金融におけるAIの未来は世代間の強みの融合にかかっている
B2B決済業界では、データについて語ることに多くの時間が費やされている。企業は取引情報、サプライヤーに関する知見、支出パターン、業務指標を膨大に収集している。人工知能(AI)が進化を続けるなか、議論の多くは、企業がそうしたデータセットからより大きな価値を引き出すためにAIをどう活用できるかに集中してきた。
金融や決済分野においては、より優れた情報がより良い意思決定につながることが多いため、これは重要な議論だ。しかし、多くの組織がそれと同等に価値のある別の形態の独自情報を見落としていると、筆者は考えている。
その情報は、データベース、データウェアハウス、データレイクに格納されているものではない。サプライヤーとの関係を管理し、景気循環を乗り越え、リスクを軽減し、金融テクノロジーを導入し、複雑なビジネス課題を解決することに何十年も携わってきたプロフェッショナルが蓄積してきた専門知識である。AIが金融や事業運営にますます深く組み込まれるなか、最も大きな機会の1つは、こうした経験を組織全体でより効果的に捉え、活用するためにAIを使うことかもしれない。
「経験」という過小評価された競争資産
経営幹部が独自データについて考えるとき、通常は取引記録、決済履歴、顧客情報、業務指標に目を向ける。これらの資産に価値があることは否定できず、AIは組織が以前は不可能だった方法でそれらを分析する助けとなる。
しかし、企業内における最も重要な固有情報のいくつかは、テクノロジーや市場環境、ビジネス環境の変化を何十年もくぐり抜けて働いてきた「人」の中に存在する。そうした経験を通じて、彼らは競合他社が容易に模倣できない判断力を養ってきた。何がうまくいき、何が失敗するのか、そしておそらく最も重要な「なぜそうなるのか」を目撃してきたのだ。
その知識がダッシュボードに表示されることはほとんどないが、無数の事業判断に影響を及ぼしている。多くの意味で、経験そのものが独自データの一形態なのである。
歴史的に、組織はそのような専門知識を蓄積・集約することに苦労してきた。知識の伝承は主に、メンターシップやドキュメント作成、あるいは経験豊富な同僚とともに何年も働くことに依存してきた。AIは、そうした組織知(インスティチューショナル・ナレッジ)を事業全体でよりアクセスしやすく、検索しやすく、活用しやすいものにする可能性を秘めている。
経験とAIが交差する場所にある機会
同時に、労働力そのものも進化を続けている。現在、ミレニアル世代が働くプロフェッショナルの最大の割合を占めており、Z世代も各組織で着実に存在感を高めている。これらの世代は急激なデジタルトランスフォーメーション(DX)の時期に社会に出ており、AIを含む新興テクノロジーの導入に対するハードルが低いことが多い。
組織はこの変化を課題として捉えるのではなく、機会として見るべきである。
若手・新進気鋭のプロフェッショナルは、デジタルに対する高い適応力(デジタル・フルエンシー)と、前提を疑う柔軟な姿勢をもたらす。一方で経験豊富なプロフェッショナルは、背景となる文脈(コンテキスト)と苦労して培った専門知識をもたらす。AIから最も大きな恩恵を受ける組織とは、テクノロジーを活用して価値ある組織知を事業全体でよりアクセスしやすく、実行可能なものにし、双方の強みを融合させることができる組織だろう。
決済・金融分野でこれが重要な理由
この力学は、近代化が加速し続けるB2B決済と財務業務において特に重要である。2025年のAFPデジタル決済調査によれば、小切手はいまなおB2B決済の26%を占めており、76%の組織が今後3年以内に決済戦略を更新する計画だという。
方向性は明確だが、財務リーダーは、変革が1つの決済手段を別の手段に置き換えるほど単純なものではめったにないことを理解している。
外から見れば、決済は単純に見えるかもしれない。実際には、B2B決済のエコシステムは極めて複雑であり、何千ものサプライヤー、複数の決済手段、ERP連携、承認ワークフロー、運転資本上の考慮事項、コンプライアンス要件、不正対策、変化し続ける事業目標が関わっている。ある組織で有効なものが、別の組織ではまったく効果を発揮しないこともある。
それが、経験がこれほど重要である理由の1つである。
経験豊富な財務・決済のプロフェッショナルは、取引データだけでは見えてこない細かなニュアンスを理解している。なぜ特定のサプライヤーが変化に抵抗するのか、どこで業務上のボトルネックが発生しやすいのか、どの導入戦略が成功しそうか、そして何年も前の教訓に基づいてどのような統制が存在しているのかを知っている。そうした知識の多くは正式に文書化されることはないが、数百万ドル規模の決済活動や事業成果に影響を与え得るのだ。
B2B決済の近代化は、一朝一夕で完了するような取り組みではない。成功は多くの場合、効率性、サプライヤーの採用、リスク管理、コンプライアンス、より広範な事業目標のバランスを取ることに左右される。そしてそれらはいずれも、経験を通じて培われた判断力を必要とする。
同じ環境を見ている若手プロフェッショナルは、「なぜ特定のプロセスが今も存在するのか」と疑問を抱くかもしれない。それはしばしば、イノベーションを推進する問いとなる。しかし、その問いには、もう1つの問いが伴わなければならない。「そもそもなぜ、そのような形で構築されたのか」という問いだ。
その答えが、排除すべき不要な摩擦を明らかにすることもある。一方で、いまなお不可欠な重要な安全策、顧客要件、業務上の依存関係を浮き彫りにすることもある。近代化の成功には、両方の視点が必要である。好奇心は変革の機会を見つける助けとなり、経験はその変革が価値を生み出すことを確かなものにする助けとなる。
リーダーが得るべき教訓
最も効果的なAI戦略は、最終的には専門知識を「置き換える」ことよりも、それを「拡張する」ことに重点を置くのかもしれない。
財務リーダーにとって、それは組織知を他の独自資産と同じ真剣さで扱うことを意味する。目標は単に業務を自動化することではなく、組織全体に蓄積された専門知識を、よりアクセスしやすく、移転しやすく、影響力のあるものにすることだ。
企業にとって最も価値ある独自情報のすべてが、データベースに存在するわけではない。その一部は、隣のオフィスにいるかもしれない。
熟練プロフェッショナルの「経験」、若手人材の「テクノロジーへの適応力」、そして「AIの能力」を巧みに融合させた組織こそが、競合他社が模倣しづらい競争優位性を構築することになるだろう。



