企業にとって最大の競争的優位は、保有するテクノロジーではなく、優れた企業文化にあると言えるかもしれない。つまり、従業員が想像力を駆使しつつ課題に果敢に挑み、自由に新しいことを試し、可能性を現実に変えることができるような文化だ。
何十年にもわたり、企業はイノベーションに多大な投資を行なってきた。研究開発や新しいテクノロジー、デジタルトランスフォーメーション(DX)に資金が投じられ、近年はAI(人工知能)への投資が活発化している。しかし、こうした投資をビジネスにおける実質的な成果につなげる部分では、依然として苦労している企業が多い。
ここでネックになるのは多くの場合、アイデアや人材、テクノロジーの欠如ではない。むしろ、イノベーションの創出を促進する企業文化にある。企業は、創造性の発揮を強制したり、金銭によって好奇心を生み出したり、既存の思考に異を唱えようとする意志を自動化することはできない。しかし、前提条件に疑問を投げかけ、計算できる範囲のリスクをとり、失敗から学び、他の人が見過ごしそうなチャンスを追求してもいい、と社員が思えるような環境を作ることはできるはずだ。
イノベーションは、単なる企業の活動ではない。これは、社内に存在する考え方や行動、協力体制の反映だ。ゆえに企業文化は、イノベーションを支える一要素ではなく、最も重要な基盤の一つと言える。
イノベーション文化を築き上げるには
イノベーションを生み出す企業文化には、いくつかの特徴がある。例えば、より的確な質問を投げかけようとする積極性や、前提条件に異を唱える姿勢などが挙げられるだろう。慢心や旧態依然とした思考に、適応のプロセスを邪魔させないことや、顧客対応と社内のワークフローの両方において摩擦を取り除く方法を常に探すことも含まれる。
これらの要素すべてが合わさって、あらゆる働き手のあいだでイノベーションが花開く機会が生まれる。しかし現実の職場では、何をおいても最初に据えるべき基盤がある。これらの要素は、その基盤を作る取り組みから導き出されるものと言える。
結局のところ企業文化は、イノベーションだけに関わるものではない。そこには、企業の習慣や価値観、信条、目標すべてが含まれている。これらの要素すべてが直接的にイノベーションと関連しているわけではない。それでも、企業で働く個々の社員が、一般論としてのイノベーションにどうアプローチするか、という部分には直接的な影響があるはずだ。
例えば、『International Journal of Health Policy and Management』に掲載されたリポートには、以下のような記述がある。「協調を重んじ、リソースが豊富で、知識の共有が促される環境を醸成する企業文化は、個々のスタッフに対し、自身の強みをフル活用するよう促す。これが、スタッフの創造性や自己効力感、内発的な意欲に良い影響を与え、イノベーションを意識した行動をとるように動機づける」
また、Business Insiderなどで盛んに取り上げられているのが、新興エンターテインメント企業のiKon Presents(アイコン・プレゼンツ)だ。同社は、文化を核とした体験の構築で成功を収めた企業の好例であり、こうした体制が、同社が事業を行なっているニッチ分野でのイノベーション創出につながっている。
特筆すべきは、ライブエンターテインメントに注力する同社の業態が、コラボレーションを重んじるアーティスト主導のプロダクションによって構築されていることだ。文化を育むことで、同社とコラボ相手であるアーティストは、共同で斬新なエンターテインメント体験を作り出すことに成功している。しかも、小劇場でのパフォーマンスから、スタジアムを回る大規模なツアーまで、その対象は幅広い。
加えて、イノベーションを醸成する文化を創出したいと考える企業は、心理的安全性が得られる環境を従業員に提供する必要がある。『Harvard Business Impact』でミッシェル・ボンテールが指摘しているように、最高の成果を出す企業文化は、高い水準を維持しつつ、チームメンバーに対して声を上げるよう促すものだ。
リーダーは、自身の仕事を(挫折を含めて)学ぶ機会と捉えなければならない。それと同時に、すべての関係者に意見を求め、フィードバックに前向きに対応するよう努めるべきだ。逆に、配下の従業員が自らの意見を表明することを恐れている状況では、彼らの知見は言葉にされることがなく、結果としてイノベーションの機会が失われてしまう。
自分の意見を述べたり、プロジェクトが失敗したりしたときに罰せられるかもしれない、という不安がなければ、従業員のモチベーションはさらに高まり、自らの見方を余すところなく表明するようになるはずだ。
こうした環境づくりが特に重要になるのは、多様な人材が集まる職場だ。歴史的に周縁に置かれてきた集団に属する社員は、声を上げることに不安を感じがちだからだ。しかし、この多様性こそが、強靭な企業文化を構築する上で価値を発揮する。さらに、企業内で同調圧力が高まって機能不全に陥ってしまう「集団思考」のリスクを抑えることもできる。



