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2026.11.05 16:00

文化芸術は、表現者のみが職業にあらず。京都初開催!CULTURAL JOB FAIRにみる「名付けの意義」

文化芸術の担い手は、アーティストやクリエーターのみにあらず。表現者の側には常に支え手がいるものだが、実際にそれらの職業、仕事をどれだけ知っているだろうか。2026年のカルチャープレナーartness代表の高山健太郎は、京都を基点に新たなジョブフェアを企画した。開催背景をひも解くと、仕事を名指す意義が浮かび上がる。


文化芸術を事業やまちづくりに取り込む動きが増えている。一方で、それを担う人材をどう採用し、どのような職能として評価し、キャリアとして成立させていくのか。その仕組みは、まだ十分に整っていない。

その空白を埋めようとしているのが、artness代表の高山健太郎だ。2023年に東京で文化芸術分野に特化した採用イベント「ART JOB FAIR」を仕掛け、人脈頼みの採用慣習に風穴を開けたことでForbes JAPANは2026年のカルチャープレナー30に選出した。

今回は京都で新たに「CULTURAL JOB FAIR」を立ち上げる。対象を美術や芸術に限らず、伝統産業や工芸、食、観光へと広げ、文化の仕事のエコシステムづくりに挑む。

文化の仕事に光をあてたい

京都市・京都府共催のもと、2026年12月5〜6日に京都芸術センターで開催される「CULTURAL JOB FAIR」は、幅広い文化分野を対象とする。採用を目的としたジョブフェアだが、高山が真っ先に口にしたのは「文化の仕事に光をあてたい」という狙いだ。

「『文化の仕事=職人やアーティスト』というイメージがありますが、実際には企画する人、伝える人、支える人など、さまざまな仕事によって成り立っています。それを社会に発信するのがミッションです。その上で、文化に関わる企業・団体の発展を採用の面から支えていきたいと思っています」

高山自身、美術や工芸の展覧会を企画する側として、無形のものに意味を与え、名前を付け、紹介することに価値を感じてきた。2023年に立ち上げた「ART JOB FAIR」では、過去4回の総出展企業・団体は57、総来場者は1530人、マッチングした人数は合計104人に上る。

今回「ART JOB FAIR」から「CULTURAL JOB FAIR」へと対象を広げた背景には、東京以外でも開催したいという高山の思いと、京都の企業・団体が抱える人材獲得における課題がある。京都土産で知られる「マールブランシュ」製造元、ロマンライフ代表の河内優太朗氏と話す中で、高山はこんな悩みを耳にした。

「ネットでは大企業の情報が上位に来てしまい、自分たちが持っている文化的な価値がなかなか伝わらない」

河内氏を通じて、同世代の後継者も採用に苦戦し、人材不足が事業承継のボトルネックになっていることも見えてきた。

とはいえ、「アート」を冠すると敷居の高さを感じさせかねず、対象も限定されてしまう。ゆえに「カルチャー」まで間口を広げ、文化に関わる製造業や小売業、飲食業、観光・宿泊業など、幅広い企業・団体と求職者の接点を生み出すことを目指す。

文化芸術を「守る」と「生かす」の間を担う人材が求められている

文化芸術を取り巻く環境も変わりつつある。

2017年の文化芸術基本法改正では、文化芸術を観光やまちづくり、国際交流、福祉など幅広い分野と結びつける視点が盛り込まれた。文化芸術を「守る」だけではなく、社会のさまざまな領域で「生かす」動きが広がっている。

企業側にも変化が見られる。例えばリクルートは銀座のギャラリーをアートセンター「BUG」にリニューアルし、若手アーティストの支援などを行う。都市開発においても、再開発にアーティストを巻き込み、地域にアートを取り入れる事例が増えている。

こうした動きのなかで重要になるのが、文化芸術を社会やビジネスに実装する人材だ。

高山は、文化を生み出す当事者が持つ価値を「一次価値」と捉え、そこに別の専門性を掛け合わせて社会に届けていくことに可能性を見出す。

「一次価値は文化を生み出す当事者にあり、AI時代の大きなポテンシャルです。しかし、文化の領域で経験を積んでこなかった人や専門技術がない人が関われないかというと、そうではありません。自分の経験やスキルを文化の領域につなげていく関わり方もあると思っています」

artness代表の高山健太郎
artness代表の高山健太郎

自らの専門性を生かし、文化芸術を社会につなぐ人材を、高山は「カルチュラルワーカー」と呼ぶ。

「文化芸術を『守る側』と『生かす側』の橋渡しをする役割のニーズが増しています。企画や広報、営業、マネジメント、資金調達など、文化芸術の周辺にはさまざまな仕事があり、業界外からこれまで培ってきたスキルを生かして転身するビジネスパーソンも出てきていますね」

その際、「生かす側」が利益を追求するあまり、文化芸術の価値を損なっては意味がない。文化芸術の価値を守りながら、その価値をどう生かしていくのか。カルチュラルワーカーの手腕が問われるところだ。

「大切なのは、倫理観。文化芸術を自分たちの代だけで消費して終わらせるのではなく、『次世代に受け渡していく資産』として扱う姿勢が不可欠です」

消費すること自体は構わない。ただし、消費した分は次の世代に再投資をすることがポイントだ。

「例えば、消費によって得られた利益の一部を、次の文化資源に還元する。そうした循環をつくることが重要です。それができる企業・団体が、消費者や求職者から選ばれるようになるのではないでしょうか」

ジョブフェアの先にある、カルチュラルワーカーのエコシステム

文化芸術を「守る」と「生かす」の間には広大な領域が広がっている。しかも、その領域はまだまだ発展途上で、カルチュラルワーカーにとってのエコシステムは未整備だといえる。

「学ぶ場所、仕事を得る場所、スキルアップできる仕組み、スキルや経験に対する適切な評価基準、ネットワーク。こうした点と点をつなぐエコシステムを文化芸術業界でつくるのが理想と考えています」

高山が仕掛ける「ART JOB FAIR」「CULTURAL JOB FAIR」はまさにエコシステムの一つ。

「文化芸術業界に必要なのは、外の世界に開いたチャネルです。リファラル採用だけでは同質性が強くなり、変化に対応できなくなりかねません。特に若い人たちの主な情報源はスマホであるにもかかわらず、ネット上では文化芸術の仕事情報が十分に可視化されていません」

企業や団体が一堂に会する場をつくることで、求職者との接点だけでなく、企業同士のナレッジや情報交換も生まれる。高山がジョブフェアに期待するのは、そうした業界全体への波及効果だ。

高山は、文化芸術業界におけるキャリア形成を「キャリアダンス」と表現する。階段を一段ずつ上がるようにキャリアを積み上げる「キャリアラダー」ではなく、状況に応じて働く場所や職能を変えながら、少しずつステップを踏んでいくイメージだ。外の世界に開くことは、いわばダンスフロアを広げること。働く場所や職能を横断できれば、カルチュラルワーカーのキャリアの可能性も増していく。

「カルチュラルワーカー」。仕事に名前を与える意義

なぜ、高山はカルチュラルワーカーを支えようと尽力するのか。その原点には、一家の大黒柱だった母親の存在がある。高山の母は1970年代に大阪府職員となり、ケースワーカー(現ソーシャルワーカー)として府立病院で勤めた。

「ケースワーカーは入院中や退院後の暮らしについて相談に乗ったり、必要に応じて病院外の支援につないだりする仕事です。男女雇用機会均等法ができる前から、母は自分の仕事に誇りを持って、人を支え、助けてきました。そして、母が大学時代にケースワーカーを目指し、大阪府の職員となって定年まで勤めたのも、その仕事に呼び名があったからに他なりません」

仕事には、名前が必要だ。名前があれば、その存在を知ることができる。目指すことができる。経験を積んだのち、自分の職能を説明できる。そして企業も、必要な人材像を定義できる。だからこそ、美術系の大学を志望しても「食っていけない」と言われてしまう現状に対し、高山はカルチュラルワーカーとして生きていける世界を目指す。

「美大や芸大で学び、制作や表現の経験を積んできた人たちの専門性は、AI時代にますます重要になると思います。そうした専門性を生かせる仕事を、学生が目指せる職業として確立するためにも、文化芸術に携わる職能に呼び名を与え、業務内容を整理し、可視化する必要があります。最終的には、職業分類が更新され、文化芸術に関わる多様な職種が社会のなかで認識され、適切に評価されるようにしていきたいですね」


たかやま・けんたろう◎artness 代表取締役 / CULTURAL JOB FAIR 企画者。直島福武美術館財団(現・福武財団)で豊島美術館や瀬戸内国際芸術祭の始動など、約17年にわたり文化芸術の現場に携わる。2021年に文化事業会社「artness」を設立。日本初の文化芸術分野特化型ジョブフェア「ART JOB FAIR」を東京で立ち上げ、求職者と採用側が直接出会える場を創出。人脈頼みの採用慣行に突破口をつくった。今年は京都で伝統産業など文化全般へ対象を広げた「CULTURAL JOB FAIR」も展開予定。文化を担う人材の支援や持続的に働ける環境づくりを事業化し、文化継承の土壌を築いている。

COLUMNカルチュラルワーカーの声

蛭田絵里香さん

京都芸術センター Creative Professionals Lab. Kyoto
プログラム・マネージャー

蛭田 絵里香さん
ひるた・えりか

福島県いわき市の出身です。福島高専でバイオプラスチック等を研究していましたが、演劇部での活動を通じて劇場の制作という仕事に出合いました。

子どもの頃から舞台が大好きでしたが、その世界で生きられる人はひと握りだと思っていた自分にとって、かなり衝撃的な出会いでした。高専在学中に、いわき芸術文化交流館アリオスという施設でインターンシップをし、そこで働く方々の姿勢に深い感銘を受け、思いきって進路を変えました。

ちょうどその時期にコロナ禍で舞台芸術業界が厳しい状況となり、長く続けるためにも専門知が必要だと思い知らされました。兵庫県の芸術文化観光専門職大学で学び直してから、現在は京都芸術センターを拠点とするCreative Professionals Lab. Kyotoのプログラム・マネージャーとして、アーティストに伴走しながら、文化芸術の中間支援人材を育成する事業に携わっています。

仕事の“名付け”について

正直なところ、今の肩書きで自分を説明しきれている実感はありません。それでも、進路を選ぶときに「劇場制作者になりたい」と目標にできる仕事を知れたからこそ、目標を口にし続けて、歩みを進めることができました。

一方で、文化芸術を支える仕事の生態系は実に多様で、すべてを包括する“名付け”が定着しにくく、広く職能を認知してもらうことが難しいと感じています。こうした状況もあってか、長年従事している人であっても、経験や知識が適切に評価されにくいという現状があります。分野や現場によって異なる、柔軟な対応や高いスキルが求められる一方で、そうした専門性を適切に評価・説明する基盤は、まだ十分に整っているとは言えません。

まず、働き手がもっている専門性を明らかにし、それに見合った待遇を再検討する。長い道のりになると思いますが、Creative Pofessionals Lab. Kyotoでは、文化芸術の担い手がより持続可能なかたちで働ける基盤を、これから整えていきたいと思っています。


CULTURAL JOB FAIR

文化領域に特化したジョブフェア。全国から15の企業・団体が集まり、求人情報や仕事内容について直接話せる出展ブースのほか、トークやミートアップ、相談スペース、キッズスペース、本の交換所などのプログラムを展開。文化を仕事にする可能性をぜひ発見してほしい。

【日時】             2026年12月5日(土)・6日(日)
【場所】             京都芸術センター
【料金】             事前予約制

事前予約は公式サイトから。


京都で暮らし、文化を仕事にする。京都市の定住・移住支援

京都への移住を希望する芸術家など文化芸術関係者に向け、京都市は「住まい」「仕事」「コミュニティ」に関する情報提供や支援施策を展開している。

「住まい」では、山科区御陵の旧大学留学生寮を活用した居住施設「FLAT ArtSphere KYOTO」(全78室)など文化芸術関係者向けの住居の整備が進む。京都に移り住んだ文化芸術関係者の声を紹介するサイト「たどり着いたら京都」も公開中。京都への移住者の生の声を届けている。仕事や住まいに関する相談は京都芸術センター内の京都市文化芸術総合相談窓口(KACCO)まで。

京都市文化芸術総合相談窓口(KACCO)
https://www.kyotoartsupport.com/iju


京都市
https://www.city.kyoto.lg.jp/


Promoted by 京都市 | text by Natsumi Amano | photographs by Yuta Fukitsuka | edited by Asahi Ezure