Forbes JAPAN編集長編著『Forbes JAPANが選ぶ 未来をひらく言葉』から、Forbesが過去取材したビジネスリーダーたちの名言を紹介する。
正解のない時代に「未来をひらく」仕事をなし得た彼ら・彼女たちは、自らの行動からどんな言葉を紡ぎ、何を導き出したのか。「名言こそ未来に伝えるべき共有物だ」をコンセプトに、リーダーたちの言葉をひもとき、われわれの「今日の行動」に転換すべく読み解くコラム。
第14回の今回は本書から、山陰合同銀行代表取締役 吉岡佐和子の言葉を、Web版用に特別加筆の上、紹介する。
「愛されたい』を捨て、現場の靴底をすり減らす

撮影=小田駿一
島根県に本店がある山陰合同銀行が、連続最高純益を更新していることをご存じだろうか。地元島根と鳥取で「ごうぎん」と呼ばれる同銀行は、山陰という過疎地にありながら、増収増益で躍進を続けており、また革新的な経営でも知られている。
なぜ過疎地で? と思われるだろう。
同銀行のエリアである島根県と鳥取県は人口減少への危機感が早かったため、関東・関西の都市部まで営業範囲を広げ、「越境融資」で生き残りを図ってきた。「広域地方銀行」という、あえて矛盾した組み合わせで成功した先駆者である。
吉岡さんはもともと短大を卒業後に、同銀行に入った後、「27~28歳で結婚退職するつもりだった」という。出世など考えてもいなかった。しかし、次第に仕事の面白さにのめり込んでいき、宣伝広告の部署や支店長にまでなっていく。
さらに、営業本部長として、顧客基盤の拡大から地域産業の活性化まで尽力した。ライバル銀行にも話を聞くと、「靴底をすり減らして奮闘する吉岡さんにかなう銀行マンは全国でもいないと思う」と言うほどだ。
しかし、「女性初の○○長」など昇進するたびに「女性初」がついて回ると、悩みの種が増えた。彼女の出世は男性のポストが減ることを意味し、陰口や心ない言葉を言われた。申し訳なさからできるだけ目立たないように会議でも静かにしていた。そんな時、元上司からの一言が突き刺さった。こう言われたのだ。
「そんなに周りから愛されたいのか」
そして、ある経営者からはこんな助言を言われた。
「お客様のためになることをおやりなさいよ」
ふたりの言葉は、きちんと仕事をしていれば応援してくれる人がいること、そして、行内ばかりを気にして向き合うべき相手を間違えていたことに気づかせてくれた。再び、持ち前のおせっかい精神を取り戻した吉岡は、率先垂範で営業活動を行い、気づけば、赴任する先々の店が優秀な営業成績で表彰されるまでになっていた。
積極的な姿勢は部下や同僚にも向けられた。悩み事を一緒に考えていくのはもちろん、チームビルディングも徹底してやる。ときには男性部下を引き連れ、率先して歌って踊る“宴会芸”を披露することもある。
「自分をさらけ出さなければ、部下だって腹を割って話してくれませんからね。銀行は、ひとりでは何もできません。組織を強くしていくには、職場の風通しの良さが不可欠です」
彼女はこう言う。
「能力に男女差はない。あるのは経験の差だけです」
「経験の差」を克服したからこそ、人口減少と過疎化のエリアで強い組織をつくれたのだ。
吉岡佐和子(よしおか・さわこ)◎山陰合同銀行代表取締役。1967年、島根県生まれ。島根県立島根女子短期大学(現・島根県立大学)卒業後、87年に山陰合同銀行入行。米子支店長、執行役員米子営業本部長などを経て、専務執行役員鳥取営業本部長に就任。2024年に全国の地方銀行で女性初の代表取締役(専務執行役員)に就任。同年、「Forbes JAPAN WOMEN AWARD」でイニシアティブ賞を受賞。



