5年前にリーダーの成功を支えたスキルは、今日においても有効性を保つには、もはや十分ではないかもしれない。
人工知能(AI)が業務上の責任を再定義し、組織の複雑さが増すなかで、リーダーに寄せられる期待は進化し続けている。それにもかかわらず、多くの組織はいまだにリーダーシップ開発を、継続的な取り組みではなく一回限りの投資として捉えている。
マイクロソフトの「2025年版 ワークトレンドインデックス」によると、82%のリーダーが自身の組織は戦略や運用の核心部分を再考すべき極めて重要な局面に達していると考えている。同時に、80%の従業員が仕事を完遂するための時間やエネルギーが不足していると報告している。
これらの調査結果は、拡大する課題を浮き彫りにしている。リーダーに求められるものは、彼らが確立してきた習慣や能力の多くよりも速く変化しているのだ。
リーダーシップの有効性は、恒久的な達成ではない。職場で期待される役割が進化するにつれて、時代遅れになったり、軽視されたり、不十分になったりし得るスキルに対し、継続的に投資する必要がある。
ゼンガー・フォークマン(Zenger Folkman)の研究は、リーダーが能力の維持と強化を怠った場合に、とりわけ大きな影響に直面する3つの領域を明らかにしている。
1. デジタルフルーエンシー(活用能力):遅れをとる代償は先んじる利益よりも大きい
AIが日常のビジネスオペレーションに組み込まれるにつれて、デジタルフルーエンシー(デジタル活用能力)は、特定の専門的な強みから、リーダーに当然求められる基本的なスキルへと変化している。
ゼンガー・フォークマンがリーダーのデジタルスキルについて行った調査では、際立った不均衡が明らかになった。
デジタルスキル評価で下位10%に位置するリーダーは、リーダーシップ全体の効果性評価においても下位22パーセンタイルにとどまっていた。
一方、デジタルスキルで上位10%に位置するリーダーは、リーダーシップ全体の効果性評価において、平均を17パーセンタイルポイント上回るにとどまった。
この結果が意味するところは大きい。卓越したデジタル能力を示すリーダーは、他者から見た評価において多少のメリットを得るかもしれない。しかし、基本的なデジタル知識や能力を欠くリーダーは、はるかに大きな不利益を被るということだ。
高いデジタルスキルが期待される場面が増える一方で、デジタルスキルが低いと、リーダーとしての信用全体が損なわれる恐れがある。
この発見は、組織がAIの導入を加速させるなかで、特に重要な意味を持つ。
マイクロソフトの「2024年版 ワークトレンドインデックス」によると、調査に応じたリーダーの66%が「AIスキルを持たない人物は採用しない」と答え、71%が「経験は浅いがAIスキルを持つ候補者」を「経験は豊富だがAIスキルがない候補者」よりも優先して採用したいと回答した。
これらの結果は実際の採用実績ではなく採用意向を反映したものに過ぎないが、技術力に対する期待がどれほど急速に変化しているかを物語っている。
経験豊富なリーダーにとって、これは厳しい現実を突きつけている。長年にわたる業界知識、すぐれたコミュニケーション能力、的確な判断力は依然として価値があるものの、新しい技術に適応しようとしない姿勢をカバーするには不十分かもしれない。
デジタルフルーエンシーとは、プログラマーや技術専門家になることをリーダーに求めているわけではない。新興技術が自社、従業員、顧客、そして競合における立ち位置にどのような影響を与えるかを理解することが求められているのだ。
また、リーダーは技術に対する自身の姿勢が、従業員の変化への向き合い方に影響を与えることを認識しなければならない。
新しいツールの可能性を理解せずに一蹴するリーダーは、従業員の挑戦意欲を削ぐ可能性がある。反対に、好奇心を示し積極的に学ぼうとするリーダーは、従業員が安心して新しい能力を開発できる環境づくりを後押しできる。
効果的なリーダーが取り組むべきこと:
あらゆる最新技術をマスターしようとするのではなく、自分の職務に最も関連性の高いツールを特定し、その実践的な活用方法を理解するために時間を投資すべきだ。
従業員に対してテクノロジーが業務をどう変えているかを定期的に問いかけ、節度ある試みを推奨し、自身のデジタルスキルを向上させる機会を追求すべきである。
そしておそらく最も重要なのは、リーダー自身が「自分が知らないこと」を素直に認める姿勢を持つことだ。
最大の懸念は、新しい技術に疎いことではない。過去の専門知識があるからといって、学び続ける必要はないと思い込むことなのだ。
2. 組織の有効性:複雑性の増大には、より優れたリーダーシップの仕組みが必要
リーダーシップの難易度を高めている要因は、テクノロジーだけではない。
組織は、増大する情報量、拡大するコミュニケーションチャネル、変化する規制、そしてますます複雑に絡み合う業務プロセスへの対応を迫られている。
テクノロジーは個々のタスクを容易にした一方で、スピード、レスポンスの早さ、常時対応への期待を新たに生み出した。
こうした要求は、従業員とリーダーの双方に大きな負担を強めていることが研究により示唆されている。
マイクロソフトの「2023年版 ワークトレンドインデックス」によると、調査対象となった労働者の68%が勤務時間中に集中できる時間が不十分だと回答し、62%が情報検索に時間を取られすぎていることに苦慮していると答えた。
同調査ではまた、従業員が時間の平均57%を会議、メール、チャットなどのコミュニケーションに費やしており、資料作成やプレゼンテーション作成などの成果物作成に費やす時間は43%にとどまることが判明した。
これらの結果は、重要な問いを投げかけている。「リーダーはより生産的になっているのだろうか。それとも単に多忙になっているだけなのだろうか」
責任範囲が広がるにつれ、多くのリーダーは長時間労働をし、より多くの会議に出席し、より多くの意思決定を自ら管理しようとすることで対処しようとする。
あいにく、キャリアの初期に成功をもたらした習慣は、責任が重くなるにつれて障害となる場合がある。
個人として成果を上げるプレイヤーであれば、難しい問題を自力で解決したことが評価されるかもしれない。しかし、上級リーダーになればなるほど、他者が問題を解決できる環境を整えることで成果を出すことが求められる。
この移行には、組織づくり、優先順位付け、そして権限委譲に対する異なるアプローチが必要となる。
すぐれたリーダーは、すべての細部を自ら管理することが自分の責任ではないと認識している。明確な優先順位を設定し、有能なチームを築き、業務が効率的に進む仕組みを作ることこそが責任なのだ。
リーダーが身につけるべき最も重要なスキルのひとつは、自らの直接的な関与が必要な業務と、他者に委任するか不要として排除できる業務を見極めることである。
その規律がなければ、リーダー自らが組織のボトルネックになってしまう危険性がある。
効果的なリーダーが取り組むべきこと:
リーダーは自身の時間の使い方と、それらの活動が組織の優先事項に有意義に貢献しているかを定期的に検証すべきだ。
会議には明確な目的を持たせなければならない。意思決定の権限は適切に分散されるべきだ。従業員はどの責任が自分にあり、どのような場面でリーダーの関与が必要かを理解しておく必要がある。
また、リーダーは互いの強みや視点を補完し合える信頼できる仲間を見出すべきである。
権限委譲は単なる業務量削減のための手法ではない。複雑さを管理し、人材を育成するために不可欠な能力なのだ。
組織がますます複雑化するなかで、リーダーシップの有効性は業務をさらに増やすのではなく、簡素化する能力に大きく依存することになる。
3. 人間関係の構築:リーダーシップ有効性に生じる63パーセンタイルポイントの差
3つの能力のなかで、人間関係の構築は最も軽視されがちなスキルかもしれない。
リーダーは専門的な技術知見、戦略的思考、業務知識の習得に多大な時間を費やしがちだ。しかし、仕事上の人間関係の質こそが、どれほど効果的にチームを率いることができるかにきわめて大きな影響を与える。
ゼンガー・フォークマンの研究は、この関連性の強さを示している。
人間関係構築の評価が下位25%に含まれるリーダーは、リーダーシップ全体の効果性評価が平均で19パーセンタイルにとどまった。
一方で、上位25%に評価されたリーダーの平均は82パーセンタイルに達した。
これは、リーダーシップ全体の有効性において、実に63パーセンタイルポイントもの差があることを示している。
この関係は相関関係であり、人間関係の構築だけがリーダーシップの有効性を高める直接の原因であると証明するものではないものの、その差の大きさは特筆に値する。
同社の研究ではさらに、人間関係構築スキルに長けたリーダーは、コミュニケーション、他者へのインスピレーション、ストレッチゴールの設定、戦略的視点、技術的専門知識など、測定された全19項目のリーダーシップ・コンピテンシーにおいて高い評価を受ける傾向があることもわかった。
なぜ、ひとつのコンピテンシーがこれほど多くの他の要素と結びついているのだろうか。
それは、リーダーシップの有効性が、リーダー自身の知識や個人の成果だけによって決まるわけではないからだ。
周囲の人間が、そのリーダーと一緒に働く中で何を体験し、どう感じるかによっても形成されるのである。
同じ野心的な目標を掲げる2人のリーダーを例に考えてみよう。
1人は、時間をかけて信頼関係を築き、従業員の悩みを理解し、彼らの成功に真摯な関心を示してきた。
もう1人は、すぐれた技術的専門知識を持っているものの、チームメンバーとは距離を置き、ビジネスライクな関係しか維持していない。
発せられるメッセージがまったく同じであっても、従業員の受け止め方や反応は大きく異なる可能性がある。
強固な人間関係は、コミュニケーション、協働、責任感、そして影響力の基盤となる。
また、組織の変革期においては、人間関係の強さがとりわけ重要になる。
リーダーを信頼していればこそ、従業員は不安を口にし、アイデアを共有し、困難な対話にも向き合おうとするのだ。
しかし、人間関係には継続的な配慮が必要である。
キャリアを重ねるにつれ、リーダーはすでに確立されたプロフェッショナルネットワークで十分だと考えてしまいがちだ。信頼できる同僚、長年のメンター、顔なじみの関係者がいるからだ。
しかし、組織は絶えず変化する。
従業員は入れ替わり、チームは再編され、役割は変わり、新たなステークホルダーが登場する。
かつてリーダーの効果性を支えていた人間関係の影響力が薄れる一方で、新たな関係の構築が求められるようになる。
どれほど強固に見える既存の関係であっても、メンテナンスを怠れば悪化しかねない。
効果的なリーダーが取り組むべきこと:
リーダーは人間関係の構築を、交流イベントやキャリアの節目だけに限定された作業ではなく、継続的な責任として捉えるべきである。
これには、新入社員を知ること、部門を超えたつながりを維持すること、異なる経験を持つ人からの視点を求めること、そして同僚と定期的にコミュニケーションをとることが含まれる。
なかでも「話を聴くこと」は特に重要だ。
他者のアイデアや懸念に対して常に心から関心を示すリーダーは、問題を早期に発見し、信頼を深め、協働を促進しやすい立場に立つことができる。
また、人間関係は必要になる前に築いておく必要がある。
助けが必要な時だけ連絡してくるようなリーダーは、局面が困難になった際に必要な信頼を築くのに苦労するだろう。
最も強い仕事上の人間関係は、一貫した対話、相互のリスペクト、そして他者への心からの思いやりによって育まれる。
なぜリーダーシップ開発には継続的な投資が必要なのか
これら3つの能力には、重要な共通点がある。それは、一度身につければ永久に完了するような性質のものではないということだ。
デジタルスキルはテクノロジーの変化に合わせて進化させなければならない。
組織における習慣は、責任や複雑さが増すにつれて適応させる必要がある。
仕事上の人間関係は、人、チーム、組織が変わるにつれて維持し続けなければならない。
これら3つは、いわば「リーダーシップを維持するための継続的なコスト」なのである。
この事実は、リーダーシップ開発を単なる一発限りの研修プログラムとして捉えがちな組織にとって課題を突きつけている。
マネージャーが研修に参加し、新しいスキルを学んで職場に戻る。組織はその投資が完了したとみなすかもしれない。
しかし、そのマネージャーを取り巻く環境は変化し続けているのだ。
実践し、フィードバックを受け、時間をかけて能力を強化する機会がなければ、最初の開発投資の価値は薄れていってしまう。
この原則は、経験豊富な経営幹部にも同様に当てはまる。
過去の成功実績が、将来の成果を保証するわけではない。それどころか、過去の成功がかえって確立された習慣を疑うことや、新たに生じた弱点を認めることを難しくさせる場合さえある。
リーダーが自分自身に問いかけるべき最も価値のある設問は、「今日成果を出せているか」ということだけではなく、「明日必要となる能力を身につけているか」ということだ。
それには、フィードバックを求め、改善点を見極め、プロフェッショナルとしての成長に絶えず投資する姿勢が不可欠となる。
また、リーダーシップ開発は形式的な研修プログラムに限られないという認識も必要だ。
新しいテクノロジーを学ぶこと、権限委譲のプロセスを改善すること、あるいは誰かとの人間関係を強めることは、比較的ささやかな取り組みに見えるかもしれない。
しかし、これらの行動を継続して実践すれば、大きな成果をもたらすことができるのだ。
明日必要とされるリーダーシップスキル
組織は今後も新しいテクノロジーを導入し、責任範囲を広げ、変化するビジネス環境に適応し続けるだろう。
リーダーはあらゆる外部環境の変化のスピードをコントロールすることはできないが、それにどう備えて対応するかは自らコントロールできる。
研究成果が示すように、デジタル能力の維持、組織の複雑さへの対処、そして強固な人間関係の構築は、リーダーシップの効果性を維持・持続させるための極めて重要な要素である。
これらの能力は、業績の達成や大規模な戦略の立ち上げといった、目につきやすいリーダーシップの成果ほど注目を集めないかもしれない。
しかし、これらを軽視することは、まさにそうした目標達成に向けたリーダーの能力そのものを根底から崩しかねない。
最も成果を上げているリーダーは、過去の成功をもたらしたスキルが自動的に将来のパフォーマンスを支えてくれるとは決して考えない。
彼らは、すでに大きな成功を収めた後であっても、リーダーシップには継続的な投資が必要であることを十分に理解している。
リーダーが直面している課題は、職場からの期待が今後も変化し続けるかどうかではない。
それらの変化に合わせて自らも変化するために、必要な投資を行っているかどうかということなのだ。



