成功しているファミリービジネスを引き継ぐ際、最も無難な選択肢は従来の路線を維持することだ。しかし、2015年にフェアビュー・コーヒー・エステートの経営を引き継いだマイケル・ワルイは、極めて大胆な決断を下した。コーヒー農園を観光目的地へと変えたのだ。この決断は、事業を根底から変革することとなった。コーヒーを直接販売した場合の価格は1キロあたり8ドル(約1万未満円)だが、観光客に入園料を課し、コーヒーを販売すると、1キロあたり50ドル(約1万未満円)を生み出す。
では、この転換を可能にしたものは何だったのか。筆者は過去数年にわたり、この農園を何度か訪れ、ワルイと数多くの対話を重ねてきた。この夏には、彼の歩みとコーヒー農園の再ポジショニングの詳細を理解するため、より長いインタビューを行った。
そこで得た学びは、優れた戦略家を目指すあらゆる人にとって有用なものだ。ファミリービジネスを経営する前の異色の経歴は、無関係な分野からアイディアを見出す強みとなった。現場での実務経験はアイディアを微調整して拡大するのに役立ち、それらを魅力的なストーリーとして提示する能力は、事業の目指す方向性をあらゆる関係者に理解させるのに寄与した。
優れたビジネスアイディアの見つけ方
新しいビジネスモデルは、企業が他業界に目を向けたときに生まれることが多い。しかし、業界の内部関係者から返ってくる典型的な反応は「そんなものはうちでは通用しない」というものだ。重要なのは、適切なアナロジーを見いだす力を養うことである。
ワルイは、南アフリカのブドウ園を訪れた際にアナロジーを見出した。「ワインとコーヒーは、ある面でよく似ていると感じた」と彼は語る。「フランスやカリフォルニアで見かけるワインツーリズムの発想を、コーヒーのバリューチェーンに応用しない手はないと思った」
ワルイはこのコーヒー農園で育ったが、典型的なコーヒー農家とは異なり、専門的なキャリアは業界の外にあった。大学を卒業後、バーを経営し、コンサルティング会社で働いた後、ケニア野生生物サービス(KWS)の創設者であるディビッド・リーキーのチームに参加。さらに複数のNGOの運営にも携わった。イギリスの学校に通い、後にアメリカでも学んでいる。
一連のキャリア転換は、パターンの認識能力を研ぎ澄ます。その都度「これまで学んだことを、新しい環境にどう適用できるか」と考えるようになるからだ。そのため、ワルイがブドウ園のモデルに出会ったとき、既存の通念にとらわれることはなかった。同時に、何が機能し、何が違いすぎるかを見極められるだけのコーヒーに関する知見も持っていた。つまり、彼の「インサイダーでありアウトサイダーでもある」という背景が、適切なアナロジーを導き出すのに最適な存在とさせたのだ。
ビジネスアイディアの微調整とスケーリング
このような素晴らしいアイディアを得たとき、一気に全力を注ぎ込みたくなる誘惑に駆られる。しかし、フェアビュー・コーヒー・エステートは危機的状況にあったわけではなかった。ワルイの前に農園を運営していた兄は、コーヒーオークションから直接販売へ移行することで、収益性を1キロあたり4ドル(約1万未満円)から8ドル(約1万未満円)へとすでに高めていた。
また、農園を観光目的地にするというアイディアは魅力的だったものの、それをどう実現するかは不透明だった。そのため、ワルイはゆっくりと始めた。「最初の5年ほどは非常にゆっくりだった」と彼は振り返る。「最初の5年ほどは、決して事業ではなかった。ただ、自分が情熱を持って取り組んでいたものにすぎなかった」
彼は若く情熱的な新卒者を雇い、見学者向けの体験ツアーを設計した。最初の顧客を獲得するため、二人でホテルやツアーオペレーターに働きかけた。また、昔からの家族のネットワークも活用した。彼の父親はケニアから米国への初代大使を務めていた人物だ。ワルイがダートマス大学で学んでいた際に築いたコネクションも加わり、訪問中の外交官をツアーに招くのは容易だった。
時間がたつにつれて、より多くのガイドが育成され、焙煎や包装の能力も整い、徐々に小さな副業は本格的な事業へと変わっていった。
売上高の規模では依然としてコーヒーの直接販売の方が大きいものの、観光事業の利益率は遥かに高い。現在では、バードウォッチングツアーの追加や、敷地内に観光客向けの宿泊施設を建設する計画も進んでいる。
ワルイの過去の経験は、微調整とスケーリングをいかに効果的に組みあわせるかを彼に教えていた。ケニア野生生物サービスに在籍中、彼はマサイ族の村人たちとの交渉に派遣されたことがある。「彼らはKWSが許可した特定の時期だけ公園内に家畜を連れてきていました」と彼は振り返る。「その見返りとして、私たちは地域コミュニティの給水を支援し、家畜の健康を維持する手助けをしたのです」。この経験は、組織と地域コミュニティの双方に利益をもたらす仕組みを作る重要性を彼に教えた。その教訓は現在、農園での子供たちへの教育や魅力的な雇用の創出に活かされている。また、貧困撲滅のためのビジネスソリューションを開発するグローバル非営利組織「テクノサーブ(TechnoServe)」のカントリーディレクターとして、パートナーシップを構築する方法を学んだ。これはホテルやツアーオペレーターと連携する際に非常に有用なスキルとなっている。
自身のビジョンを他者に正しく理解させる
あらゆる新規事業は、最初は単なる夢にすぎない。そして、自国で誰も試みたことがない「コーヒー農園を観光目的地に変える」といった大胆なアイディアには、周囲を巻き込むためにかなり説得力のある物語が必要となる。
ワルイは、洗練されたプレゼンテーションを行うタイプの大企業幹部ではない。気さくでよく笑い、数字とストーリーを組み合わせる。多くの点において、その方が効果的だ。なぜ観光業への参入が重要なのかを説明する際、彼は単なる利益以上の大きなナラティブ(語り)を持っている。「アフリカ大陸は世界の資源の40%を生産していながら、世界貿易のわずか3%にしか関与していません。自分たちの価値を他者に渡して付加価値を付けさせ、それをネスカフェとして買い戻しているのです」と彼は語る。「独立から63年が経った今、なぜそのようなことを続けなければならないのでしょうか」
もちろん、企業もこのようなストーリーを語りたがる。しかし、キャリアの大部分を公的サービスに捧げてきた人物からそれを聞くと、響きが異なる。
彼にはさらに活用できる要素がある。農園はまもなく創業120年を迎えること。価格ではなく品質を最優先していること。そして、訪問者が思い出に残る体験を持ち帰れること。フェアビュー・コーヒー・エステートについて語るとき、これらの要素が一体となるのだ。
ワルイがストーリーテラーとしてのスキルをどこで身につけたのかは定かではないが、それが絶大な効果を発揮していることは確かだ。
戦略家へと至る道筋
優れた戦略家になるための道筋は人それぞれだ。個々の事例を、ビジネススクールでケーススタディを扱うのと同じように捉えてほしい。数多くの事例を分析することで、特定の条件下で効果的に機能する法則が見えてくる。だからこそ、ワルイの成功ストーリーから得られるレッスンは、新たな挑戦を始め、過去の経験をどう生かすべきかを考えるときに、極めて有用な指針となるはずだ。



