職場のメンタルヘルスについて考えるとき、最も安全な判断は「待つこと」のように感じられるかもしれない。既存のプログラムをもう1年続ける。次の予算編成サイクルで判断を再検討する。経営陣がより差し迫った優先課題に集中している間、導入に伴う混乱を避ける。待つことが賢明に思えるのは、変化に伴うリスクが目に見えるからだ。導入作業、新たなコミュニケーション、従業員からの質問、新しいアプローチが成果を出すかどうかの不確実性。一方で、現状維持のリスクは分散し、時間差で表面化し、はるかに見えにくい。
しかし、待つことは現状を保つことではない。従業員は苦しみ続け、マネジャーはその影響を吸収し続け、医療費と生産性コストは積み上がり続ける。そして組織は、現在のアプローチが生み出している到達範囲と成果を、もう1年受け入れることになる。判断を先送りすることもまた判断であり、それが最も危険な判断になり得る。
待つことが実際以上に安全に感じられる理由
企業との対話の中で、私はメンタルヘルスに関する意思決定に不均衡な基準が適用されているのをよく目にする。新しいソリューションには、臨床モデル、利用促進戦略、導入計画、財務的価値、想定されるあらゆる失敗要因の証明が求められる。一方、既存の仕組みは、目に見える問題を起こしていないかどうかを主な基準として判断されることが多い。
慣れ親しんでいることが、証拠であるかのように見え始める。大きな不満や明確な破綻がなければ、更新は低リスクの選択肢に思える。しかし、沈黙は有効性を証明しない。それは単に、不作為の結果を過小評価しやすくするだけである。
従業員1万人の企業を考えてみよう。これまでの調査では、従業員支援プログラム(EAP)におけるカウンセリングの年間利用率はおおむね5%とされてきた。つまり、このプログラムを通じてカウンセリングを利用する人は約500人ということになる。利用状況レポートは、この500人について詳しく説明できる。しかし通常、残りの9500人については、経営陣にほとんど何も伝えない。誰が支援を必要としている可能性があるのか、誰がその福利厚生の存在を知っているのか、誰が別の場所で助けを求めたのか、誰が問題がより深刻になるまで待ったのかは見えてこない。
したがって、利用状況が答えるのは1つの問いだけである。誰がその仕組みに入ったのか、という問いだ。それは、その仕組みが十分な人数に届いているのか、十分に早く届いているのか、成果を変えているのかを証明しない。これらの答えがないまま判断を遅らせても、不確実性は減らない。不確実性が長引くだけである。
待つことのコストはいかに膨らむか
組織が福利厚生の変更を先送りする理由は理解できる。予算が厳しい、経営陣の関心が分散している、調達が難しい、導入が面倒に感じられる、といった理由だ。6カ月または12カ月の遅れは、大した問題ではないように見えるかもしれない。しかし、組織が待っている間も、メンタルヘルスの課題は止まらない。早期支援に反応した可能性のある従業員の中には、より集中的な支援を必要とする段階へ進む人もいる。マネジャーはその影響を受け止め続け、組織は自社が提供する支援と従業員が実際に利用する支援との間にあるギャップの代償を払い続ける。
世界保健機関(WHO)は、うつ病と不安症によって世界で毎年120億労働日が失われていると推計している。一方、Business Group on Healthは、雇用主が2026年の医療費について、制度設計の変更前で中央値9%の増加を見込んでいると報告した。このような環境で、単に慣れ親しんでいるという理由だけで、成果が出ているかどうかも把握しないままプログラムを更新することは、保守的な経営ではない。継続的な低パフォーマンスのコストは、変化に伴う一時的な摩擦より低い、という測定されていない賭けである。その賭けが正当化される場合もあるだろう。しかし、リーダーは遅延を既定路線にするのではなく、その賭けを計算すべきである。
移行リスクと戦略リスクを切り分ける
ベンダー変更には必ず移行リスクが伴う。従業員には明確なコミュニケーションが必要だ。既存のケア関係は守らなければならない。データ、プライバシー、アクセシビリティ、グローバル要件には慎重な計画が求められる。リーダーはこれらすべてを精査すべきである。
しかし、移行リスクは通常、一時的で管理可能である。戦略リスクは複利的に膨らむ。あるプログラムが常に従業員のごく一部にしか届いていないなら、さらに1年待つことは、早期介入の機会をさらに1年逃すことを意味する。従業員が改善しているかどうかをリーダーが把握していないなら、プログラムの更新はその不確実性を解消するのではなく、長引かせる。
これは、慣れ親しんだプログラムをすべて置き換えるべきだという意味ではない。既存の仕組みと代替案の双方に、同じ証明責任を課すべきだという意味である。到達範囲、質、成果、従業員体験、経済的価値だ。信頼できる移行計画は、導入に関する懸念で議論を終わらせることなく、混乱を減らすものでなければならない。
不作為を行動と同じ真剣さで評価する
より規律ある意思決定プロセスは、現状維持を検討中の提案の1つとして扱うことから始まる。既存の仕組みは、すでにそこにあるという理由だけで自動的に選ばれるべきではない。さらに1年続けることは、証拠によって正当化される必要がある。
リーダーは、次の5つの問いから始めることができる。
1. 対象となる従業員のうち、どの割合がプログラムに意味ある形で関与しているのか。
2. 支援を必要としている可能性があるにもかかわらず、届いていない従業員は何人いるのか。
3. 人々はどれほど早く支援を受けているのか。予約を依頼した時点からだけでなく、苦しみ始めた時点から測定する。
4. 臨床上の成果、従業員のパフォーマンス、医療利用の改善を示す証拠は何か。
5. 同じパフォーマンスがもう1年続いた場合、組織にはどの程度のコストがかかる可能性が高いのか。
これらの問いは比較の軸を変える。移行の不便さと慣れ親しんだ安心感を比べるのではなく、リーダーは2つの未来の状態を比較する。変えることによって期待される結果と、変えずにいることによって期待される結果である。
最後に、更新をもう一度承認する、あるいは判断を先送りする前に、最高人事責任者(CHRO)は1つの問いに答えられなければならない。現在のメンタルヘルスプログラムが、成果を変えられるほど早い段階で従業員に届いていることを示す証拠は何か。答えがネットワークの規模、予約の取りやすさ、利用状況レポート、あるいは「苦情は聞いていない」であるなら、その組織にはプログラムが機能している証拠はない。あるのは、現状維持が真剣に検証されたことがないという証拠である。
解決策は、慣れ親しんだプログラムをすべて置き換えることでも、新しい製品を何でも追いかけることでもない。変化そのものを目的にすることは戦略ではない。しかし、分析なき先送りもまた戦略ではない。優れたガバナンスには、リーダーが待つことのコストを可視化し、更新に必要な証拠を定め、明確な期日までに判断する責任を誰かに明確に割り当てることが必要である。
待つことは、より安全な判断のように感じられるかもしれない。しかし、現在のプログラムが誰に届いているのか、人々が改善しているのか、もう1年続けると何がかかるのかを知らないまま変化を先送りすることは、リスク回避ではない。リスク受容である。
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