組織内におけるリーダーシップ問題のほとんどは、スキルの問題ではない。数カ月にわたる調査研究と、独立系代理店の内部で何が実際に破綻しているのかを観察し続けた20年間の経験から、私はひとつのシンプルな結論に至った。スキルや手法の不足が本当の問題であるケースは極めて稀だということだ。リーダーが行き詰まるのは、誰も明確に言語化してこなかったマインドセットや人間関係、あるいはシステムに原因があるからだ。
私の研究により、リーダーシップにおける6つの領域と、それらすべてを貫く7つ目の領域が特定された。順を追って見ていこう。
領域1:自己認識
この領域を最初に挙げたのは、リーダーが自分自身を客観的に見つめられなければ、このリストにあるほかのどの要素も定着しないからだ。自己認識とは、休憩室に額装して飾られている性格診断テストの結果などではない。クライアントとの会議が紛糾した際、「あのクライアントの何が問題なのか?」ではなく「自分に何ができたか?」と真っ先に考えられるかどうかのことだ。
プレッシャーにさらされた際に反射的に自己防衛に走るリーダーは、自らの成長の扉を静かに閉ざしていることになる。これは人格上の欠陥ではない。閉じたループであり、その扉が開かない限り、いかなる教訓も入ってくることはない。
領域2:ピープルリーダーシップとコーチング
優秀な人材が留まるかどうかを左右するのは、ほかのどの領域よりもこの領域だ。最高のパフォーマンスを発揮するチームは、高い心理的安全性と高い基準を両立させている。どちらか一方だけを選ぶようなことはしない。
私は2つの失敗パターンを常々目にしてきた。クライアントサービスやクリエイティブ出身のリーダーは、基準のない安全性を作り出し、厳しい対話を避けたがるあまり、密かに低いパフォーマンスを正当化してしまう。一方、オペレーションや財務出身のリーダーは、安全性のない基準を作り出し、締め切りは守るものの出社を嫌がるようなチームをつくり上げる。どちらも真のリーダーシップとは言えない。
領域3:商業的思考
リーダーは、クライアント対応に長けている、あるいはコンセプト設計に優れているという理由で賢く野心的な人材を採用するものの、数字の意味を教えることなく予算管理の責任を委ねてしまう。スコープの拡大(要求の肥大化)、杜撰な時間管理、現実に見合わなくなった価格設定といった問題は、得られるはずだった利益を失う原因となる。ある調査によると、代理店の60%近くが、未請求のプロジェクトやタスクによって毎月1,000ドル(約15万円)から5,000ドル(約79万円)の損失を出している。さらに代理店の30%では、スコープの拡大だけで毎月5,000ドル(約79万円)以上の損失が発生している。こうした損失は、行われるべきだったスコープに関する協議がなされなかったことに起因することがほとんどだ。
領域4:オペレーションの厳格さ
成長が頭打ちになった代理店は例外なく、創業者個人の超人的な努力が限界を迎えたためにそうなっている。カリスマ性があなたを現在の位置まで引き上げたかもしれないが、さらに上のステージへ連れて行ってくれるのは仕組み(システム)だ。自ら作ったシステムを迂回し、タイムシートの入力を怠ったり、内容を読まずにスコープを承認したりするリーダーは、チーム全体に「システムは任意のものだ」と教えているようなものだ。これはツールの問題ではない。リーダーシップの行動の問題なのだ。
領域5:コミュニケーションと影響力
誰しも自分はコミュニケーション能力が高いと思いがちだが、実際に優れた人はごく少ない。多くのリーダーは一方向には強いがもう一方向には弱い。クライアントには的確だが自チームには曖昧であるか、あるいはその逆である。
この領域で最も重要な行動は主体性だ。クライアントが記憶に残すのは、あなたがどれほど優秀だったかということよりも、自ら質問する前に発生した問題を報告してくれたことの方が多い。
領域6:変化と学習のアジリティ(敏捷性)
マッキンゼーの調査で、私を愕然とさせる事実が判明した。従業員は管理職が想定しているよりもはるかにAIを受け入れる準備ができているのであり、推進の最大の障害となっているのはリーダーシップそのものだというのだ。変革を阻んでいるのは、テクノロジーでも予算でもクライアントリストでもない。私たちが原因なのだ。
劇的な変化を遂げる市場において勝ち残るリーダーとは、誰かが地図を与えてくれるのを待つのではなく、自ら進んで不確実な世界へと足を踏み出す人物だ。彼らは、決して訪れることのない「確実性」を待つのではなく、「私も手探りで進めている」と率直に口にする。
領域7:ほかの6つの領域を結びつけるもの
協調的かつ共有されたリーダーシップこそが、ほかのすべての領域を貫く糸である。3人の組織であれ300人の組織であれ、リーダーシップチームが真のチームではなく「部門ごとのトップの集まり」として機能している場合、その弊害を緩和できるほどの組織的階層を備えた代理店など存在しない。
あなたの組織のリーダーたちが成果について語る言葉に耳を傾けてほしい。「私のチームが大成功を収めた」と言っているだろうか、それとも「私たちの会社が大成功を収めた」と言っているだろうか。そのわずかな習慣だけで、そこに存在するのが本当のリーダーシップチームなのか、それとも才能ある人々がたまたま同じテーブルに座っているだけなのかが、ほぼすべて見えてくる。
今週から始めるべきこと
これらは自己評価だけで達成できるものではない。人間はこうした分野、特に自己認識やコミュニケーションといった測定しにくい分野において、自身の強みを正しく評価するのが苦手なものだ。チームメンバーの2人に、「自分が気づいていないと思われる、彼らの仕事をやりづらくしているあなたの行動」は何かを尋ねてみよう。手厳しく言われても決して弁明してはならない。ただ感謝を伝え、そのフィードバックを真摯に受け止めるのだ。
人間が一度に変えられる行動は、6つではなくせいぜい1つか2つだ。チームが最も早く恩恵を実感できる、最大の波及効果をもつ領域を1つ選び、まずそれに取り組もう。これらすべての領域を100%マスターできる人など存在しない。それは解決すべき問題ではなく、リーダーという仕事そのものなのだ。



