AIが自社に何を意味するのかを明確に見極めたいCEOにとって、何より重要な問いは1つだ。AIは自社の業界の利益プールをどう変え、その利益を誰が獲得するのか。
実際にどれだけの利益がかかっているのか
ベイン・アンド・カンパニーは、92業種にわたり、AIが生産、需要、競争優位をどう変えるかを分析した。その結果、2025年から2035年にかけて、世界全体で4.7兆ドル(約738兆円)の企業利益が創出、獲得、喪失の対象になることがわかった。これはインターネットが20年で引き起こした利益シフトの3倍超であり、AIによる変化はその半分の期間で起きる。
インターネットは実際に何をもたらしたのか
インターネットは1995年から2015年にかけて、約1.4兆ドル(約220兆円)の企業利益を動かした。純増として1.1兆ドル(約173兆円)の新たな利益プールを生み、競合企業間で0.3兆ドル(約47兆1000億円)を再配分したのである。注目すべきは、それがこの20年間の利益プール全体の成長の約5分の1にすぎなかったことだ。残りは人口動態、中国の工業化、コモディティサイクルによるものだった。
インターネットの中核的なメカニズムは、顧客に到達するコストを劇的に低下させることだった。その効果が大きかった旅行、ニュース、金融市場インフラ、エンタープライズソフトウェアなどの分野では、業界構造が完全に塗り替えられた。一方で、例えば鉱業、製薬の研究開発、農業のように、その効果が大きくなかった分野では、ほとんど影響は見られなかった。全体として、インターネットは業種の41%を構造的に変革した。
AIはインターネットと何が違うのか
インターネットは流通技術だった。AIは生産技術であり、顧客に到達するコストではなく、業務そのものを遂行するコストを引き下げる。
この変化の背景には2つの力がある。
- 認知AI(Cognitive AI)は、放射線科医による診断や弁護士が作成する契約書のような、専門知識に基づく業務を再構築する。
- 身体性AI(Embodied AI)は、ロボットによる作物の収穫や工場ロボットによる溶接のような、物理的な生産を再構築する。
当面のディスラプションの大半は認知領域で起きるが、身体性AIも急速に追随している。両者を合わせれば、世界経済の活動の大部分を網羅することになる。AIは、インターネットの41%に対し、業種の71%を構造的に変革する。その広がりは1.7倍であり、製薬、医療提供、製造業、プロフェッショナルサービスなど、インターネットがほとんど手をつけなかった高付加価値分野にも及ぶ。
4.7兆ドル(約738兆円)はどこから生まれるのか
総額は3つのメカニズムに分けられる。
現在のAIをめぐる議論では生産性が中心に置かれているが、それが占めるのは機会全体の4分の1未満にすぎない。約75%はイノベーションと競争環境の再編にあり、その多くは、すでに名を挙げることのできる競合企業の間で起きる。
自社の業界は4つのクラスターのどれに属するのか
企業とその業界がこれらのメカニズムによってどのような影響を受けるかは、4つのクラスターのどれに属するかによって決まる。
製薬、医療提供、航空宇宙・防衛、決済などの「再配線」される分野では、独自データと規制上の承認を持つ既存企業がさらに先行できる。例えば、AIが医療画像分野に入り込むにつれ、利益プールを獲得しているのはAIスタートアップではなく、医療システムや医療機器メーカーである。一方、エンタープライズソフトウェア、自動車、コンサルティングでは、勝者はあらかじめ決まっておらず、近い将来は既存企業間の競争に、新規参入企業も加わる展開になる。
CEOはいま何をすべきか
すべてのCEOは、自社の業界におけるAIの機会がどこにあるのか、そしてそれが生産性、イノベーション、競争をめぐる優先順位をどう形づくるべきかについて、明確な予測を立てる必要がある。その確信が強いほど、競合他社に先んじて自信を持って行動に移せる。
最も重要なのは、次の3つの取り組みである。
- AIが自社の将来の利益プールをどう形づくるかを見極める。
- 将来像と、その未来でリーダーの地位を獲得するために今日何をすべきかについて明確なビジョンを示し、取締役会、経営陣、現場の実行部隊を結束させる。
- AIを活用して、いま独自データとワークフローを構築する。先行者は、競合他社に対して直線的ではなく指数関数的に拡大する複利的な優位を得る。
4.7兆ドル(約738兆円)のシフトはすでに動き出している。あなたは動き出しているだろうか。



