何十年もの間、経済成長は周知の戦略に依存してきた。自治体は、優遇税制や安価な用地、魅力的な開発条件を武器に企業を誘致し競い合ってきた。そうした手段は今でも重要だ。しかし、それだけではもはや不十分となっている。
今日、都市はより根本的な要素、すなわち「準備体制(レディネス)」で競い合っている。
筆者の観察によれば、企業が拠点の拡大や移転先を検討する際、単なるインセンティブの優遇措置にとどまらない要素を見ている。企業が求めているのは、その地域に長期的な成長を支え得るインフラ容量があるという確証だ。水道システムは需要増加に対応できるか。道路や交通網は従業員や資材を効率的に輸送できるか。雨水排水システムは追加の開発に対応できるか、といった点である。
こうした問いは、自治体のインフラに対する捉え方を変えつつある。インフラはもはや単なる公共事業の義務ではなく、経済開発の原動力となっているのだ。
なぜ「レディネス」が新たな競合上の優位性となるのか
企業や開発事業者は、その地域の安定性とインフラ容量に信頼が置ける場所に投資する。一度計画が始まれば、予期せぬ制約や遅延、コスト増を伴う変更によって進捗が阻害されることはないという保証を求めているのだ。
そうした信頼を迅速に構築することは容易ではない。大きな好機が訪れたときに、自治体が水道システムを迅速に更新したり、下水道容量を拡張したり、交通網を再設計したりすることは不可能だ。綿密な計画、アセットマネジメント(資産管理)、そして調整された投資を通じて、何年も前から準備を進めておく必要がある。
だからこそ、レディネスが競争上の重要な強みとなっている。自らのインフラの状態や容量を把握している自治体は、より賢明な意思決定を下し、潜在的な投資家と効果的に意思疎通を図り、長期的な目標に沿った機会を追求することができる。
今日、都市はインセンティブの条件だけでなく、実行力と事前の準備体制によってもしのぎを削っている。
価値あるものは目に見えないことが多い
インフラと聞くと、道路や橋、公園、建物などを連想しがちだ。こうした投資は、地域の人々が日常的にその場所をどのように体験するかを決定づけるため、確かに重要である。
しかし、成長がそもそも可能かどうかを左右するインフラは、多くの場合、地下に埋もれている。そして、米国におけるインフラ需要の規模は膨大だ。米国環境保護庁(EPA)の推計によれば、今後20年間で「都市や町、コミュニティの公衆衛生、安全、そして経済的福祉を確保するため、配管の交換、処理場の改修、配水池などの重要資産に、水道システム全体で6250億ドル(約98兆円)の資金が必要になる」という。さらに、EPAの2022年「クリーンな水辺のニーズ(Clean Watersheds Needs)」調査では、下水、雨水、その他のクリーン水インフラに対して6301億ドル(約98兆8000億円)のニーズが特定されている。
こうしたニーズは単なるエンジニアリング上の問題ではない。日々の暮らしに不可欠なものだ。これらのシステムは、全米のほぼすべての家庭、企業、学校、そして開発プロジェクトを支えている。水道、下水、雨水システムが順調に稼働しているとき、大半の人々はそれらを意識することすらない。しかし、ひとたび障害が発生すれば、瞬く間に地域社会の最優先課題となる。
これはリーダーシップにおける重大な課題を突きつけている。選挙で選ばれた公職者や行政担当者は、目に見える危機が発生する前に、住民が直接目にすることのないような資産への投資を正当化しなければならない。しかし、投資を先送りすれば、後にさらに膨大なコストに直面することになる。維持管理を後回しにすれば緊急修繕の可能性が高まり、事業者や地域社会に混乱をもたらし、将来の開発を阻害しかねない。
デトロイトが示す可能性
単一のプロジェクトだけで都市の軌道が変わるわけではない。都市の競合力は、その真価が明らかになる何年も前になされた、一連の調整された意思決定によって高まるのだ。
筆者の住むデトロイトは、長期的なインフラ投資が地域の軌道をいかに再構築し得るかを示す、興味深い事例を提供している。
何年もの間、この都市がシステムの老朽化や人口減少などの問題に直面しながら、主要企業の誘致や投資の獲得に苦戦する様子を目の当たりにしてきた。同市の経験から分かったのは、インセンティブや空き物件だけでは変革をもたらす好機を勝ち取れないということだ。雇用主も住民も、交通、ライフライン、住宅、公共サービス、近隣地域の質など、投資を取り巻く全体的な環境を評価しているのである。
筆者の考えでは、デトロイトの最近の勢いは、より広いエコシステム全体に対する持続的な官民投資によって支えられている。人目につきやすい再開発は都市のイメージ刷新に寄与したが、目立たないインフラ強化の取り組みもそれと同じくらい重要なのだ。
危機が訪れる前に投資する重要性
地域のリーダーにとって、単に支出を増やすだけでは解決策にならない。戦略的に投資を行うべきだ。つまり、地域の資産、その状態、そして障害が発生するリスクが最も高い箇所を理解することを意味する。
堅牢なアセットマネジメントを行うことで、緊急のニーズに対処するだけでなく、安全性、信頼性、経済的機会、長期的なコストに基づいて投資の優先順位をつけることができる。また、個別に計画されがちだが相互に影響し合う交通、水道、土地利用、住宅、経済開発などの縦割り構造を打破することも含まれる。たとえば、新たな雇用拠点ができれば、住宅や交通への需要が高まることになる。
筆者の経験によれば、最も効果的な戦略とは、建設工事が始まる前にこれらの決断を連携させることである。
ビジネスリーダーのための4つのベストプラクティス
どこでどのように成長を遂げるかを検討しているビジネスリーダーにとって、インフラは最初から意思決定プロセスの一部に組み込むべき要素である。ビジネスリーダーであれば、以下の4つの原則を念頭に置くことをお勧めする。
第一に、自社の事業が依存しているシステムを理解することだ。交通、水道、下水、電力、雨水処理は、事業運営、拡大の可能性、信頼性に直結する。インフラの制約に後から気づけば、遅延や予想外のコストが発生する原因となる。
第二に、インセンティブだけに目を奪われないこと。税制優遇、土地コスト、開発パッケージは重要だが、それは検討要素の一部にすぎない。その地域に、目先のニーズと長期的な成長の双方を支えるインフラ容量があるかどうかを評価すべきだ。
また、現在の容量だけでなく、地域の「長期的なレディネス」について問いかけることも重要である。今日はプロジェクトを受け入れることができても、将来の開発や人口増加、システムの老朽化によって状況は変わり得る。調整された資本計画や、先を見越した投資の痕跡があるかを確認してほしい。
最後に、インフラをビジネスリスクの一部として扱うこと。立地選定や事業拡大の意思決定においては、周辺インフラの状態、信頼性、レジリエンス(回復力)を考慮に入れる必要がある。強固なシステムは、信頼感と柔軟性をもたらすのである。
競争力のある地域社会の構築
インフラとは、経済開発の後に付いてくるものではない。経済開発を可能にする基盤なのだ。
今後10年間で繁栄する地域社会とは、インフラを管理すべきコストとして扱うのをやめ、成長の前提条件として捉え直す自治体だろう。経済開発は、インセンティブのパッケージや新しい本社、テープカットから始まるわけではない。何年も前に、水道、下水、雨水、交通、そして企業や住民に投資の確信を与えるシステムに関して、リーダーたちが下す決断から始まるのだ。
地域社会は、自らに訪れるあらゆる好機を予測することはできない。しかし、好機が訪れたときに準備ができているかどうかを決めることは可能なのだ。



