2026年6月、ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、コミュニケーターたちが何十年も待ち望んでいたニュースを報じた。最高広報責任者(CCO)が、組織図の端から中央へと移動したというのだ。データもこの見方を裏付けている。コーン・フェリーによると、CCOの半数近くがCEOに直接報告しており、戦略が策定される現場で日々、戦略の方向づけに関与している。しかし、こうした影響力の変化は、物語の一部を伝えているにすぎない。極めて重要で影響力の大きいコミュニケーション業務のいくつかは、組織のずっと現場に近い場所で行われており、その多くは肩書に「コミュニケーション」や「広報」の文字を持たない人々によって主導されている。
以前の記事で筆者は、従業員のエンゲージメントだけでは定着率を予測できなくなったと主張した。人々を離職に追い込むのは、多くの場合「摩擦」である。全社的な最新情報の共有漏れ、コロコロ変わる優先順位、情報を自分なりに解釈して部下に説明せざるを得ないマネージャーの負担などだ。コミュニケーションは、そうした摩擦が生じる場であると同時に、摩擦を取り除く場でもある。そして大半の組織には、その摩擦を取り除く作業を静かにこなしている人材が存在する。
戦略と実行の隔たりを埋めるのは誰か
どんな組織にも、役員会で決定された事項を受け取り、それを現場の従業員にしっかり浸透させる人物がいる。人事、社内広報、業務、IT、時には現場そのものにそうした人物が見つかるだろう。彼らは自発的に連絡事項を書き換え、4分間のスキマ時間にスマートフォンを見ている人にも理解できる内容に変換する。どのシフトのスタッフがメッセージを見落とすかを把握し、事前に手を打つ。方針変更が現場に悪影響を及ぼしていることにいち早く気づき、それが離職率や生産性、安全面の問題として顕在化する前に対処を促す。こうした存在こそが「ワークフォース・チャンピオン(現場の変革推進者)」だ。
肩書は異なっても、ワークフォース・チャンピオンが果たす役割の位置づけは同じである。それは「戦略と実行の交差点」だ。彼らは、経営陣が「伝えた」と思っている内容と、従業員が「実際に理解した」内容との間のギャップを察知し、それを埋める。この交差点こそ、多くの戦略が誰にも気づかれずに失敗に終わる場所である。計画が適切で、予算も確保され、全会一致で承認されたとしても、全社集会から搬入口に至るどこかの過程で台無しになることがある。ワークフォース・チャンピオンは、経営上の決定を、従業員が理解し行動に移せる形へと変換する。これは単にコミュニケーションが上手いという話にとどまらず、組織の「事業遂行能力(オペレーティング・キャパシティ)」そのものなのだ。
AIが社内コミュニケーションにもたらす変化
長年にわたって、この業務における制約は単純な計算(処理能力の限界)であった。1人の担当者が書けるのは、入念に作られた1通のメッセージか、あるいは最低限の完成度である40通のメッセージのいずれかだ。多様な場所に分散している従業員に情報を届けようとする者は、「深さ」と「規模」のどちらかを選択せざるを得ず、大抵は規模が優先されてきた。
しかし、AIの導入によって、多くの組織でこの計算式が変わった。コミュニケーションツールは機械的な作業をこなせるようになった。ターゲット層のセグメンテーション、夜勤の看護師向けとエリア統括責任者向けでのメッセージの最適化、適切なチャネルとタイミングの選択、ニュアンスを損なわない十数カ国語への翻訳などだ。その結果、人間側に還元されるのは、本来もっと関心を払うべきだった領域である。つまり「何を伝えるか」「誰に届ける必要があるか」「なぜそれがその人にとって重要なのか」を決定する作業だ。そうした判断力は、組織とその内部の人々を長年にわたって理解してきたことで培われる。AIが社内に普及するほど、この役割の価値が高まるのはそのためだ。機械が「配信」の手間を担い、人間が「何を届けるべきか」を決めるのである。
この原則の背景には、明確なビジネス上の根拠がある。この業務に適正な資金が投資されれば、人事や事業責任者が責任を負う領域、すなわち現場の定着率、安全上のインシデント、本来共有されているべき情報を探すために従業員が費やす無駄な時間などにリターンとなって跳ね返ってくる。筆者の所属するFirstupはフォレスターに依頼し、これら3つの領域に及ぼす投資リターンを測定した。影響評価レポートで用いられた複合企業モデル(従業員1万人、うち65%が現場労働者)では、コミュニケーションプロセスの改善を実施してから3年で、重大な安全インシデントが30%削減された。
人事リーダーがワークフォース・チャンピオンをサポートする方法
歴史的に、多くの組織においてコミュニケーションはサービス機能(後方支援機能)として扱われてきた。戦略が決定した後に、それをサポートするものという位置づけだ。しかし現在では、企業の経営戦略の中心に据えられることが増えている。人事部門もこの変化に対応すべきであり、筆者なら以下のステップから始める。
• ワークフォース・チャンピオンを見つけ出す:彼らはすでに自社内に存在し、この業務を遂行している。現場にメッセージを確実に浸透させている人物は誰か尋ねてみれば、すぐに同じ数名の名前が挙がるはずだ。彼らこそが実行力を推進している。
• 適切なツールや権限を与える:セグメンテーション、パーソナライズ、測定ができるツールを提供するとともに、メッセージが不明確であったりタイミングが悪かったりした場合には、意見を述べられる立場を与える。その成果は単なる「コミュニケーションの改善」にとどまらない。新施策の迅速な定着、混乱の軽減、そして情報の捜索や解釈に費やされる無駄な時間の削減につながる。
• 彼らがもたらした変化を測定する:開封率は単に「配信されたか」を示しているに過ぎない。そうではなく、コミュニケーションの影響力を測定するのだ。シフトの現場が新しい手順を実際に採用したか、インシデントが減ったか、顧客に最も近い場所にいる人々が変更点を理解して行動に移したかを測定する。コミュニケーションをビジネス成果に結びつけることで、その価値が可視化され、投資が得やすくなる。
• ツールをさらに買い足す前にAIのリテラシーを高める:コミュニケーション分野でのAI活用に苦戦している組織は、プラットフォームを購入すれば戦略がついてくると期待してしまいがちだ。テクノロジーを適切にコントロールできるようチャンピオンたちをトレーニングし、より多くの人々に正確に情報を届け、決定から行動への組織の移行速度を高められるようにする。
これが現場において重要である理由
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事は、広報担当役員が経営陣の仲間入りを果たしたことを論じていた。だが、筆者がより魅力的だと感じるストーリーは、本社から遠く離れた現場で起きている。
それは、保守点検の技術者が、事故が起きた後ではなく起きる前に安全手順の変更を知る瞬間に起きている。看護師が新しい人員配置ポリシーを十分に理解し、それに合わせて1週間の計画を立てられる瞬間に起きている。現場のマネージャーが、何がいつ必要なのかを誰かが熟慮してくれたおかげで、チームからの質問に自信を持って答えられる瞬間に起きている。こうした瞬間の積み重ねが、定着率、生産性、安全性、そして最終的には戦略が実行される現場に直結するのだ。
現場で働くすべての人には、会社が何を決定し、それが自身の日常の業務にどう影響するかを知る権利がある。自社組織のどこかで、誰かがそれを実現するためにすでに奮闘しているはずだ。
そうした人材を見つけ出し、彼らがそれを大規模に実践できるよう、必要な支援を与えるのだ。



