多様化する乗客のニーズに応えるべく、10月1日、東海道・山陽新幹線に最上位クラス「Supreme Class (スプリームクラス)」が誕生した。
JR東海が追求する、新たな移動時間の価値とは──。
自分だけのプライベート空間
ブリーフケースやスーツケースを抱えた人たちが慌ただしく行き交う、東京駅のプラットフォーム。東海道・山陽新幹線の車内には、そんな騒がしさとは無縁の空間がある。10月1日から提供が開始された最上位クラスの座席「Supreme Class(スプリームクラス)」だ。
個室タイプである「Supreme Class Cabin」は、室内に一歩足を踏み入れると、そこは別世界だ。ふかふかのじゅうたんの上に重厚感のあるリクライニングシートが鎮座する。通常なら席上にある荷物棚がないため、圧迫感がなく、室内は広々と感じられる。窓の周辺などには柔らかい光が広がる間接照明を配置し、まるでラグジュアリーホテルのような上質な空間を演出している。
乗車すると、ウェルカムサービスとして京都・辻利兵衛本店の「京抹茶 竹バウム TAKE NO WA」と、1回分のドリンクが用意される。ソフトドリンクに加え、アルコールも選べる。
鍵(電子錠)付きの扉は、改札を通過した交通系ICカードや二次元バーコードで開錠することができる。室内は防音性が高く、扉を閉めれば外部の音はほとんど聞こえない。個室のため、他の乗客と顔を合わせる機会も少なく、プライバシーが守られる。車内アナウンスは音量調節が可能。まさにプライベート空間だ。
シートは、備え付けのタブレット端末でリクライニング、レッグレスト、腰部のランバーサポートを好みに合わせて調節できる。シートヒーターも搭載。照明の色は暖色/白色を選べ、明るさは10段階で調節可能。「おやすみ」「ビジネス」など4つのシーンに合わせて選択できる。モバイルオーダーサービスを利用してドリンクやSupreme Classの利用者限定商品の注文も可能だ。
7号車の個室にはシートとは別にソファがあり、2人でも利用できる。同乗者は乗車券と自由席特急券で利用でき、席を必要としない未就学児を含めれば家族での利用も可能だ。一方、10号車はソファのない1人利用の席となるが、大型スーツケースなどを置いてもスペースに余裕がある。
Supreme Class Cabinには、最先端テクノロジーも組み込まれている。窓ガラスには、AGCが開発した5G対応の透明ガラスアンテナを搭載。専用のWi-Fi環境により、移動中も快適にインターネットを利用できる。
シートスピーカーには、NTTの特許技術「PSZ」を実装したBluetooth対応スピーカーを搭載。周囲への音漏れが抑制され、高音質で没入感を味わえる。
快適性や利便性へのこだわりは細部にまで及ぶ。備え付けのハンガーには、走行中の揺れを抑える工夫を施し、壁には新幹線の再生アルミを枠に用いた美濃焼のオーナメント(JR東海編成に設置)を飾るなど、移動時間を豊かにするアイデアが随所にちりばめられている。移動のひとときを上質に彩る、細やかな工夫の数々だ。
移動時間を「より良い時間」に
新幹線はこれまで、安全を最優先に、いかに速く、正確に、快適に目的地へ届けるかという「移動手段」として進化してきた。しかし、人々の移動に対する価値観は変わりつつある。
かつては、新幹線の利用者はビジネスパーソンが圧倒的に多かったが、コロナ禍を機にリモート会議が当たり前になり、出張ニーズは減少した。その後、人に会う価値は見直されつつあるが、出張のあり方や旅行のかたちは変わった。「推し活」による聖地巡礼やコンサート、インバウンドなど、さまざまな目的や楽しみを求めた移動も増えているという。
そうした多様なニーズに応えるためにJR東海はSupreme Class Cabinに続き、今後さらなる高品質な輸送サービスを提供し、お客様の移動時間を「より良い時間」にしていくことを目指す。こうした取り組みは現在、「今日をいい時間にしよう。GOOD DAY EXPRESS」と題して宣伝・展開されている。東海旅客鉄道(JR東海)代表取締役社長の丹羽俊介は移動中の価値を高めることが狙いだと語る。
「出張や旅行をされる方にとって移動時間というのは、とても貴重なもの。移動手段である新幹線で過ごす時間にも、素晴らしい1日の一部分として高い価値をもたせたいのです」 ※
※「GOOD DAY EXPRESS」インタビューページより引用
その発想を具現化するための第一歩が「Supreme Class」なのだ。個室タイプだけでなく、2027年度中には、半個室タイプ「Supreme Class Seat」の導入も計画されている。10号車のグリーン車を改装し、20席分のスペースに6席を設置することで、ゆったりとした空間を確保。通路との間には鍵(電子錠)付きの扉を設置し、プライバシーを保つ。
Supreme Classが目指すのは、豪華な設備を提供することだけではない。ただ目的地に向かうだけだった「移動時間」を再定義する試みだ。扉を一枚隔てた先には、騒がしさとは無縁の、自分だけの充実した時間が待っている。



