている。出自にかかわらず意欲と能力が生かされる職場にもなっているのだ。
TNFは3.0へ、経営はネクストキャビネットへ
90年から会社を率いてきた竹内は今、どのような未来を見据えているのだろうか。また、次世代に経営のバトンを渡していくことについては、どのような準備を進めているのだろうか。
「これから先、3〜5年後には『TNF3.0』をローンチしたいと考えています。『TNF2.0』までは、ひとつの建物に対して有効な技術でした。それを『TNF3.0』では例えば、1平方キロメートルのエリア全体に沈下抑制や免震の機能をもたせるという発想です。そうした夢のような技術を、タケウチ建設は『TNF2.0』と同様にローコスト・ハイクオリティで実現したいと考えています。スーパーゼネコンは、ハイスペックなものを売るのが仕事です。私たちが手がけているようなビジネスモデルには乗れない体質があるのです。そこが、タケウチ建設の勝機だと考えています」
これまでに竹内が語ってきたことは、日本に限った話ではない。地盤の弱さに悩まされながら、それを克服する技術と出合えていない人が住む国は世界に山ほどある。
「『TNF2.0』、さらには『TNF3.0』のようにローコスト・ハイクオリティな技術に情熱を傾けている会社は、海外においても稀有でしょう。はっきり言って、いないと思います。タケウチ建設は2016年にベトナム・ホーチミンに現地法人を設立しています。このベトナムを試金石としながら、いずれはアメリカにも進出したいと考えています。アメリカは、その広い大地のなかに『TNF』向きの低層大規模建築が数多く建っている国ですからね」
今、竹内は次代のタケウチ建設の経営を担うであろう若い4人の社員を指名し、ネクストキャビネットと称して期待し、温かく見守っている。そのなかには外国籍の人材も、女性も含まれている。
「ネクストキャビネットは外国籍が二人、日本人が二人で構成されています。全員が30代前半です」
家庭的な雰囲気をもった革新的な多国籍集団がワールドワイドに高い成果を挙げていく。そのような未来が、そう遠くないうちに訪れるのだろう。
たけうち・きんじ◎広島県出身。1970年広島大学工学部建築学科を卒業。87年、ティーアンドピィー設計事務所を設立。90年、タケウチ建設を設立し、代表取締役就任。一般財団法人タケウチ未来 代表理事。2024年、春の叙勲にて旭日単光章を受章。
株式会社タケウチ建設
本社/〒723-0015 広島県三原市円一町4丁目2番14号
URL/https://www.takeuchi-const.co.jp/
従業員/95名(2026年10月時点)




