未来型モビリティと次世代リーダー イノベートするポルシェ

photograph by Junji Hirose | hair&make-up by Azuma スーツ¥754,000、シャツ¥93,000、タイ¥28,000、シューズ¥149,000、チーフ¥9,000(すべてブリオーニ/ブリオーニジャパン☎03-3234-0022)

新しいポルシェと次世代ビジネスリーダーが邂逅。環境への配慮と走る喜びは、聡明な選択で両立する。
Interview with Ryota Matsuzaki

「富士スピードウェイに行きませんか?」 元F1レーサーの片山右京からそう言われたのは、松崎良太が楽天に転職して3年目の2002年のことだ。同僚がネットの中古車情報でマニュアル・トランスミッションのポルシェを見つけた。片山の愛車、ブルーのボクスターSだった。購入を決め、車を引き取りに事務所に行くと本人が現れたのだ。松崎は「初ポルシェ」をこう振り返る。「間違いなく人生最高の瞬間でした」

片山はボクスターの助手席に松崎を乗せると、いきなりフル加速で直線からリアを流し、そのままターンさせたのだ。白煙のなか、ジムカーナコースを舞う元F1レーサーの連続360 度ターン。だが片山は、ステアリングを少し動かしながら「このへんの感覚がすごくいいんだよね」と冷静に言う。松崎は、片山がポルシェを乗りこなすのを目の当たりにしてこう思った。「体の延長線上にポルシェがあり、走ることを楽しんでいる」

車は走る、止まる、曲がる、が基本だが、それを自然に自分の思い通りにコントロールすることがいかに大事か。そしてそこに大きな「価値」があることに松崎は気づいたのだ。彼はそれまで、他社の車に乗っていた。「だけどそれは、乗用車メーカーがスポーティーな車をつくったものにすぎませんでした。一方でポルシェはもともとスポーツカーの会社。そこからどんどん乗用車タイプに歩み寄り、いまのかたちになった。ルーツが全く違うんですね」

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松崎には、起業家精神を学んだ先輩がいる。日本興業銀行時代に机を並べた現・楽天会長兼社長の三木谷浩史だ。「楽天の創業当時、世間は電子商取引(EC)に対して懐疑的でした。だけど三木谷さんは自分のビジョンを信じ、ぶれることなく『価値』の向上に努めた。その行動様式こそがスタートアップの精神であり、イノベーションの源泉だと思うのです」

松崎はMBA留学を経て興銀を退社し、2000年楽天に入社した。執行役員として社長室長や経営企画室長、米国法人の上級副社長を歴任し、国内外のM&A案件を多数手掛け、その後自らも起業家の道を選んだ。11年にスタートアップや新規事業を支援する「サードギア」、そして13年に「きびだんご」を創業し、購入型のクラウドファンディング(CF)にECを組み合わせるという新しいビジネスモデルを構築したのだ。

きびだんごのシステムは、事業者が新しい製品やサービス、イベントなどのアイデアをサイトで公開し、それに共感した消費者がプロジェクトの実現に向けて資金を提供するもの。消費者はリターンとして世の中にまだない未来の製品を受け取る。その誕生に立ち会うワクワク感が「価値」となり、プロジェクトが終了した後にもショッピングページで交流が続く。

きっかけは、米国のCF「キックスターター」をユーザーとして愛用したことだった。「世の中に埋もれているアイデアや人を支援する仕組みに共感したのです。ただ、ひとつ残念だと思ったのは、キックスターターのケースだと、プロジェクトの実施期間は大いに盛り上がるのに、終わったらそこで消費者は製品にリーチできなくなる。非常にもったいないと思いました」

そこで松崎は、CFにECをつけるというアイデアを思いつく。既存の異なるふたつの要素を組み合わせたイノベーションだ。「イノベーティブなモノやサービスは、最初は往々にして懐疑的な見方をされるもの。でもそこで自分を信じ、諦めずに追求し続ける。そうしてこそ新しい『価値』が生まれる。未来をどう定義するか、なのです」

ポルシェにも異なる要素を組み合わせたイノベーティブな車がある。スポーティーでラグジュアリー、それでいてエコロジー。ポルシェの新しい「価値」を提供するパナメーラS E-ハイブリッドだ。環境に配慮することと、走りを楽しむことは両立する―。それは、ポルシェが未来に向けて提出した答え。次世代のビジネスリーダーは、そんなポルシェの精神を体現したサスティナブルなプラグイン・ハイブリッドを選択した。

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「パナメーラは美しくてワクワクする未来型のモビリティですね。特徴的なのは運転して初めて『価値』が生まれるということ。5つの走行モード、すなわちEパワー、ハイブリッド、Eチャージ、スポーツ、そしてスポーツ・プラスを状況に応じて賢く使いこなすことが楽しいのです」首都高に入った松崎は、すぐにお気に入りのスポーツモードに切り替えた。アクセルペダルを踏み込んでブースト機能を作動させ、エンジンとエレクトリックシステムを同時に動かす。ハイブリッドの特性を生かし、その両方からパワーとトルクを引き出すことで、ダイナミックなパフォーマンスを発揮させるのだ。シートに体が押しつけられる鋭い加速感を得た彼は、そしてこう言うのだった。「私のポルシェの価値がここにある。人生最高の瞬間は続いています」

まつざき・りょうた◎1968年、東京都生まれ。91年慶應義塾大学経済学部卒業、日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)入社。投資銀行業務を経て97年コーネル大学大学院修了(MBA)。ニューヨーク支店勤務後、2000年楽天入社。執行役員やRakuten USA上級副社長を歴任。11年サードギア設立。13年ゴールフラッグ(現・きびだんご)設立。

文=Hideyuki Kitajima 編集=Tsuzumi Aoyama

この記事は 「Forbes JAPAN No.19 2016年2月号(2015/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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