先日、妻と自分のためにオンラインでホテルを予約した。2人分の予約だったが、システムでは2人目の宿泊者(妻)の名前を入力するよう求められなかった。妻の方が私より先に到着する予定だったため、チェックインできるように名前を追加したかった。
単純に思えた依頼は、5段階のプロセスになった。
自分では予約に妻を追加できなかったため、ホテルのウェブサイトにあるチャットボットを利用した。提示された解決策は、ライブエージェントと話すことだった。
そのエージェントは「対応できない」と言い、ホテルに直接電話するよう案内した。ホテルの従業員も変更できず、予約係に電話するよう言われた。予約係から案内されたと伝えても、同じ答えだった。
私は再び電話し、別の予約係と話したところ、「喜んで対応します」と言われた。
問題は解決した。
チャットボットが対応できなかったことには不満はなかった。少なくとも、自らの限界を認識し、誤った情報を伝えなかったからだ。引っかかったのは、最初の人間のエージェントが、単純に思える依頼に対応できなかったことだった。なぜ2人目の予約係は、1人目にはできなかったことを簡単にできたのか。
研修の違いだったのかもしれない。あるいは別の要素、すなわち判断力だったのかもしれない。
判断力は新たな顧客サービススキルである
長年にわたり、顧客サービス研修は、従業員が知るべきこと、実行すべきことを教えることに重点を置いてきた。製品を学び、システムを学び、方針を学び、顧客の質問に適切に答え、問題を解決する方法を学ぶ、というものだ。
そうしたスキルは重要だが、テクノロジー(AI)は今や多くの基本的な質問に対応できる。AIはナレッジベースを検索し、情報を要約し、多くの定型的な質問を処理できる。
では、従業員に残されるものは何か。より難しい事柄である。そこには、通常とは異なる依頼、不満を抱えた顧客、方針や標準業務手順に当てはまらない問題が含まれる。
だからこそ、未来の顧客サービスにおける重要なスキルの1つは、共感力と並んで、判断力なのだ。
判断力を育てる研修
私は最近、世界で最も訪問者数の多い教育関連ウェブサイトであり、教育向け学習管理プラットフォームCanvasを手がけるInstructureの最高顧客責任者、レイチェル・オーストンと話した。企業が顧客対応にあたる従業員をどのように育成するかについて話し合っていたとき、彼女は興味深いことを述べた。
彼女はこう言った。「私たちが間違ったスキルを研修しているのかどうかさえ、確信がありません。そもそも研修をしていると言えるのかもわかりません」
彼女が言いたかったのは、多くの企業が研修と呼んでいるものは、実際には情報伝達だということだ。従業員はオンラインまたは対面でプレゼンテーションを視聴し、プロセスを学び、クイズを受け、顧客対応を始める。
この種の情報伝達は、答えを見つける方法を教える場合には機能する。しかし、明らかな答えがないときに何をすべきかは教えられない。
判断力はパワーポイントのプレゼンでは身につかない
判断力は、暗記するものではない。育てるものだ。従業員は多くの場合、人生や仕事の経験から得た判断力を持ち込むが、企業はそれを新しい職務でどのように生かすかを学べるよう支援しなければならない。
判断力は、経験、実践、コーチング、ロールプレイングを通じて育つ。多くの場合、明らかな答えは存在しない。そこで必要になるのが判断力である。
ここに、AIが生み出す興味深い課題がある。
企業が定型的な顧客対応を自動化するなかで、チャットボットやセルフサービスの仕組みは、簡単な質問に正確かつ効率的に答えられる。それは顧客にとっても企業にとっても良いことだ。
しかしオーストンは、意図せぬ結果を指摘した。これまで、こうした比較的簡単なやり取りは、新人や経験の浅い従業員が基本的な質問に答えることで経験を積み、やがてより難しい質問に対応できるようになるための助走路になっていた。
では、AIがその「助走」の経験を奪ったらどうなるのか。企業は簡単な仕事を自動化しておきながら、経験の浅い従業員が難しい問題への対処法を魔法のように理解していると期待することはできない。従業員が実際の顧客対応を通じて判断力を育てる機会が減るなら、企業はそのための研修をより意図的に設計しなければならない。
「リーズナブル部門」の発想
数カ月前、私はユナイテッド航空のカスタマーケア担当グローバルVPであるブライアン・ストーラーのアイデアについて書いた。彼は「標準業務手順が存在しない事柄に対する標準業務手順とは何か」と問いかけた。
彼の答えは、リーズナブル部門だった。判断力、文脈、共感力が合わさり、難しく非定型的な事柄に対応する場所である。
この概念は、かつてないほど重要になっている。AIが予測可能なやり取りをより多く処理するようになるにつれ、人間には予測不能なやり取りへの対応が求められるようになる。
人に考える訓練を施す
これは、技術的な研修が不要になるという意味ではない。従業員は引き続き、製品、方針、テクノロジーなどを理解する必要がある。しかし、研修はそこで止まってはならない。従業員は、答えや解決策が明らかでないときに質問に答え、問題を解決できるよう訓練を受ける必要がある。
従業員に意思決定をさせることだ。通常とは異なる状況をロールプレイし、なぜある対応が別の対応より優れているのかを話し合う。何より重要なのは、従業員がすぐにマネージャーへエスカレーションすることなく、妥当な判断を下せる権限を与えることである。
私たちは長年、従業員に答えを知るための訓練をしてきた。これからは、答えが明らかでないときに何をすべきかも訓練しなければならない。
最後に
妻の名前をホテル予約に追加したいという、私の単純な依頼に戻ろう。これは本当に、通常とは異なる、複雑で難しい依頼だったのだろうか。
チャットボットにはできなかった。最初のカスタマーサービス担当者は、私を別の窓口へ回した。ホテルの従業員は変更できなかった。2人目の予約係は、「喜んで対応します」と言った。
最後の担当者の何が違っていたのか、私にはわからない。より良い研修を受け、より大きな権限を持っていたのかもしれない。以前に同じ状況に遭遇していたのかもしれない。あるいは単に、優れた判断力を用いたのかもしれない。
AIがより多くの定型的な顧客対応を担うようになるなかで、これは企業にとって新たな機会であり、課題でもある。最前線に残る人々に必要なのは、方針、プロセス、答えを知っていることだけではない。それらだけでは不十分なときに何をすべきかを知っていることが必要になる。
そのとき、判断力は競争優位になる。



