リーダーはカルチャー(企業文化)を、オフィス環境や福利厚生、リモートワークの規程、あるいは壁に飾られた行動指針といった、あたかも「アメニティ(快適な環境設定)」であるかのように語りがちだ。しかし、カルチャーが最も重要な意味を持つのは、誰も見ていないときである。
火曜日に出社する1人の従業員を考えてみよう。その日1日の中で、彼女は職務記述書には決して現れない選択を何十回も下すかもしれない。顧客にはすぐ返信するのか、明日に回すのか。問題がまだ小さいうちに提起するのか。間違っていると思うアイデアに異議を唱えるのか。苦労している同僚を助けるのか。サプライヤーをパートナーとして扱うのか、敵対者として扱うのか。
組織全体でこれらの決断を掛け合わせてみてほしい。100人の従業員が毎日このような選択を100回行うとすれば、それは少なくとも部分的には企業カルチャーによって形成された1万回の決断ということになる。1万もの決断をすべて監督できるCEOなど存在しない。だからこそ、カルチャーがその隙間を埋めなければならないのだ。
カルチャーは「境界線」に現れる
カルチャーを理解する最も簡単な方法は、ルールが及ばなくなったときに何が起きるかを見ることだ。企業は明確な状況に対してポリシーを作成することはできるが、あらゆる決断に対してルールを作ることはできない。重要な選択は、多くの場合その「境界線」に存在する。
プロジェクトが軌道から外れ始めたとき、すぐに手を挙げるか、それとも1週間問題を隠すか。サプライヤーがミスを犯したとき、責任転嫁する相手を探すか、それとも一緒に解決に取り組むか。これらの答えは、定められたプロセス以外の場所で、カルチャーがいかに行動を決定づけているかを示している。
LIDDを設立する前、私は以前の勤務先で異なる前提条件を身につけていた。私たちは自分たちの業務に長けていたが、居心地のよい環境に甘んじていた。クライアントは自分たちを待ってくれるものとして扱っており、私自身も無意識のうちにその態度を受け継いでいた。
自分の会社を立ち上げたとき、状況は一変した。電話は鳴らなかった。ようやく顧客を獲得できたとき、私は会社の生存がかかっているかのように、あらゆる機会に真摯に向き合った。迅速に返答し、入念すぎるほどの準備をし、ソリューションを何度も練り直し、予算内で予定通りに成果物を納品した。私が気づいたのは、私たちが養うべき最も重要な感覚の1つが「緊迫感(スピード感)」だということだった。それはパニックや無謀さではなく、顧客の問題を文字通り最も重要な課題として扱うことだ。なぜなら、実際に重要だからである。やがて、特別な努力を要していたことが、私たちの日常の働き方となっていった。
カルチャーは具体的でなければならない
リーダーが犯しがちなもう1つの間違いは、カルチャーを曖昧な言葉で明文化しようとすることだ。「誠実さ」「人間優先」「卓越性」「チームワーク」といった具合である。
これらの言葉に反対する従業員はほとんどいないだろう。そして、それこそが問題なのだ。これらの言葉は何をすべきかを具体的に教えてはくれない。私の経験上、有用なカルチャーの原則とは、行動を変えるのに十分な具体性を備えているものだ。
ザ・リッツ・カールトンでは、「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女である」というモットーが、従業員が顧客や同僚に対してどのように接すべきかの基準を確立している。同社が顧客の問題解決のために従業員1人あたり最大2,000ドル(約31万円)まで決裁権限を与えていることは、この原則に実践的な裏付けを与えている。
重要なのは、すべての企業がLIDDのように緊迫感を重視すべきだとか、リッツ・カールトンのような資金を顧客に費やすべきだということではない。指示が途絶えたときに、従業員にどのように行動してほしいかを説明する原則をすべての企業が明確に定めるべきだということだ。
リーダーに逃げ道はない
リーダーが気づいているかどうかに関わらず、従業員は常に経営陣の手本や雰囲気を察知している。
私はこれを、絶大な尊敬を寄せていたものの、気難しさでも有名だったあるメンターから学んだ。ある朝、彼がひどく不機嫌な様子でオフィスに入ってきて、目を合わせず、苛立った様子で廊下を歩くことがあった。全員がその空気を感じ取った。私たちはそれに応じて行動を調整した。静かにし、うつむき、彼から距離を置いたのである。
リーダーの機嫌はサインとなる。トップの人間が気短であれば、周囲は慎重になる。リーダーが他者を邪魔者扱いすれば、従業員は注意を払うことが貴重な資質であると学ぶ。リーダーが好奇心、寛容さ、情熱を示せば、周囲の人間もそうした行動をとりやすくなる。
リーダーは毎分毎秒ハッピーな演技をする必要はないが、安定感を提供する責任がある。
採用もまたカルチャーを形成する
人を採用するとき、受け入れるのは単なるその人物のスキルだけではない。仕事はどのように進められるべきかという、その人物の前提条件も一緒に導入することになる。
新卒で入社する従業員には特別な強みがある。「普通」がどのようなものかについての固執したアイデアをまだ持っていないことだ。中途採用の経験者は貴重な専門知識や判断力をもたらすが、他社で培われた習慣も持ち込む。彼らは前職のアプローチの方が優れていると本気で信じている場合がある。実際にそうであることもあるだろう。しかし問題は、そのアプローチがこれから築こうとしているカルチャーに合致しているかどうかだ。
したがって、オンボーディング(新規参入者の定着支援)は、単に仕事の手順を教えるだけにとどまってはならない。組織がどのように思考しているかを説明する必要がある。LIDDでは、返信のスピード、クライアントや同僚への接し方、優れた仕事とはどのようなものか、トラブルが発生したときにどう行動すべきかについての期待事項を最初から明確に設定している。このアプローチによるプラスの成果は事業全体で見られるが、私が最も誇りに思っているのは、LIDDのスタッフがサプライヤーを成功のための重要で大切な貢献者として扱っていることだ。
拡大に耐えるカルチャーを築く
小規模な企業であれば、直接の手本に頼ることができる。しかし組織が拡大するにつれ、それは不可能になる。最終的には、創業者不在でもカルチャーが維持されなければならない。カルチャーを変えようとしているCEOに対して、私は以下の3つのことから始めることを勧める。
1. 執務室から出る。人々が実際にどのように会社を体験しているかに注意を払う。従業員と対話し、人々がどのように関わり合っているかを観察する。
2. 自らが手本となる行動をとる。従業員に顧客を深く思いやってほしいのであれば、自らその姿勢を示す。緊迫感を求めるなら、自ら迅速に対応する。温かさを求めるなら、自らそれを示す。
3. カルチャーに名前をつける。誰からも見られていない場面で選択を迫られたとき、従業員にどのように行動してほしいかを端的に表す原則を見つける。そして、それが本能となるまで繰り返し強調する。
カルチャーとは、ビジネスの下で動いている目に見えないシステムだ。毎日、社内の至るところで何千もの小さな決断がなされている。経営者自身が1万もの決断をすべて下すことはできないが、経営者がいないときに、カルチャーが人々をどのような行動に駆り立てるかを決めることはできるのだ。



