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2015.12.31

米政権 石油業界を冷遇の理由

iurii / shutterstock

原油価格が1バレル当たり35ドル(約4,200円)を下回った。石油業界ではすでに10万人以上が解雇されたが、職を失う人はまだ増え続けている。
オバマ政権はそれでも、米国経済にとって重要なこの産業の救済の可能性について、無言を貫いている。
石油業界は現在、自動車業界が2008~10年に経験したのと少なくとも同程度の、財政的な困難の中にある。
その石油業界を放置するのなら、クライスラーとゼネラルモーターズ(GM) はなぜあの時、政府によって救済されたのだろうか?答えは米国の経済以外の問題にある。具体的に言えば、「労働組合の政治」の問題だ。

経済的な面からいえばもちろん、原油の値下がりには良い面もある。米国は原油の純輸入国だからだ。原油価格が安くなれば、米経済は強くなる。それに、石油業界が価格の下落で失う分はちょうど、原油を消費する産業にもたらされる恩恵によって相殺される。これらの産業にとっては、生産に必要な投入物が値下がりするからだ。従って、原油価格の下落に伴う国内要因が米経済に及ぼす影響は、実質的にはゼロということになる。その上、輸入原油が安くなるのだから、消費者はさらに得をすることになる。

石油業界が直面している状況は、自動車業界が経験した苦境と、そう大きく変わるものではない。自動車の生産能力が大幅な過剰に陥ったとき、製品価格は下落し、各メーカーは工場閉鎖に追い込まれた。石油会社が現在、新たな油井の掘削を中止し、既存の油井の操業停止まで行っているのと、非常によく似ている。自動車業界の供給過剰は、消費者に車を安く購入できる機会を与えた。だが、米国は自動車の純輸入国でもある。つまり、国内の自動車メーカーが損失を被る以上の利点を、米国の消費者たちは得ていたのだ。

それにも関わらず、現政権の両産業の扱いには驚くほどの違いがある。かつての自動車業界と現在の石油業界が置かれた状況に類似性があるとするなら、この違いはどこからくるのだろうか?

オバマ政権はもともと、クライスラーの救済にも、GMの救済にも関心はなかった(フォードは自力で立ち直った)。救済したのは、自動車工場で働いていた全米自動車労働組合(UAW)の組合員たちなのだ。UAWは民主党の支持基盤の一つで、民主党に多額の寄付を行っている。

クライスラーとGMが通常の破産手続きを行うことになっていれば、組合員たちは年金の一部を失っていただろう。賃金の引き下げや給付の削減にも応じなくてはならなかったかもしれない。政府は連邦破産法に違反して、組合員のための医療給付基金に100億ドル(約1.2兆円)を投じた。法律に基づけば、これは本来、株主たちに優先的に支払われるべき金だった。

そして現在、打撃を受けている石油会社は主に、小規模な生産者や請負業者だ。これらの企業は、選挙のたびに民主党の候補者に数千万ドルを寄付したりなどしていない。従業員たちは、労組加入者たちより少ない賃金で働いている。政治的な駆け引きに欠かせない何かがなければ、オバマ政権はこうした石油会社の支援に関心など持たないだろう。

ただし、石油産業に従事する企業にもその従業員たちにも、少しばかりの良いニュースはある。議会共和党は先ごろ可決したオムニバス歳出法案に、原油輸出禁止規制の撤回を盛り込むことに成功した。石油ブームの再来などとうてい望めるはずもないが、嵐を乗り切るための、少しの猶予と機会は得ることができる。

編集 = 木内涼子

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