経営・戦略

2026.10.21 10:26

ピラティスブームの舞台裏──スタジオオーナーが語る「満席」を保つ条件

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ジャスティン・クロンツ(Justin Clonts)はニューヨーク市内で5つのJetset Pilates(ジェットセット・ピラティス)スタジオを所有している。これにより、彼は全米で最も競争の激しいフィットネス市場、かつ最も人気のあるカテゴリーに身を置くことになっている。

ピラティスはフィットネス予約プラットフォーム「ClassPass」において、世界で最も予約されたワークアウトとして3年連続で首位を維持しており、2024年からの予約数は66%増加した。筆者地元のピラティススタジオでも少なくとも1カ月前にはクラスが満席になることを考えると、このデータには個人的にも納得がいく。こうした数値を踏まえれば、市内でピラティススタジオの開業が相次いでいるのも不思議ではなく、クロンツも同じ顧客と同じ早朝の時間帯をめぐって競合他社と争っている。「人気の種目を提供することは、顧客に一度足を運んでもらうきっかけにはなるかもしれないが、それだけではスタジオ経営を維持できない」と、彼はメール取材で説明した。

ピラティスクラスの稼働率の高さを見れば、新規オーナーにとっての魅力は明らかだ。Xplor Technologies傘下のスタジオ向けソフトウェア企業Mariana Tekの予約データによると、ブティック型フィットネス全体の平均稼働率が49%であるのに対し、同社プラットフォーム上のピラティスクラスの2025年平均稼働率は65%に達した。ピラティス人口も増加し続けている。スポーツ・フィットネス産業協会(SFIA)によると、米国での実施人口は2025年に1380万人に達し、2020年から約40%増加した。

トレンドによって人々が流入した後、ピラティススタジオを満席に保つものは何か。Jetsetのフランチャイズオーナーや経営陣は、クラスのスケジュール設定、会員価格の決定、インストラクターの育成といった、事業の華やかではない部分に多くの時間を費やしている。

長寿・健康寿命(ロンジェビティ)という要因

Jetsetのプロダクトおよびタレント担当副社長であるアレックス・ライオンズ(Alex Lyons)は、会員が実際に受講するクラスを統括している。彼女は、需要の多くは年齢を重ねても強さを維持したいという人々の思いに行き着くと考えている。「特に女性の間で、加齢に伴い筋肉を維持し骨の健康を維持することへの関心が高まっている」とライオンズはメールで語った。「人々は適度な負荷があり、かつ無理なく継続できるワークアウトを求めている」

業界の研究者たちも同様の変化を感じ取っている。毎年約1万8000人のアメリカ人を対象に調査を行っているヘルス&フィットネス協会(HFA)は、2025年に高強度トレーニング(HIIT)や単体の有酸素運動といった従来のフォーマットが失速する一方で、ピラティスが急速に拡大していることを明らかにした。同協会のリサーチ担当副社長アントン・セヴェリン(Anton Severin)は、会員がトレーニングにおいて長寿・健康寿命、回復(リカバリー)、バランスをより重視するようになっていると指摘している。

専用器具「リフォーマー」は、まさにそうしたニーズに適している。この器具に詳しくない人や効果がよくわからない人のために説明すると、調整可能なスプリングで負荷をかけるため、関節に負担をかけずに受講生を追い込むことができる。また、Jetsetのスペシャルフォーマットは、看板クラスに慣れた受講生がさらにステップアップできるように設計されている。「受講生は自分が強くなっているのを実感でき、それが単なる1回のクラスを超えたやりがいにつながる」とライオンズは言う。

彼女によれば、Jetsetのクラス充足率はおよそ70%で、Mariana Tekのピラティス平均を数ポイント上回る。「私にとって、それはこの種のトレーニングへの需要と、私たちがその周囲に築いてきた体験の両方を物語っている」と彼女は語る。

創業者のタマラ・ガリンスキー(Tamara Galinsky)は2010年にマイアミでJetsetを設立したが、ブランドが本格的に加速したのは2022年にフランチャイズ展開を開始してからのことだ。同社によると、それ以来400以上のフランチャイズ地域権を販売しており、各スタジオの年間平均売上高は約113万ドル(約1億7900万円)に達する。今夏、Jetsetはロンドンのショーディッチ地区に英国初のスタジオをオープンし、10月27日にはフィッツロヴィアにロンドン2号店を開業する予定だ。

Jetsetの平均113万ドル(約1億7900万円)という数字は、このカテゴリーにおける最大手ブランドと比較しても引けを取らない。親会社のXponential Fitnessによると、世界で1400店舗以上に拡大したClub Pilates(クラブ・ピラティス)の店舗平均売上高は2025年に96万6000ドル(約1億5300万円)で、前年から6%減少した。Club Pilatesの既存店売上高は通年で3%増加したものの、第4四半期には3%減少した。XponentialのCFOは、全ブランドにおける店舗売上高の低下の主な原因を「有料会員の平均単価の低下」としている。Solidcore(ソリッドコア)は直営店を中心に展開しており店舗別の数字を公表していないが、売却を検討していた2024年の報道では、100店舗以上で年間売上高は約1億5000万ドル(約237億円)と予想されていた。ただしJetsetの数値は自己申告であり、展開中のスタジオも約70店舗と規模がかなり小さいため、単純な比較には限界がある。

市場ごとの特性に合わせたスケジュール構築

ドミトリー・アレイエフ(Dmitriy Aleyev)はニュージャージー州、フロリダ州、サウスカロライナ州で15以上のJetsetスタジオを運営している。ニュージャージー州の店舗で最も混雑するクラスは、近くの学校の始業時間に左右されることが多い。「近隣の学校の送迎が午前7時40分にあるスタジオでは午前8時のクラスが一番人気になり、送迎が午前8時10分のスタジオでは午前8時30分のクラスが一番人気になる」と彼はメールで語った。

アレイエフはフィットネスを非常に地域特有なビジネスだと表現する。各地での彼の目標は、受講生がお気に入りのワークアウトを日常生活に組み込みやすくすることだ。ニュージャージーのスタジオでは午前5時のクラスが満席になるが、フロリダでは早朝クラスの集客が鈍いため、午前7時まで開始を見送る店舗もある。サウスカロライナ州はSEC(サウスイースタン・カンファレンス)のカレッジフットボールに熱狂するため、大きな試合の翌日の日曜日は出席率が低下することがある。一方フロリダでは、日曜の夜のクラスが最も安定して人が集まる時間帯の1つとなっている。

これらすべてに対応するため、彼のスタジオでは通常、週80〜100コマのクラスを実施しており、時期によって出席率が落ち込んでもそのコマ数を維持している。スケジュール枠を多く設定しておくことでキャンセル待ちが長くなるのを防ぐことができ、会員もその配慮に気づいている。「一週間の予定を立てようとしたときに、お気に入りの午前7時のクラスがすべて埋まっていたり、お気に入りのインストラクターの予約が取れなかったりするのが一番嫌なはずだ」と彼は言う。

フランチャイズオーナーは自店舗のスケジュール管理権限を持つ一方、クラスプログラム自体は本部で開発され、受講生によるテストを経てから各スタジオに導入される。過去1年間で、Jetsetはクラスルーティンのライブラリを拡充し、「ルーティン・フォーカス・カレンダー」を導入したほか、スペシャルティクラスや上級者向けクラスをリリースした。上級者向けフォーマットは、大半のスタジオで提供される前に数回にわたるベータテストが行われた。本部のチームは、いくつかの基準をクリアした場合にのみそのクラスを残す。「そのクラスが明確な目的を果たしているか、受講生が再び受けたいと思うか、そしてインストラクターが一貫したクオリティで提供できるかを評価している」とライオンズは説明する。

クロンツは、リフォーマーを設置するスタジオには独自のスペースやスタッフ配置上の要件があると指摘する。マシンが大きな床面積を占有するうえ、各クラスにはその機器のトレーニングを受けたインストラクターが必要になるためだ。彼のクラスは通常12〜16人収容で、ニューヨークの店舗で利益を出すには1日少なくとも12コマ以上のクラスを運営しなければならず、ピーク時間帯の数コマが満席になるだけでは市内での運営コストを賄えない。オフピークの時間帯のクラスも埋める必要があるのだ。

彼は、新しくスタジオを開業するオーナーの多くが、特に競合が増える中でこの側面を軽視しているのではないかと見ている。「ピラティスへの関心は堅調に推移するかもしれないが、供給が増加しており、平日の日中に人々が動ける時間は限られている」と彼は言う。そのため、彼は季節や地域に応じてスケジュールを変更し、需要がある時間帯の枠を増やし、需要がない枠を削減している。「需要の伸びがすべての時間帯を均等に埋めてくれるわけではないため、スケジュールを細かく管理することが不可欠だ」

一部のオーナーが値上げをしない理由

Mariana Tekによると、ブティック型フィットネス全体の価格は前年比で約6%上昇した。しかしクロンツは会費を据え置いている。季節変動が激しく競合が多いニューヨークのような市場では、より安定した継続的な収益が得られるのであれば、1回の来店あたりの粗利益が下がっても構わないと考えている。「妥当な範囲内であれば、値上げを行うよりも顧客維持率と利用率を高める方が収益性に貢献できる」と彼は語る。

アレイエフは所有するすべてのスタジオで同一料金を設定しており、消防士、警察官、救急救命士(EMT)、看護師、教師、学生に対して割引を行っている。「彼らは地域社会に大きな貢献をしてくれている。これは私たちのほんのささやかな感謝のしるしだ」と彼は言う。

Jetsetは会員制度の構造を変更していないとライオンズは話す。単に会員にとっての選択肢が増えたため、受講生は同じ週に定番の全身クラス、特定の部位に焦点を当てたスペシャルティクラス、そして上級者向けクラスを組み合わせて受講することができる。「会員制度を通じて、受講生がトレーニングとの継続的な関係を維持できるようにしたいと考えている」

十分な数のインストラクターを育成する

スタジオごとに指導の質が落ちてしまっては、いくらプログラムにバリエーションがあっても意味がない。そしてJetsetが3カ国にスタジオを展開する中で、クオリティを一貫して保つことはますます難しくなっている。ライオンズは、Jetsetの「トレーニング・アカデミー」が事業拡大の核心であるとし、同社はこれを人材育成と自社メソッドの品質維持への投資として位置づけていると述べた。

育成プロセスはスタジオ内で始まり、現場のチームが指導の素質がある人材を発掘する。候補者はデジタル教材での学習やアカデミーでの対面研修を経て、実践的な指導の練習や本部からの評価を受ける。資格取得で研修が終わるわけではなく、インストラクターは指導を開始した後も長期間にわたり、ワークショップへの参加、フィードバック、年次評価を受け続ける。「指導の一貫性は明確な基準と継続的なサポートから生まれる。同時に、各インストラクターの個性や受講生コミュニティとのつながりを生かす余地も残している」とライオンズは言う。

Jetsetのアカデミーのプログラム期間は、他社と比較すると大幅に短く設定されている。2025年のフランチャイズ開示書面の要約によると、新人インストラクターは5日間で約30時間の対面研修を受け、さらに約10時間のオンラインコースを受講する。オープン時の初期スタッフ以降に採用されたインストラクター1人あたりの研修費用は975ドル(約15万円)だ。これをClub Pilatesと比較してみよう。同社の講師育成プログラムはあらゆるピラティス器具を網羅し、解剖学を含むオンライン講義や自習、スタジオでの実技演習を組み合わせて計500時間に及ぶ。Solidcoreはオーディションを重視しており、志望者は評価者の前で2分間の模擬指導を行い、安全性、フォームの指示、エネルギッシュさで採点される。合格者は有給の研修プログラムに進むが、研修グループは少人数に絞られる。この差異はライオンズの説明とも合致する。Jetsetが目指しているのは、ニューヨークからロンドンに至るまで、自社で振り付けたクラスを全く同じように教えられる人材の育成であり、5日間のアカデミーとそれに続く継続的なワークショップ、年次評価という組み合わせは、まさにその目的のために設計されている。

資金の流れを追う

過去2年間で、フィットネス業界における最大級の投資資金がピラティス市場に流入した。LVMHが出資するプライベート・エクイティ投資会社のL Catterton(Lキャタルトン)は、企業価値を約6億5000万ドル(約1030億円)と評価された取引でSolidcoreのマジョリティ株式を取得した。また、フランチャイズスタジオを展開する大手運営事業者にも多額の資金が流れている。Club PilatesのフランチャイジーであるRiser Fitnessは、Fortress Investment Groupから7200万ドル(約114億円)の成長資金コミットメントを確保した。またプライベート・エクイティの支援を受けるAligned Fitness Holdingsは、6月にニュージャージー州の6店舗を買収し、Club Pilatesの展開店舗数を61店舗に拡大した。Jetset自身もフランチャイズ展開とインストラクター育成への資金供給を目的に、Purchase Capitalから戦略的投資を受け入れている。

ライオンズは、投資家たちが本質的に賭けているのは顧客の定着度の長さだと考えている。「現在このカテゴリーは注目を集めているが、その長期的な価値は、受講生がその体験を通じて筋力の向上、自身の進歩、そして他者とのつながりを実感し続けられるかどうかにかかっている」と彼女は語る。

だからこそ、彼女とチームは「ルーティン(日課)よりもリチュアル(儀式)」という言葉を強調する。彼女の考えでは、トレンドはクラスを試しに受けてもらうきっかけにはなるが、再び通い、インストラクターと交流し、体が強くなっていくのを感じるという習慣(リチュアル)こそが、人々に「戻ってくる理由」を与えるのだ。

クロンツもニューヨークのスタジオで毎日同じ課題に直面している。「私たちは次の来店の機会を自ら勝ち取らなければならないのだ」と彼は語る。

(forbes.com 原文)

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