マーケティングはすでに、AIの最も活発な実証の場の一つとなっている。セールスフォース(Salesforce)の報告によると、マーケターの75%がAI技術を導入している。またマッキンゼー(McKinsey)の試算では、生成AIがもたらす経済的ポテンシャルのうちマーケティングおよび営業が28%を占めており、これはあらゆる業務領域の中で最も高く、25%のソフトウェアエンジニアリングをわずかに上回っている。
しかし私の経験では、AIによる企業価値創出に関する経営レベルの議論は、依然としてテクノロジー、オペレーション、財務を中心に展開されている。肩書に「マーケティング」が含まれているにもかかわらず、最高マーケティング責任者(CMO)の役割は見落とされがちである。
特に大きな転換点において、組織がどのように成長し、競合し、価値を創出するかを規定するうえでのCMOの役割を、多くの人が過小評価している。真の好機は、単にAIがマーケティング部門内で何ができるかという点にとどまらない。CMOがAIを活用して企業全体に何を成し遂げさせることができるか、という点にある。
その機をつかむことができるのは、単なるマーケティング機能にとどまらず、成長戦略、ポートフォリオ、商業化、組織変革、企業ポジショニングにまで役割を広げている変革型のCMOである。
CMOがAIを用いて企業価値を創出する5つの方法
1. 新たな成長源を特定する
ほとんどのAI活用機会は、当初は機能として現れる。分析の高速化、よりインテリジェントな製品、意思決定の自動化、あるいはパーソナライズされた体験などだ。戦略的な問いは、そのうちのどれが有意義な成長源となり得るかである。
変革型のCMOは、この問いに答えるために必要な市場、ポートフォリオ、商業的視点を提供する。企業は無数の場所でAIを適用できるかもしれないが、自社のポジションを強化し、市場を切り拓き、あるいは成長プラットフォームを構築できるものはごく一部にすぎない。CMOは、単に興味深いアプリケーションと、企業全体の成長機会を見極める支援を行う。
2. 機能を軸とした商業システムを構築する
新たな機能を構築したからといって、市場がそれを受け入れ、対価を支払うとは限らない。その価値を製品やサービス(オファリング)として昇華させ、意義あるニーズに応え、適切なビジネスモデルに適合させ、違いを実感できる体験を通じて提供しなければならない。
変革型のCMOは、ポートフォリオ戦略、製品、価格設定、チャネル、営業、カスタマー体験を横断して連携し、AIが価値提案をどこで変えるのか、購買プロセスをどのように進化させるべきか、そして何が導入を促進するのかを決定する。
これにより、マーケティングは成長を担う機能として位置づけられ、CMOは単にすでに構築されたものを宣伝する責任者ではなく、AIによる価値をどのように成長へと変換するかを描く設計者となる。
3. 顧客への約束を中心に組織を統括・牽引する
AIが単一の部署だけで企業価値を生み出すことはめったにない。一つの成長機会であっても、ポートフォリオ、オペレーティングモデル、顧客体験、商業組織、意思決定プロセス全体にわたる変更が必要となる場合がある。
成長は部署横断的なものであるため、変革型のCMOはこうした領域の垣根を越えて行動する。組織が自らをどのように定義・ポジショニングしようとしているのかと、そのポジショニングを実現するために事業をどのように運営すべきかを結びつける。
これは単に企業が掲げる主張ではない。顧客が期待すべき体験についての「約束」である。ポートフォリオ、オペレーティングモデル、組織内部での意思決定や行動が、その約束を果たすものでなければならず、CMOはそのアライメントを推進する重要な役割を果たす。
4. マーケティングにおけるAI生産性を市場での優位性に変える
企業はマーケティングにおける初期のAI導入を、コスト削減の機会と捉えがちだ。それは価値の一部ではあるが、真の機会のすべてではない。
AIは、コンテンツやクリエイティブ開発といったリソース集中型の活動におけるコストやサイクルタイムを削減すると同時に、マーケティングの推進力を飛躍的に高めることができる。変革型のCMOは、生み出された余力を、より迅速な市場検証、パーソナライゼーション、ポジショニングの強化、企業ナラティブの確立へと再投資できる。
少ないリソースでこれまでと同じ成果物を生み出すためにAIを使うのではなく、CMOは企業のスピード、市場適合性、競争力のある存在感を高めるためにAIを活用できる。こうしてマーケティングは、AIによって強化された生産性をいかに成長と市場優位性に変換できるかを示す先行事例となるのだ。
5. 次の発展段階に向けて企業のポジショニングを再構築する
企業のAIナラティブの構築を求められるCMOが増えている。それは、「AIによって再編されつつある市場で競合するための組織のポジショニング」という、より大きな責任の一つの表れだ。
筆者が最近アドバイスしたあるマーケティング幹部も、まさにこの課題に取り組んでいた。その企業は自社の立ち位置を現代に即したものにするナラティブを望んでいたが、そのAIストーリーは断片的なユースケースやわずかな製品成果に依拠していた。それらをつなぐ企業全体の戦略が存在せず、製品を超えた価値が不明確であり、主張しようとしている内容の一部は実際の事業運営や顧客体験によって裏付けられていなかった。
組織に必要なのは単により良いナラティブではなく、まさに大きな転換点に差し掛かっていたのである。
この幹部は最終的に部門横断的な取り組みをリードし、企業が確実に提供できる戦略を策定したうえで、それを目指すべき顧客体験と結びつけ、信頼に足る市場ポジショニングへと落とし込んだ。
これこそが、単なるストーリーテリングと企業価値創出の違いである。マーケティング部門に手渡されたストーリーを磨き上げるのが役割ではない。組織が信頼性をもって約束し、提供できる未来を共に構築することなのだ。
企業が今取り組むべきこと
「AIがマーケティングを変革するかどうか」はもはや問いではない。真の問いは、企業が価値を創出するプロセスをAIによって変革するうえで、CMOをその推進役として正しく位置づけられるかどうかなのだ。
そのためには、CMOを全社的な成長アジェンダの策定に関与させ、価値創出の方法に影響を与える権限と部門横断的なアクセスを与え、単なるマーケティング活動の成果ではなく企業全体の成長成果に基づいてその役割を評価する必要がある。
CMOを下流のプロセスの責任者にとどめる企業は、AIを主にマーケティングの高速化や低コスト化のために利用し、その後で事業部門が構築したものを説明するよう求めるだけにとどまるだろう。一方でCMOを全社的な成長リーダーとして位置づける企業は、AIを活用して次の成長曲線を特定し、顧客への約束を中心に組織を一体化させ、その約束を市場価値へと転換することができる。
AIをめぐる競争において、優位性はテクノロジーを利用できることだけからは生まれない。そのテクノロジーを、市場が認め評価する成長へと変える能力から生まれるのだ。CMOを経営の輪から外すことは、単なるマーケティング上の見落としではない。それは企業価値創出における重大な失策である。



