大規模なシステム移行を主導した経験があるなら、切替作業が行われる週末の午前2時、何か障害が発生して事後検証報告書に自分の名前が載るのではないかという不安を味わったことがあるはずだ。私はキャリアの大半を、こうした決定を下す組織へのアドバイスに費やしてきたが、その恐怖は決して不合理なものではない。失敗に終わった移行の昔話は、誰にとっても格好のネタだ。しかし、移行リスクへの恐怖から、多くのリーダーが現状維持を選択してきた。だが、現状維持の方がより高くつく選択肢となっているケースは非常に多い。ただ、そのコストが見えにくいだけなのだ。
恐れは時代遅れでも、コストは消えていない
一世代前であれば、主要な運用プラットフォームの刷新は、数年間にわたる社内の頭痛の種や顧客への支障、そして実際に障害が発生する高いリスクを意味していた。延期することは往々にして合理的な判断であり、少なくとも解雇を免れる選択だった。しかし、現在の環境は異なる。現在のプラットフォームはより多くの機能を備えており、導入のプレイブック(ノウハウ)もわずか5年前と比べてはるかに成熟している。
しかし、変わっていないのは移行決定における心理状態だ。全米銀行協会(ABA)によると、現在の勘定系システム(コアプラットフォーム)プロバイダーに満足していると答えた銀行家は半数強(53%)にとどまるものの、次回の契約更新時にも同じプロバイダーを継続する可能性が高いと答えた人はそれを大幅に上回る69%にのぼる。実際に切り替えると答えたのはわずか19%だった。
金融サービスの経営幹部は今なお、システム移行の最悪の事例や顧客を巻き込んだ失敗談に目を奪われがちだ。停滞のコストは静かに進行し、無視しやすい。連携の選択肢は限られたままで、顧客体験の格差は四半期ごとに少しずつ広がる。優秀な人材は、古いインフラを取り繕いながら働くことに嫌気がさして去っていく。
だからこそ、問い直すべき別の質問がある。「移行中に何が失敗する可能性があるか?」ではなく、「現在のプラットフォームによって、3〜5年後に何ができなくなるのか?」を考えることだ。そして、それにはどれほどのコストがかかるのだろうか。
組織はいかに前進の意思決定を解き放てるか
停滞したモダナイゼーション(近代化)の意思決定を再び前進させる要素として、私が何よりも効果的だと実感しているものが2つある。1つ目は、貸借対照表(バランスシート)を超えた根拠を示すことだ。ほとんどの組織は目に見えるコストのみでROI(投資対効果)を計算し、そこで終わってしまう。だが、より大きな利益はスプレッドシートには表れないものが多い。新商品の迅速な展開、優秀な人材の定着率向上、チームが本当に使いたいツールとの確実な連携などだ。こうした要素は最初のビジネスケースで過小評価されることが多く、承認される判断と見送られる判断の明暗を分ける要因となる。
2つ目は、プロセスの問題を解決することだ。不作為を招く恐怖の原因は、目指すゴールそのものにあることはまずない。そこにどうたどり着けばよいかわからないという点にあるのだ。「リソースはあるか?」「相手側に受け入れ能力はあるか?」「実際どれくらいの期間がかかるのか?」。モダナイゼーションをいくつかのマイルストーンに分割し、それぞれに予測されるリスクポイントと軽減策を用意することで、プロセス全体が「崖からの飛び降り」ではなく、「管理された移行」と感じられるようになる。
例えば、マサチューセッツ州にある資産規模40億ドル(約6270億円)の銀行はこのアプローチをみごとに実践した。一か八かの一括移行を試みるのではなく、まずクラウドネイティブな次世代コアシステム上でデジタル専用ブランドを数年間運用した。ビジネスの小さな領域でプラットフォームの有用性を証明してから銀行全体の移行を行い、予定よりも早く運用を開始した。実証してから本腰を入れる。初日からすべてを移行するのとはまったく異なるアプローチだ。
また、あまり活用されていない3つ目の手段として、同様のシステム移行を経験した同業者と直接話すことが挙げられる。そうした会話は、社内で何度分析を繰り返すよりも早く、停滞した意思決定を前進させることができる。
考慮すべきキャパシティの制約
もう1つ、多くのリーダーがまったく計画に含めていない重大な課題がある。それは自社の準備状態とは何の関係もない。大規模なテクノロジー移行を担う大手企業や専門業者の多くが、現在キャパシティの限界で稼働しているという点だ。企業システムのモダナイゼーションにおけるさまざまな領域で、数年分のバックログ(受注残)を抱えているのが現在の常態となっている。
今日、自社で基幹プラットフォームの刷新を決断したとしても、実際のプロジェクト実行が始まるまでに2〜3年の待ち時間が発生する可能性がある。これは計画のタイムラインを根本から変えるものだ。次の契約更新や予算サイクルに合わせて決断できると考えているリーダーは、完璧なタイミングを待っている間にチャンスの窓がすでに閉ざされていることに気づくかもしれない。最も柔軟性を持てる組織とは、現実的な選択肢を持てるよう十分に早い段階から検討を始めた組織だ。放置しすぎれば選択肢はなくなり、緊急性が無視できなくなった時点で利用可能なものを受け入れるしかなくなる。
老朽化したプラットフォームを現在運用している場合、まず手をつけるべきは以下の通りだ。今日ではなく、18カ月後の行動を実際に妨げている要因が何かを監査すること。スピード、アジリティ(俊敏性)、優秀な人材、コンプライアンスの柔軟性など、単一の会計項目には現れない要素も含めて包括的なROI分析を実施すること。概算で構わない。社内で議論になるだろうが、その対話自体がマインドセットを変える第一歩となる。今すぐ契約サイクルに対するモダナイゼーションのタイムラインをマッピングすること。契約更新にタイミングを合わせられると考えるのは、ますます非現実的になっている。そして、すでに移行を経験した人物に話を聞きに行くことだ。
移行に伴う恐怖は本物だ。だが、停滞のコストは主張することなく、手遅れになるまで静かに膨らんでいく。5年後も顧客に質の高いサービスを提供し続けている組織とは、完璧な瞬間を待つ組織ではなく、今年決断を下す組織なのだ。



