ほぼすべてのビジネスリーダーは、新しい市場への進出を企業の成長における大きな節目と見なしている。それは事実である一方で、ある意味でのリセットでもある。
企業が犯す最大の過ちの一つは、このような規模拡大を単なる地理的な違いの問題として扱うことだ。一つの市場で成功を収めたからといって、最小限の努力で自動的に別の市場でも成功できると考えがちだが、現実にはそれよりもはるかに困難である。
既存のビジネスを単に新しい場所に「拡張」するだけでは不十分だ。自社のことをまだ聞いたことさえないかもしれない全く新しい市場と、ゼロから新たな関係を開始するのだと理解しなければならない。また、その市場には独自のニーズが存在し、それを満たすことが求められる。
文化、ビジネス慣行、信頼の獲得方法など、あらゆるものが何らかの点で異なるため、企業はそれに応じた準備をする必要がある。何よりも、「なぜこの市場は、私たちが進出してきたことを気にかけるべきなのか」という根本的な問いに答える準備をしておくべきだ。
「売りたいもの」ではなく「何をもたらすか」から始める
多くの進出戦略は、市場規模や投資の潜在力、現地の顧客が自社製品にニーズを持っているかどうかを検討することから始まる。
しかし、別の問題を見極めることも同様に重要だ。それは「自社はこのエコシステムにどのような価値をもたらすのか」ということである。私の経験上、あまりにも多くの企業が「進出してきた」というマインドセットだけで参入し、勢いが自然についてくると期待している。しかし、現地の顧客がそうした物語に惹かれて自らアプローチしてくることは滅多にない。「進出してきたからといって、だから何だ。なぜあなた方を選ばなければならないのか」となるわけだ。
より強固なアプローチをとるには、製品単体を超えて、その地域に何をもたらそうとしているのかを語ることを優先すべきだ。専門知識かもしれないし、現地産業向けの教育的取り組みや、地域コミュニティとのパートナーシップかもしれない。内容は様々であり得るが、いずれにしても「何か」が不可欠である。
新しい市場への進出とは、その表面に「乗る」だけで存在し、それを成功と呼べるようなものではない。信頼と受容を獲得するためには、実際にその一部にならなければならない。単に製品を販売する以上に、企業はその地域における自社の存在意義を売り込まなければならない。
ローカライズを「翻訳」にとどめない
私の経験上、「ローカライズ(現地化)」は国際ビジネスにおいて最も誤解されている言葉の一つだ。多くの企業にとってローカライズとは、ウェブサイトやアプリを翻訳し、現地のSNS管理者を雇う程度を意味しており、それ以上のPRやマーケティングキャンペーンの調整は最小限にとどまっている。
しかし実のところ、それは単なる「翻訳」にすぎない。真の意味でのローカライズとは、現地の現実に合わせて、その地域における企業の存在感全体を調整することを意味する。コミュニケーションのスタイルや主要チャネル、スポークスパーソン、顧客体験の構築方法、採用戦略、パートナーシップなど、これらすべてを変更する必要が生じる可能性がある。
これをより明確に理解するために、異なる地域を比較してみよう。例えば欧州や英国は、MENA(中東・北アフリカ)やアジア、中南米とは大きく異なる慣行に従って機能する傾向がある。アジアだけを見ても、中国、香港、シンガポール、日本(その他多数)など多様な文化が存在し、すべて全く異なる環境である。
例えば私の経験では、香港のビジネス文化は非常にスピード感があり、国際指向が強いため、グローバルブランドを受け入れやすい。ビジネスのコミュニケーションでは英語が広く使われており、国際的メディアも一定の役割を果たしているため、西洋的な背景を持つ人にとって、ここでの多くの慣行はなじみのないものには感じられない。
一方、中国本土は異なる規制環境の下で動いているため、この市場に参入する企業は独自のデジタル環境に適応する必要がある。Google、YouTube、LinkedIn、Xといったプラットフォームは日々のコミュニケーションにおいてほとんど役割を果たさないため、ここで存在感を築くには現地のプラットフォームを研究し、そのフォーマットに合わせてメッセージを適応させなければならない。これは多くのグローバル企業にとって経験の少ないことだ。
つまり、実務においては、地理的に近いにもかかわらず、香港向けに構築したコミュニケーション戦略をそのまま国境を越えて中国本土に持ち込んでも機能しないということだ。企業が信頼性を確立するためのチャネルや方法は大幅に異なることが多く、だからこそ「コピペ」による市場拡大は通用しない。
現地市場は、企業が実際のビジネスの進め方を理解していることを期待しており、それには現地ならではの専門知識が必要となることが多い。長期的な存在感を築くことに本気で取り組むのであれば、その文脈に心から溶け込んでいる人材が必要だ。単にカンファレンスのために飛行機でやって来るような人物ではなく、現地の言語を話し、細かなニュアンスを理解し、対話を上手に進める方法を知っているプロフェッショナルが求められる。
何千マイルも離れた場所から信頼を築くことはできないのだ。
すぐに信頼を築けると考えてはならない
これもまた、私がよく目にしてきたかなり一般的な過ちだ。新しい市場にオフィスを開設することは比較的早く行えるが、信頼を確立することはまったく別の問題である。
この点に対して焦る企業は、一つのメディアキャンペーンを展開したり、現地でのパートナーシップを発表したりするだけでは信頼性を確立するのに十分ではないと判明したときに、失望することが多い。私が自社のクライアントによく話すように、信頼とは企業が存在感を示し続ける中で、時間をかけて築かれるものなのだ。
特に東洋の文化においては、この点が非常に重要であると実感している。パートナーと対面で会い、忍耐強さ、一貫性、そしてその地域に対する真摯なコミットメントを示すことが、本格的に相手にされるための鍵となることが多い。業界イベントや対話に参加するのも一つだが、自社のサービスを宣伝するだけでなく、現地の取り組みを積極的に支援することが、信頼を築く優れた方法となる。
もちろんそれ以上に、自社の行動が発信するメッセージと一致していることを示さなければならない。あらゆるインタビュー、カンファレンスへの登壇、締結するあらゆるパートナーシップは、同じ包括的なストーリーを支えるために機能しなければならない。
市場は献身に報いてくれる。これこそが、人々から信頼を寄せられる企業としてのイメージを築き上げる唯一の方法なのだ。



