私はこうしたことを何度も見てきた。経営者が、最も優秀な営業担当者、最も鋭いエンジニア、あるいは最も信頼できるオペレーション担当者を管理職に昇進させる。すると1年もたたないうちに、その人は燃え尽きてしまうか、かつて所属していたチームが崩壊するか、あるいはその両方が起きる。
この判断は理解できる。周囲より一貫して高い成果を出す人がいれば、昇進させるのが当然の報酬のように感じるからだ。問題は、昇進を勝ち取ったスキルと、新しい職務が実際に求めるスキルは別物だということにある。
そのギャップはデータにも表れている。専門家が今「偶発的マネジャー」と呼ぶ、本人が望んだわけでもなく、対応する備えもないままリーダー職に就いた人々が増え、業界を問わずチームの雰囲気を悪化させ、士気を低下させている。英国のChartered Management Instituteによる調査では、管理職に就いた労働者の82%が正式なリーダーシップ研修をまったく受けていなかったことが明らかになっており、同様の傾向は広く見られる。
中小企業の経営者として、個人で成果を出してきた人を管理職に昇進させた、あるいは昇進させようとしているなら、優秀な人材を失う前にそのギャップを埋めるために私が学んだことを紹介したい。
1. 昇進前に準備ができているかを見極める
昇進の決定の多くは、1回の会話で行われる。人事評価、チーム内の誰かの退職、予算枠の発生などをきっかけに、本人が本当に人を率いたいのかをほとんど確認しないまま進む。信頼、敬意、従業員エンゲージメントを促進し、高業績の組織文化づくりを支援するコンサルティング会社HPWPの社長、グロリア・セント・マーティン=ローリーは、この問題をこう表現する。「私たちは、その人が仕事をするのが非常にうまいという理由で昇進させがちです。そして突然、その仕事をしている人たちを率いる方法を魔法のように理解していることを期待してしまう。この2つはまったく異なる能力です」
私は誰かをリーダー職に昇進させる前に、この点を重く受け止めている。優秀な実務者だから優秀なマネジャーになるはずだと決めつけるのではなく、まずは小さなプロジェクトを任せたり、チームに入ったばかりの人のメンターを務めてもらったりして、低リスクで本人が自分の適性を確かめられる機会を与える。そこから重要なことが見えてくる。その人は他者を育てることを楽しめるのか、それとも自分の数字を達成することだけを楽しんでいるのか、という点だ。
2. 人が辞める原因となる具体的な行動を訓練する
BambooHRの最近の調査では、退職した従業員の90%が「上司が決断に影響した」と答え、58%が上司の全般的なスタイル(マイクロマネジメントや一貫性のなさなど)を退職の主因に挙げている。コミュニケーション不足や建設的なフィードバックの欠如も共通する要因で、それぞれ3分の1以上の回答者が指摘している。
これは有用な手がかりになる。新任マネジャーを幅広いリーダーシップ研修に参加させるのではなく、私は人が辞める理由に直接結びつく具体的な行動に焦点を当てる。仕事を細かく監視するのではなく従業員に真の自律性を与えること、批判ではなく支援として受け止められるフィードバックを行うこと、単なる進捗確認ではなく実際の対話となる1対1の面談を実施することだ。こうした点を具体的に訓練すれば、人が実際に職場を去る理由に対応できる。
3. 新任マネジャーには肩書だけでなく支援体制を与える
最後の要素は、ほとんどの企業が完全に見落としている点だ。昇進が発表された後に何が起きるのか、である。あまりにも多くの場合、新任マネジャーには新しい肩書と祝福のメールが与えられるだけで、それ以外は何もない。その後は、残りを1人で何とかすることを期待される。
その沈黙の代償は大きい。SHRMの調査によると、新任マネジャーの60%が就任後24カ月以内に失敗し、半数近くが仕事に関連するストレスを理由に1年以内に辞める可能性が高いと答えている。私はすべての新任マネジャーに、同じく初めて管理職になった人たちによる小規模なピアグループ、または直属の上司との体系化された90日間のチェックインのいずれかを組み合わせている。そうすることで、問題が6カ月目ではなく1カ月目に表面化する。
最高の成果を出す人材に必要なのは、肩書以上のものだ
私は、優れた個人プレーヤーを、率いる方法を教えないまま管理職にした結果、失ってしまう企業をあまりにも多く見てきた。その本能は理解できる。だが、準備されていない仕事を高業績者への報酬として与えることは、報酬ではない。失敗の伏線である。
幸い、そのギャップを埋めるのに大がかりなことは必要ない。昇進を誰かの成長の終着点ではなく、出発点として扱うだけでいい。
最高の成果を出す人材を昇進させようとしているなら、正式に決定する前に立ち止まってほしい。自分はその人が率いるための土台を整えているのか、それとも新しい肩書を渡し、残りは自力で何とかしてくれることを願っているだけなのかを、自問すべきだ。



