AIをはじめとするテクノロジーツールが農業分野に急速に進出しており、農家とそれを支援する企業の双方で生産性と品質の向上を後押ししている。以下にいくつかの事例を紹介する。小規模な企業を経営している場合でも、同様のAIアプリケーションを手頃なコストで開発できる。あるいは、こうした既存のツールを活用することも可能だ。
ジョン・ディアの農家向けAIアシスタント「JD」
2026年9月に発表された同社の人工知能(AI)アシスタントは、ジョン・ディアの「オペレーションセンター」に組み込まれている。農家が生成する膨大な機器データや作業データと「対話」することで、収量を改善し、農場の収益性を強化できる。何層ものレポートを読み込む代わりに、農家はJDに対して「1時間あたりの作業面積が最も広いスプレーヤーはどれか?」「過去の傾向から見て最適な収穫時期はいつか?」といった質問を投げかけることができる。農家はデータを収集するオペレーションセンターに登録することで、このアシスタントを無料で利用可能だ。
「農家はかつてないほど多くのデータを利用できるようになっているが、真の価値は必要な瞬間にそれを活用できるかどうかにかかっている」と、ジョン・ディアの最高技術責任者(CTO)であるジャーミー・ヒンドマンはウォール・ストリート・ジャーナルに語っている。「JDは、データの海をかき分けて探す体験から、単に質問を投げかけるだけの体験へと変化させる。それぞれの農場やニーズに合わせた回答をわずか数秒で得られるようにすることで、高度なデータ分析を身近なものにしている」
visorProの農機ディーラー向けAIアシスタント「Vi」
AI搭載のナレッジアシスタントである「Vi」は、農業機械や建設機械の販売ディーラー向けに設計されている。機器のマニュアル、過去の作業指示書、技術文書、ディーラー独自の社内ナレッジから情報を抽出し、検索可能なシステムに集約することで、技術者が質問を投入して診断・修理ガイダンスに迅速にアクセスできるようにする。同社によると、同技術は世界125カ所以上のディーラーで利用されている。また同社は2026年9月に「ディーラー・ナレッジ・ポータル」を開設した。これはディーラーが自社の社内リソースをViにアップロードできる新機能だ。この機能により、チームは機器のトラブルをより迅速に診断し、最適な部品を特定できるため、見積もりの精度が向上し、アフターマーケットでの生産性と収益性が高まる。
ある顧客は、こうしたツールが「ディーラー業務にとって極めて重要な正確な情報への迅速なアクセス」を提供していると話す。また、信頼できるサービスナレッジを一元化することで、自社チームが「情報探しに費やす時間を減らし、生産的で請求可能な業務により多くの時間を割くことができるようになる」と予測している。
ユナイテッド・アグ&ターフの機器監視システム「MADE」
MADE(Monitor、Analyze、Decide、Executeの頭文字)は、同社の各拠点を通じてサポートされている1万4000台以上のコネクテッドマシンからデータを監視している。同社によれば、専門スタッフはエンジン負荷や油圧、自己診断トラブルコード(DTC)などの情報にアクセスできる。また、オペレーターの運転席ディスプレイをリモートで確認したり、場合によっては技術者を農場に派遣することなくソフトウェアアップデートを行ったりすることも可能だ。
「何かが故障したという連絡を待つのではなく、リアルタイムでデータを監視している」と、ユナイテッド・アグ&ターフ(UAT)のテクニカルサポートマネージャーであるアンドリュー・サリバンは説明する。「これにより、ダウンタイムが発生する前に介入することができ、顧客にとってすべてが激変する」
スタッツ・イクイップメントの社内専用ChatGPT
ChatGPTに類似した「StotzGPT」は、同社の社内文書と連携している。全24拠点にいる従業員が対話型のディレクトリとして活用し、日常の業務上の質問への迅速な回答や、データ分析を行っている。
「我々はMainstreet AIという企業と提携し、安全なAIツールを提供してもらいながら業務のサポートを受けた」と同社のCTOであるレイン・リッチンスは語る。「そして、全従業員にアクセス権を与えた自社専用のChatGPTを構築し、すべての社内文書と接続した。スタッツ・イクイップメントに関する事業ナレッジを備えているため、誰もがそこでチャットを開始して質問できるようになった」
RDOイクイップメントの自動運転トラクター
ジョン・ディアとの提携によるRDOの自動運転トラクターは、農家がスマートフォンやタブレットを通じて遠隔で作業を監視している間に土壌の耕起を行う。農家が事前に作業計画を作成すると、トラクターはGPS、カメラ、センサー、AIを活用して圃場(ほじょう)を走行し、旋回しながら所定のルートに沿って耕起アタッチメントを牽引する。障害物や危険な状況を検知した場合、システムは自動停止して農家にアラートを送信する。
RDOの耕起技術プロダクトマネージャーを務めるタイラー・ジマにとって、その目的は従業員の時間をより有効に活用することにある。
「それこそが自動運転の本質だ」と彼は語る。「運転席にいなくていいなら、自分は他の何をしているだろうか? 別の圃場で播種機(セダー)の準備をしているだろうか? ガレージに戻って修理を手伝っているだろうか? トラック数台分の荷下ろしをしたり、スタッフを別の圃場に移動させたりできているだろうか? それが何であれ、新たな価値を生み出しているのだ」
アグゼン(AgZen)の「RealCoverage」精密散布技術
散布技術を手がけるアグゼン(AgZen)は、AIのおかげで自社製品が新たな次元に達したと述べる。
「80年もの間、作物の保護はほぼ勘に頼って行われており、散布した薬剤が実際にどれだけ植物に届いたかを測定する信頼できる方法がなかった」と同社CEOのヴィシュヌ・ジャヤプラカシュは語る。「我々はその目隠しを外そうとしている」
同社のAI搭載精密散布技術は、わずか150ミクロンの水滴を追跡する高速カメラを採用している。このシステムは、速度調整や液滴サイズなどのデータに関するリアルタイムのフィードバックを提供し、作物の状況や、どこにどれだけの薬剤を散布すべきかの明確なインサイトをオペレーターに与える。同社はこれを「あらゆる葉の液滴を計測・制御する最初で唯一のシステム」と呼んでいる。
SmartScriptのドローンを活用した雑草散布
センテラ(Sentera)社が開発した「SmartScript(スマートスクリプト)」は、圃場の上空を飛行して高解像度画像を撮影するドローンベースの精密散布サービスだ。センテラのAIがそれらの画像を分析して雑草を検知・分類・マップ化する。その後、対応する精密散布機に対して除草剤を散布すべき場所とすべきでない場所を指示する、圃場専用の散布データを生成する。センテラによると、このデータはドローンの飛行から24時間以内に提供可能だという。
ジーグラー・アグ・イクイップメントのAIヘルプデスク
同社は、Brilliant Harvest Inc.が構築したAI搭載ヘルプデスクシステムを導入し、機器マニュアル、パーツ情報、ディーラー管理システム、社内ナレッジなど、ディーラーシステム全体に分散していた情報を連携させている。これにより従業員が質問して素早く回答を得られるAIレイヤーを構築した。目的は、従業員が情報探しに費やす時間を削減し、顧客により迅速な回答を提供することだ。これまでのところ順調だ。
「Brilliant Harvestを選んだ理由は、彼らの確かな実績、品質に対する妥協のない姿勢、そして大規模な実行能力だ」と、ジーグラー・カンパニーズの社長であるウィリアム・M・ホフトは語る。「このパートナーシップにより、我々は市場の最前線にとどまり続けることができる」
PTx TrimbleによるGPSサポート
機器メーカーのバトラー・マシナリーの子会社であるバトラー・アグ・イクイップメントは、GPS位置情報、センサー、ディスプレイ、自動制御を組み合わせたPTx Trimbleを採用し、顧客が機器をより精密に操作できるよう支援している。同社の技術は、あらかじめ決めた経路に沿って機械を自動操縦し、種子、肥料、薬剤を塗布・散布する場所を制御し、作業の実行中に圃場や機器のデータを収集できる。PTx Trimbleのシステムの多くは異なるメーカーの機械にも取り付け可能なため、農家は単一の農機ブランドに縛られることなく、さまざまなメーカーの機器でこの技術を利用できる。
AGCOの会長兼社長兼CEOであるエリック・ハンソティアは、PTx Trimbleによって農家が「運用するトラクターやアタッチメントのブランドに関わらず、次世代の精密農業ツールをより広く利用できるようになる」と述べている。



