かつて長崎の出島が、鎖国下の日本で唯一世界に開かれた窓だったように。本体組織から少し離れた場所で、新しい価値を生み出す組織を「出島組織」と呼ぶ。そうした出島組織の知恵や経験を交換する場として、長崎で「出島組織サミット」が2021年から開催されている。
この連載では2024年2月に発行した書籍『出島組織というやり方ーはみ出して新しい価値を生むー』に収録しきれなかった、日本各地の面白い出島組織の実践者たちに話を聞いていく。
今回紹介するのは、従来の事業承継や後継ぎのイメージを変える事業に取り組んでいる、山野千枝さんだ。
コスプレ用のひび割れない塗料。そんなニッチな商品がSNSで話題を呼び、ハンズに売り場ができるほどの大ヒットになった。開発したのは、産業用塗料を売ってきた大阪の老舗メーカー「斎藤塗料」だ。
なぜ、老舗の産業用塗料会社から、BtoCのサブカル向け製品が生まれたのか。その裏には「出島型アトツギ」の活躍があった。
アトツギ業界にも「出島型」が増えているという。これまで継続してアトツギ支援に取り組んできた「一般社団法人ベンチャー型事業承継」代表理事を務める山野千枝さんに、その話を伺った。山野さんの取り組み自体が、中小企業の出島をつくるような取り組みでもある。「組織や地域のしがらみで、新しいことがうまくできない」そう感じている人は、ヒントや勇気をもらえるはずだ。
若殿のご乱心が、大ヒットに
━━アトツギ支援をずっとやってこられた山野さんから見て、「アトツギ業界の出島」で、結果を出した事例はありますか?
山野千枝(ベンチャー型事業承継 代表理事):たくさんありますよ。たとえば、大阪にある「斎藤塗料」さんの事例は面白いです。斎藤塗料は産業用塗料を扱う老舗の企業です。そこのアトツギの菅さんは、前職でDeNAにいてゲーム開発をやっていました。
━━おもしろい経歴ですね。
山野:彼はサブカル業界に精通していたので、「コスプレイヤーの人たちが衣装やブーツを自分で塗装すると、動いた時に塗料がひび割れてしまう」という課題を知っていたんです。そこで、激しく動いてもひび割れない塗料「ウレヒーロー」を開発しました。
━━産業用の塗料会社が、BtoCのコスプレ用塗料を?
山野:そうです。ゲーム業界での知見を活かしてSNSで広めたら、これがめちゃくちゃバズって、ハンズに売り場ができるほどの大ヒットになりました。
━━面白いですね。社内の反応はどうだったんでしょう。
山野:当初、社内の職人さんたちは「うちは産業用塗料の会社なのに、1本数百円のものを売っても……」と、理解されなかった。「若殿のご乱心」だと思っていた人も多かったはずです。
━━本島から見たら、出島でやってることは理解が難しい。
山野:でも「ウレヒーロー」で業界内に名前が轟いた結果、「あのひび割れない塗料の技術があるなら、こんなこともできないか?」と本業の方の引き合いが爆発的に増えたんです。
━━出島の成果が、本島に還元された。
山野:今までずっと下請けで「安くしろ、早くしろ」と値引き交渉ばかりされていたのが、自社開発の技術があるから「こんなことできませんか?」と対等に依頼が来るようになった。今、本業がめちゃくちゃ忙しくて、彼自身も熱狂して仕事を楽しんでいます。



