AIなどのテクノロジーを利用することのデメリットとして、使う人が感じるコントロール感の喪失が挙げられる。ハードウェア大手のロジクール(Logitech)が発表した新たな調査結果によると、自身が使用しているテクノロジーを「本当に意のままにコントロールできている」と回答した人は、調査対象者のわずか10%にとどまった。
同社が初めて実施したCtrl Tomorrow Study(明日のコントロールに関する調査)では、人々が自分のテクノロジーをコントロールできていないと感じている場合、以下のような影響が出ることが明らかになった。
- 64%が苛立ち、不安、あるいは怒りを感じていた。
- 46%が、テクノロジーの不具合が発生した際に、無力感や恥ずかしさ、疲労感を覚えたり、取り残されているように感じたりしていた。
ロジクールはコントロールを、「人々がテクノロジーに実現してほしいと望むことと、実際にテクノロジーが提供することとの合致度」と定義している。
この調査は、2026年5月から6月にかけて、PR代理店のバーソン(Burson)がロジクールの委託を受けて実施した。9カ国の一般市民9400人以上を対象とした調査と、1350人のIT意思決定者を対象とした別の調査が含まれる。世界全体の許容誤差は、一般調査でプラスマイナス1.1%、IT意思決定者調査でプラスマイナス2.7%となっている。「これほど多くの技術的変化が極めて急速に起きているなかで、人々がそれを『主体的に推し進めている』のではなく『巻き込まれている』と感じるのは無理もない」と、ロジクールの最高経営責任者(CEO)であるハンネケ・ファーバーは調査結果に関するプレスリリースで述べている。
企業や組織への影響
ロジクール・インターナショナルのチーフ・デザイン・オフィサーであるマリン・レシュリーによると、企業や組織にとってテクノロジーに対するコントロール感の喪失は、時間の経過とともにバーンアウト(燃え尽き症候群)や集中力の散漫、生産性の低下につながる可能性があるという。従業員のウェルビーイングは、彼らがテクノロジーに対してどれほどのコントロール感を持っているかに左右される場合がある。「テクノロジーが人々の働き方を規定したり、厳重に監視したり、異議を唱えられないような意思決定を行ったりすると、従業員はより大きなストレスや苛立ち、バーンアウト、関心の低下を経験する可能性がある。時間が経つにつれ、企業は信頼、パフォーマンス、定着率の低下を目の当たりにするかもしれない」と、フレキシブル・ワーク・ソリューションズを率いるジョーニー・コーネルはメール取材に対して語った。
企業の幹部は、テクノロジーが従業員の業務をより戦略的、効果的、あるいは効率的に進めるのに役立っていると安易に思い込むべきではない。むしろビジネスリーダーや管理職は、従業員と対話する時間を持ち、フィードバックを促し、テクノロジーがどのように、なぜ使われているのか(あるいは使われる予定なのか)について議論すべきである。
コントロール感の喪失は、従業員がもはや理解できない、あるいは変更する権限のない決定に対して責任を負わされるとき、企業に最大級のダメージを与える可能性がある。「その不一致は不安や意欲の低下を引き起こす可能性があるが、内部統制上の問題でもある。従業員がテクノロジーを過信したり、ひそかに回避策を取ったりすることで、エラーやリスクが蓄積する恐れがある」と、シェナンドー大学ビジネス・工学・テクノロジー学部の会計学教授でYHB特別講座教授のマティン・ムルヤディはメール取材で述べた。
ロジクールの調査では、ほぼ3人に2人が物理的なデバイスやツールを使用しているときにコントロール感をより強く感じると回答した。63%はデバイスを使用しているときに自分の能力により大きな自信を持てると答え、81%は適切なテクノロジー環境が目標達成と未達の分かれ目になり得ると回答した。
自分のテクノロジーをコントロールできていないと感じることの影響は、職場だけにとどまらない。「それはオフィスのドアのところで終わるわけではない。およそ5人に3人が、テクノロジーによる摩擦が勤務後の気分を悪化させ、私生活におけるコントロール感を損なっていると答えている。さらに58%が、設置環境によって眼精疲労、手首の痛み、首の疲労などの身体的な不快感を繰り返し経験している」と、ロジクールのレシュリーはメール取材で語った。
コントロール感を取り戻す方法
従業員がテクノロジーに対するコントロール感を取り戻す方法はいくつかある。「働く人には、テクノロジーを理解し、その利用方法に関する意思決定に参加し、そのアウトプットに疑問を呈し、重大な決定に対して意味のある人間的判断を維持する機会が必要だ。組織は、早期に従業員を巻き込み、研修を提供し、自動化された決定に異議を唱える明確なルートを作り、不必要な監視を制限し、人をコントロールするのではなく支援するようにAIを設計することで貢献できる」と、フレキシブル・ワーク・ソリューションズのコーネルはメール取材で推奨した。
AIを活用したヘルスケア企業Xsolisの最高医療責任者(CMO)であるヘザー・バセット博士は、メール取材で従業員が取り組めることとして以下も挙げた。
- 好奇心を持ち、ツールの仕組みや限界を学ぶ。AIを理解している人が、その使われ方を形作ることになる。
- テクノロジーの設計や評価への協力を求められた際には積極的に参加し、自分たちの働き方に合致させる。
- テクノロジー関連のツールによって業務が困難になったり課題が生じたりした際には、声を上げる。
バセットはまた、新しいテクノロジーを導入する前に組織が取り組むべきこととして以下を推奨した。
- 「ツールを選択する前に、まず実際に現場で作業する人々と一緒に問題を定義する」
- 「単に『人間が介入する(human in the loop)』という形式的な役割ではなく、人間に本当の意思決定権限を与え、AIの判断を上書きしても安全な環境を作る」
- 「何を測定するのか、データがどのように使われるのか、何が捕捉できないのかについて透明性を保つ」
- 「テクノロジーの運用開始後も継続的にモニタリングを行い、ツールを使用する人々からのフィードバックを求める」
ビジネスリーダーは「『進んでも安全か』と問うのをやめ、『立ち止まっていることのコストは何か』と問い始めるべきだ。コントロールはプロセスの一部であることから生まれるのであり、それは導入後ではなく導入前に始まらなければならない」とバセットは締めくくった。
テクノロジーに関する問題が顕在化する前に特定するため、組織は従業員によるテクノロジーの使用状況について定期的にフィードバックを求め、評価すべきである。
テクノロジーに対するコントロールの未来についての2つの視点
ある専門家は、テクノロジーが進化するにつれて人々はコントロール感を一層失い、過度の認知負荷を感じるようになると考えている。「テクノロジーの進化速度、追いつき続けなければならないという継続的なプレッシャー、『常にオンラインで、常に繋がっている』カルチャー、そして急速なテクノロジーのアップデートにより、従業員が立ち止まり、考え、創造し、戦略を練る余地はほとんど残されていない」と、行動科学者のミシェル・ローゼンはメール取材で語った。
人々が自動化システムに依存せざるを得なくなればなるほど、チームとの繋がりを感じにくくなる可能性がある。ローゼンによると、これは結果としてシステムやプロセスに対するコントロール感の喪失や、チームへの帰属意識の欠如に繋がる可能性があるという。
ロジクールのチーフ・デザイン・オフィサーであるレシュリーはこれに反論する。彼女は、テクノロジーが進化し続けても人々はそれをコントロールする力を備えているとメール取材で語った。同社の調査で、物理的なデバイスとやり取りするときに最もコントロール感を得られると分かったことは、「人々が何を導入し使うかについて主体的に選択する能力(エージェンシー)を持っていることを示す素晴らしい例だ。その結果、より大きな確信をもってコントロールできていると感じられるようになる」という。
新しい、あるいは改良されたテクノロジーが職場に導入される際、経営陣はそれを使う人々に好意的に受け入れられるよう対策を講じるべきだ。そうでなければ、そのテクノロジーは時間、資金、労力の無駄に終わる可能性がある。



