ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の特使、キリル・ドミトリエフは「重要で、真に歴史的な瞬間だ」と評した。ドナルド・トランプ米大統領は2026年10月16日、対ロシア制裁法「グラム法」の一部の適用を停止する大統領令に署名した。グラム法は、ロシアのエネルギー収入やロシア産資源の購入者、原油を運ぶ「影の船団」と呼ばれるタンカー群を制裁対象とする法律だ。
米政府は10月9日の時点ですでに、ロシアが世界市場に軽油(ディーゼル)を追加供給する見返りとして、ロシア産軽油の取引を認可していた。欧州理事会のアントニオ・コスタ議長は対照的な見解を示し、「今は対ロシア制裁を緩める時ではない」と述べた。
米政府が制裁の一部停止に踏み切ったことは、ロシアのエネルギー施設を狙うウクライナの攻撃が、米国の国内事情と衝突している現実を鮮明にした。10月15日、ウクライナの無人機攻撃によってロスネフチのリャザン製油所で火災が発生した。同製油所はモスクワ周辺に燃料を供給し、ロシア全体の原油処理能力の約5%を占める。
同日朝に公開された英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、製油所への攻撃を3日間停止していたと説明した。トランプが10月11日に発表した「エネルギー停戦」に従うためだったが、ロシアがウクライナの送電網や燃料貯蔵所への攻撃を続けたことから、攻撃停止を終えたという。
ロシアの民間施設へ攻撃対象を広げたウクライナ、戦略的な効果は不明
短い攻撃停止期間と前後の出来事からは、ウクライナの戦争戦略が抱える難題が浮かび上がる。数カ月にわたり、ウクライナによるロシアの製油所攻撃は世界的な軽油の供給逼迫を強め、米政権の激しい反発を招いてきた。ウクライナ軍は攻撃対象を広げ、ロシアの民間企業や市民が利用するデジタル・交通インフラにも長距離攻撃を加えた。
10月7~14日には、無人機攻撃によってIT大手ヤンデックスのデータセンター3カ所が停止した。さらに、ロシアの国営銀行ズベルバンク向けにバラコボで建設中だった14億ドル(約2212億円)のデータセンターが攻撃された。モスクワの4空港でも、2度にわたって長時間の閉鎖を余儀なくされた。
攻撃対象を広げる判断には理由があるが、戦争全体にどの程度の効果をもたらすかは不明だ。世界のエネルギー供給に打撃を与えて米政府の反発を招いたウクライナは、西側諸国の燃料価格を上げずにロシア国内を混乱させる標的を探したとみられる。
しかし、製油所への攻撃もデジタル施設への攻撃も、決定的な成果には結び付いていない。ウクライナのインフラ攻撃は、自国の勝利につなげる戦略というより、ロシアを敗北へ追い込もうとする試みになりつつある。最新の市場データと技術面の分析は、いずれの目標も達成が難しいことを示している。



