キャリアの初期、私はミシュラン星付きレストランの経営者の下でシェフとして働いていた。彼がホステスから副料理長に至るまで、全員の医療保険をどうするかで苦悩する姿を見てきた。それは、悪いレビューよりも早く事業を沈めかねない費目だった。彼はそのリスクをスタッフに転嫁するのではなく、自ら引き受けていた。
誰もが自分自身や従業員のためにそのリスクを負えるわけではない。医療保険料が1%上昇するだけで、起業に踏み出そうとする米国人の数は測定可能なほど減少する。エコノミストらは、保険料が1ポイント上がるごとに、新規の自営業者となる比率がおよそ0.75%低下することを明らかにしている。これを、いま実際に保険料で起きていることに掛け合わせると、その数字はすぐに看過しがたいものになる。
私は20年以上にわたり医療保険業界に身を置き、現在は医療費分担組織の創業者として、多くの優秀な人々が自分の新規事業のアイデアを諦めていくのを見てきた。単に費用負担の問題だと思っていたが、そこには「アントレプレナーシップ・ロック(起業ロック)」という明確な言葉があることを知った。
アントレプレナーシップ・ロックは、よりよく知られた現象である「ジョブ・ロック」と対をなすものだ。ジョブ・ロックとは、医療保険の給付を維持するために、辞めたい仕事にとどまり続けるという、広く記録されてきたパターンである。アントレプレナーシップ・ロックはその裏返しだ。自分で何かを始めるアイデアも、スキルも、度胸もある。それでも踏み出さない。雇用主提供の医療保険を失うことになるからだ。私は何年にもわたり、その現実を目の当たりにしてきた。
起業に潜むコスト
昨年末、数百万人の自営業者や小規模事業主にとって、ACAマーケットプレイスの保険料をどうにか管理可能な水準に保っていた拡充補助金が、ひっそりと失効した。議会はこれを更新しなかった。KFFが実施した調査によると、その結果、補助金適用後の平均保険料は今年、約888ドル(約14万円)から1904ドル(約30万円)へと、114%増で2倍以上になる見通しだ。
KFFがモデル化した実例の1つでは、年収8万5000ドル(約1350万円)の60歳夫婦が、今年だけで2万2600ドル(約358万円)超を追加で支払う見込みだという。これは、給与を支払えるかどうかを左右し得る規模の金額である。
自営業者と小規模事業主は、ACAマーケットプレイス加入者全体のおよそ4分の1、推計で500万人を占める。これは米国の起業エンジンの相当な部分を占める層であり、年間で4桁ドル規模に上昇した保険料を吸収する余地が最も小さい層でもある。
補助金には、もう1つの罠が組み込まれている。そしてそれは、起業したばかりの人々に最も重くのしかかる。資格を得るには、実際に稼ぐ前に翌年の所得を見積もる必要がある。この税年度の初めに低く見積もりすぎると、もはや保護してくれる上限はない。来春に申告する際、所得水準にかかわらず、差額の全額を返さなければならない。
最も影響を受けやすいのは自営業者とギグワーカーだ。まさに、1年前の段階で自分の所得を最も予測しにくい米国人である。予想より早く成功すれば、その分大きくなった税額の請求が翌春に届く。
私は最近、従業員3人を抱える代理店オーナーと話をした。彼は自分の更新通知を見つめながら計算し、この事業がすでに自分の睡眠を犠牲にしていることに見合うのかと考えていた。こうした人々は、自分に起業家としての勇気や資格が十分にあるかを問うているのではない。起業家でいる余裕が自分にあるのかを問うているのだ。
医療が起業家の自由を奪うのではなく、与えるものだとしたら
現在の医療業界には、根本的な不均衡がある。大企業は何千人もの従業員をまとめて医療保険を交渉し、リスクを分散し、個人が単独では決して持ち得ない交渉力を得ている。
誰かがそのプールを離れて独立した瞬間、そのすべてを失う。個人を相手にするよう設計されていない仕組みに対し、完全に1人で交渉することになる。これは市場の失敗ではない。市場が設計通りに機能しているということだ。ただし、それが起業家に常に適しているとは限らない。
あなたが起業家または小規模事業主で、あの代理店オーナーのように更新通知を前にしているなら、標準的なマーケットプレイスのプランが唯一の選択肢だと決めつける前に、まず次の点を検討すべきだ。比較に値する道はいくつかある。
● HSA対象の高免責額プランは、健康で日常的な費用を自己負担できる人にとって堅実な選択肢である。
● 専門雇用主組織や団体医療保険プランを利用すれば、他の小規模事業者とプールを組み、単独起業家が失う交渉力の一部を取り戻すことができる。
● ダイレクト・プライマリ・ケアの会員制度は、通常、定額の月会費で日常的な診療をカバーし、高免責額プランと相性がよい。
● 医療費分担プログラムでは、会員が予測可能な月額を拠出し、互いの対象医療費を直接分担する。通常、同等のマーケットプレイスのプランより低コストで運営される。大企業が提供するような交渉力に依存しないからこそ、より多くの起業家がこの道を選んでいる。従来型の保険とは仕組みが異なるため、切り替える前に、自分の州や健康歴にどのように適用されるのかを正確に理解しておく価値がある。
どの道が自分に最も合いそうに見えるとしても、更新前に自分自身の状況に照らして比較することを勧めたい。
私のメンターは自身のレストランで、スタッフがそのリスクについて考えずに済むよう、何年にもわたり自ら引き受けていた。だが、自分で事業を始める多くの人々は、それを1人で背負わざるを得ない。それを自由市場と呼んだからといって、公平になるわけではない。むしろそれは、自由市場を成り立たせている新しく、革新的で、予想外の事業を締め出してしまうことが多い。



