ライフスタイル

2015.12.22 16:00

映画に見るネイビースーツの力

ネイビーのストライプスーツを着たゴードン・ゲッコーは、かつての風貌よりも優しい表情に見える。写真:Interfoto/アフロ

ネイビーのストライプスーツを着たゴードン・ゲッコーは、かつての風貌よりも優しい表情に見える。写真:Interfoto/アフロ

スーツは、男たちにとってかけがえのない相棒だ。と同時に、ひとを惹きつけるある種の「ギャップ」を生み出す不思議なアイテムでもある。たとえば、普段はカジュアルな男性が、きっちりとしたジャケットを着た時、そのさりげない仕草が、妙な色気となってあらわれてくることは、その一端といえるだろう。また、年齢を重ねるたびに、渋み以上のセクシーさを際立たせるのもスーツの力によるところが大きい。紳士の服として長い歴史を持つスーツは、ユニフォーム的な没個性の力により、逆に、その人となりを増幅して映し出す鏡のようなものとも言えるだろう。

しかしながら、そのスーツをネイビーカラーに限定してみると、そんな生易しいものだけでなく、時として衝撃を覚えるほどのギャップを生み出すのだ。では、ネイビースーツの正体とは、いったなんなのか? 映画のヒーローたちの姿から、その意外な方程式を見ていこう。

『ウォール・ストリート』(2001年公開)は、証券詐欺やマネー・ロンダリング、インサイダー取引などの罪により8年間、刑務所に服役したゴードン・ゲッコー(=マイケル・ダグラス)が、華々しい復活を遂げるというストーリーだ。多くの確執や裏切りを経て、最後には家族の信頼を取り戻す主人公。ここでは彼が着用したスーツの色に注目していると面白いことに気がつく。

「強欲は悪か?」という名(?)セリフで、公開後のビジネス界に多大なる影響を与えたシリーズ1作目『ウォール街』(1987年公開)。主人公のゲッコーは総じてブラック&グレー系のダークスーツに身を委ねていた。その威厳ある風貌は、現実の社会で戦う男たちの憧れとなり、以降のビジネススタイルの象徴ともなっていった。

ところがシリーズ2作目となる『ウォール・ストリート』では一転、明るいネイビーカラーのスーツでの活動が目立つ。出所、講演会、そして家族との対峙。シーンごとにさまざまな色を着こなしてはいるが、ここぞという場面ではネイビーのストライプスーツでキメていることに気づくだろう。ここでファッション的解釈をひとつ加えておくと、ネイビースーツは、どんなシチュエーションであっても「安心」「信頼」といった、肯定的な言葉で形容されるアイテムだ。強欲の塊のような男でさえ、ネイビースーツを身にまとうことで善人に見せることすら可能となる。西洋はもとより、東洋の日本ですら定着している、「ネイビースーツ=実直・勤勉」というパブリックイメージは、ネイビースーツが持ち合わせるギャップ力(スーツの装いで対外的に見せる自分と、たとえば本来のワイルドで野心的な自分自身)にほかならない。

『007シリーズ』といえば、まっさきに思い浮かぶのはブラックスーツだ。近年では「トム フォード」がジェームズ・ボンド(=ダニエ・クレイグ)の衣装を手がけたり、その洗練度は、ますます高尚なものになってきている。「スパイ=ブラックスーツ」というひとつの型を完成させた金字塔作品だけに、シリーズ22作目の『慰めの報酬』(2008年公開)のビジュアルには目を奪われるものがある。一見すると、スパイというよりは、あるビジネスマンが事件に巻き込まれたのではないか?という雰囲気を醸し出す上で、ネイビースーツはその力を存分に発揮している。たとえ百戦錬磨のエージェントであっても、「誠実」の仮面を被せられてしまうという「逆ギャップ力」の前には、白旗を上げざるを得ないといったところなのかもしれない。

そして、ネイビースーツが象徴的に登場する最近のヒット作といえば、英国俳優陣たちによる快作『キングスマン』(2015年公開)だ。「007」へのリスペクトを背景に繰り広げられるスパイムービーは、スーツを身にまとった紳士たちの痛快アクションと、モンティ・パイソン的な風刺の効いた過激表現で我々の目をスクリーンに釘付けにする。「マナーが人を作る」という英国紳士らしいセリフを口にする、ハーリー・ハート(=コリン・ファース)は、腕利きのエージェントでありながら、表向きはサヴィル・ロウの仕立て職人。パブで不良の若者たちに絡まれたりするほど、その姿は到底凄腕のスパイには見えない。しかし、「スーツは現代の鎧」といってはばからない彼は、オーダーメイドで身体にぴったりフィットしたネイビースーツを身にまとい(しかも、セルロイドの黒縁メガネまでかけている!)、バッタバタと敵を殴り倒す大立ち回りを演じてみせるのだ。

闘う、ネイビースーツに黒眼鏡の紳士。ここまでくると、もうネイビースーツが持つギャップ力極まれりといったところだ。とはいえ、ブリッグの傘を持った紳士が、悪をなぎ倒していく姿は、ある種現代のヒーローと呼ぶにふさわしいのかもしれない。すでにブラックスーツはありきたりとなってしまった。そんな時代の気分に、いまネイビースーツという誰もが毎日目にしていた、それでいて目につかなかったアイテムがひときわ脚光を浴びているのだから。

ヒーローが活躍する映画、空想の世界だからこそ、「この人が実は!」というレバレッジ効果をフルに発揮させるネイビースーツ。これからも戦う男たちのよき相棒であり続けるに違いない。

文=Forbes JAPAN編集部

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