イーロン・マスクは米国時間10月19日、米国すべての子どもに自身が率いるスペースXの株式を1株ずつ贈与したいとの考えを示した。これは、AIの台頭に対処する方策として超党派の政治家から注目を集め始めている「ユニバーサル・ベーシック・キャピタル(UBC)」の実現に向けた1歩となる可能性がある。
全米の子どもにスペースX株、国民が資産を持つ構想を両党も支持
マスクは19日未明、来年にも「米国のすべての子どもに私のスペースX株を1株ずつ贈与する」とXに投稿し、それが「多くの取り組みの第1歩」になると約束した。この構想はUBCの理念と重なる。
UBCとは、広義には米国民に投資口座を付与し、そこに元手となる株式(必ずしもAI企業に限定されないが、AI関連企業の株式が中心となる可能性がある)を配分する仕組みを指す。人々の資産形成を支援し、AIに雇用を奪われることによる悪影響を和らげる狙いがある。
最近ではAI業界のリーダーたちがAIやその影響に対する批判をかわす方策としてUBCや類似の構想を提唱している。また、この動きには民主・共和両党の政治家も賛同しており、民主党のギャビン・ニューサム・カリフォルニア州知事は今年5月、同州での導入に向けた調査を命じる知事令に署名した。共和党からオハイオ州知事選に出馬しているビベック・ラマスワミも、昨年12月にニューヨーク・タイムズへ寄稿した論説でこの構想を称賛している。
株を1人1人へ直接配るか、国や業界の基金でまとめて持つか
政府やAI業界のリーダーたちが模索するUBCの主な手法は2つある。1つは米国民に株式を直接配る方法で、もう1つは政府がAI企業の株式を取得して国民に利益を還元する「政府系ファンド」を創設するか、あるいはAI企業自身が独自の基金を直接設立する方法だ。
報道によれば、ドナルド・トランプ政権は米政府がAI企業の株式を取得する枠組みについてOpenAIのサム・アルトマンCEOと協議を重ねてきた。また、無所属のバーニー・サンダース上院議員(バーモント州)はAI企業に対する1度限りの50%の課税を通じて基金を創設する法案を提出しており、アンソロピックも18日、新設する「公益基金」に自社株の少なくとも5%を拠出すると発表した。
マスクは配布の詳細を示さず、AI課税法案も成立は困難か
UBCの構想は以前から議論されてきたものの、その本格的な導入にはまだ長い時間がかかるとみられる。マスクは19日、スペースX株の配布を来年に実施すると述べただけで、それ以外の詳細は明かさなかった(ニューヨーク・タイムズは、世界首位の富豪であるマスクには大胆な約束を掲げながら実現させなかった過去があると指摘している)。
また、一部の共和党議員がUBCの政策を支持しているとはいえ、AI企業への課税によって基金を創設するサンダースの法案が共和党主導の議会を通過する公算は小さく、実現は中間選挙で民主党が主導権を奪還できるかどうかにかかっている。一方、ニューサムの知事令も州政府にUBC構想の調査開始を指示したにすぎず、州レベルでの具体的な行動はさらに先のことになりそうだ。
アルトマンは株の還元に前向き、ただ当局が経営に関与する出資は拒む
トランプ政権とアルトマンによるAI基金をめぐる協議が実を結ぶかどうかも不透明だ。当初の報道ではアルトマンも前向きだと伝えられていたが、ワシントン・サンの報道によると、アルトマンは経済学者らとの非公開の場で「企業の株式を米国民に再分配する何らかの仕組み」には賛成しつつも、政府がOpenAIの株式を正式に保有したり、同社に対する支配力を持ったりすることには反対する意向を示したという。



