イングランド・プレミアリーグは、単なるサッカーリーグではない。ウィリアム・シェイクスピアの作品以来、英国最大の文化輸出品かもしれない。世界的な人気を誇るプレミアリーグは、外国政府が文化を通じて国際的な影響力を高める「ソフトパワー」を発揮する格好の舞台だ。外国から英国への投資を促し、経済関係を深める機会にもなり得る。
その典型例が、財務規則違反をめぐる大規模な問題に揺れ、税務問題にも直面する可能性があるマンチェスター・シティFCだ。かつてシティは、国際的な名声で同じマンチェスターを本拠地とするライバルに後れを取っていた。勢力図が変わる転機となったのは、2008年のオーナー交代である。
当時の筆頭オーナーは、政権を追われたタイの元首相タクシン・チナワットだった。タクシンは、クラブの持ち分をアブダビ・ユナイテッド・グループ・フォー・デベロップメント・アンド・インベストメント(ADUG)に売却した。タイ政府によって個人資産を凍結されていたため、売却する以外の選択肢はほとんどなかった。ADUGによる買収後、シティは目覚ましい成功を収めた。
ところが、2008年から18年が経過した2026年、シティの輝かしい実績に傷がつき始めた。プレミアリーグから制裁を受ける可能性があるだけでなく、英国の税務当局である英歳入関税庁(HMRC)との対決に発展する恐れもある。
マンチェスター・シティを支配するアブダビ王族と外国資本
多くのプロスポーツチームと同じく、シティの所有構造は複雑だ。クラブを直接所有するのは、英国の持ち株会社シティ・フットボール・グループ(CFG)である。CFGを事実上支配しているのは、アラブ首長国連邦(UAE)を構成する7首長国のうち最大のアブダビ首長国の王族、シェイク・マンスール・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーンだ。ADUGはアブダビ王族の民間投資会社に相当し、UAEの政府系ファンドとは組織上別である。
マンスールはUAEの副大統領兼副首相を務め、異母兄はUAE大統領だ。公職としてUAE中央銀行とアブダビ国営石油会社も監督している。
クラブの所有構造には、民間資本と政府の影響力が混在する。ただし、公的な関与を目立たなくするための慎重な措置も取られてきた。マンスールは2025年時点で、自身の投資会社ニュートン・インベストメント・アンド・デベロップメントを通じてCFG株の80.31%を保有していた。
クラブ運営は政府と無関係なのか
「シチズンズ」の愛称で知られるシティのサポーターは、UAE政府はクラブ運営と無関係だと主張するかもしれない。形式上は正しくても、外から見れば両者のつながりは濃い。クラブの会長ハルドゥーン・アル・ムバラクは、UAE政府の高官でもある。シティはエティハド・スタジアムで試合を行い、エティハド・キャンパスで練習し、エティハドのロゴをあしらったユニホームを着用する。アラビア語で「連合」を意味するエティハドは、UAEの国営航空会社だ。
米ニューヨーク・タイムズも「精神的にも一般の人の目にも、シティはアブダビと切り離せない」と評している。
さらに、CFGの少数株は北京に拠点を置く国有複合企業、中国国際信託投資公司が保有している。勝利が投資家の利益を押し上げると知りながら、UAEや中国を暗黙に応援することなくシティの勝利を願えるだろうか。
王族と関わる資金は都市再開発にも流れ込む
UAEとマンチェスター都市圏の結び付きは、サッカーだけではない。UAEの政府系ファンドであるムバダラ投資会社は、マンチェスターの都市再生事業に資金を投入してきた。投資は、ムバダラとマンチェスター・ライフ開発評議会による10年間の協力関係から生まれた。
マンチェスターの街並みを見渡せば、アブダビからの資金が街を変えてきた様子が分かる。マンスールはムバダラの会長、ムバラクは最高経営責任者(CEO)を務め、政府系ファンドの運営に深く関与している。シティを支配する2人が、数十億ポンド(数千億円)に上る資金を地元の不動産開発へどう振り向けるかも決めているのだ。違法ではないが、奇妙な構図である。



