成功をもたらす主な要素としては、「リスクを取ること」が挙げられることが多い。よく語られるのは、成功した人は他の人々が二の足を踏むような不確実な道に、あえて踏み出すことを恐れなかった、という話だ。この考え方には一理あるが、本質的な部分が見落とされている。
大きな成功を収める人は、必ずしも他の人より多くのリスクを取るわけではなく、より賢明なリスクを適切なタイミングで取る傾向がある。妥当なリスクを見極め、条件が整ったときに行動に移す能力は、1つのスキルであり、おそらくこれこそが一貫して他の人と異なっている資質だ。
「大胆さ」だけでは成功を説明できない理由
私たちが大胆さを過大評価する理由の1つは、リスクを取って成功した人の話ばかりを耳にするからだ。心理学者はこれを「生存者バイアス」と呼ぶ。大胆な行動に出て成功した人がいる一方で、同じように行動して失敗した人は大勢いるが、失敗した人たちの話が語られることはほとんどない。成功した人だけの話を聞けば、無謀さが戦略のように思えてくる。
長いキャリアを通じて成功し続ける人を見ると、実態は異なることが多い。彼らの多くは、たった1つの決断に全てを賭けているわけではない。むしろ、計算されたリスクを長期にわたって積み重ね、その一つひとつを失敗しても完全に打ちのめされない程度のものに抑えていることが多い。注目を集める瞬間は、誰も気にしないような、長年にわたる目立たない決断の積み重ねの後に訪れる傾向がある。
成功する人が考える「良いリスク」
適切に選ばれたリスクには通常、いくつかの利点がある。得られる潜在的リターンが、想定される損失リスクを上回っている、最悪の結果になってもそこから立ち直ることができる、その状況において他の人にはない知識や経験といった形で何らかの明確な優位性がある、などだ。
経験豊富な起業家がどのように意思決定を行うかについての研究が、この点を理解するのに役立つ。不確実性の高い状況下で熟達した起業家が実践する意思決定理論「エフェクチュエーション(Effectuation)」では、経験豊富な創業者は得られる利益より、失っても耐えられるものの方に細心の注意を払っていると説明されている。これはあまりに慎重なように聞こえるかもしれないが、実際には逆の効果をもたらす。損失が許容範囲内だとわかれば、ためらうことなく決断を下すことができるからだ。
このアプローチは、よく知られている人間の思考傾向に逆行するものだ。ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーが提唱し、カーネマンのノーベル経済学賞受賞の根拠となった「プロスペクト理論」に基づくと、人は一般的に、利益と損失が同等だったとしても損失の方をより強く感じる。
学術誌『Journal of Economic Literature』に2024年に掲載されたメタ分析では経済学、心理学、神経科学の研究結果を統合したところ、この傾向が数十年にわたる研究を通じて一貫して確認されていることがわかった。そのため、人は実際には自分に有利な機会であっても往々にして見送ってしまう。成功する人もそうした感情と無縁なわけではない。彼らはただその感情に気づき、それが実際の成功確率を反映したものなのか、それとも単に「失うかもしれない」という不快感から生じているだけなのかを自問する術を身につけているのだ。



