インテル株は2025年秋から2026年秋にかけて、半導体業界でも特に目覚ましい回復を遂げた。人工知能(AI)ブームを追い風に、株価は52週安値の32.89ドルから高値の142.35ドルまで上昇した。2026年6月下旬のピークから下落し、米国時間10月16日の終値は89.85ドルとなった。それでも2025年12月31日の終値36.90ドルと比べれば、約143.5%高い。
最高経営責任者(CEO)のリップブー・タン(Lip-Bu Tan)は、遅れていた半導体製造技術の立て直しに取り組んでいる。AIの利用が学習から推論へ広がることで増加するCPU需要を取り込み、不振の半導体受託製造事業を長期的な収益源に育てる方針だ。経営再建への期待が、インテル株に再び投資家を呼び込んだ。
業績にも改善が表れている。インテルの決算発表によると、2026年第2四半期の売上高は前年同期比25%増の161億ドル(約2兆5599億円)だった。増収率は15年超ぶりの高さとなり、調整後の粗利益率も前年同期の29.7%から41.8%へ改善した。次の第3四半期決算は、2026年10月29日の米国市場取引終了後に発表される予定だ。ただし、株価が大きく上昇した後に下落しても、どこまで回復期待を織り込んでいるのか。現在の株価で買う価値があるのかは、慎重に考える必要がある。
タンCEOが進める経営再建は、製造事業の復活につながるか
ベンチャーキャピタル業界で長く活動してきたタンが、2025年3月にCEOに就任してから、インテルの再建は本格化した。タンが引き継いだのは、半導体製造の遅れや市場シェアの低下に苦しみ、巨額の設備投資が必要な受託製造戦略にも疑問が向けられていた企業だった。
就任後も人員削減を進め、製造後に回路構成を書き換えられる半導体を手がけるアルテラ(Altera)の株式過半数を売却した。不振の車載半導体部門も閉鎖し、ソフトバンクグループとエヌビディアから数十億ドル規模の投資を確保した。タン就任後、時価総額は900億ドル(約14兆3100億円)の安値から、一時5000億ドル(約79兆5000億円)を超えた。2026年10月16日時点では約4721億ドル(約75兆円)となっている。
AIエージェントの普及で、データセンター向けCPUの需要が増す
株価上昇を支える要因は、AIの利用方法が変化していることだ。AIモデルを学習させるだけでなく、学習済みモデルから回答を生成する「推論」や、複数の作業を自律的に進める「AIエージェント」の利用が広がっている。データセンターでは、AIの計算を担うGPU(画像処理装置)とともに、汎用的な処理を行うCPU(中央処理装置)が大量に必要になる。
GPUは同じ種類の膨大な計算を並列処理するのに向いている。CPUは複雑な条件分岐や、実行時に何が起きるか予測しにくい処理への対応に強みがある。インテルのデータセンター・AI部門の売上高は、2026年第2四半期に前年同期比59%増の63億ドル(約1兆17億円)に達した。
CPUの供給不足は、インテルの価格交渉力も強める
AIエージェントの急増でCPU需要が伸び、インテルが満たせる最先端製品の注文は約50%にとどまる。設備に余裕があり、競争も激しかった過去10年とは対照的だ。供給不足は、インテルが販売価格を引き上げやすくなる要因でもある。
高帯域幅メモリー(HBM)やサーバー設備への需要増を受け、半導体などの部品価格も上昇している。インテルは一般消費者と法人向けパソコンに使われるCPUの価格を、最近約10%引き上げたと報じられている。
先端製造技術「18A」の量産と、次世代「14A」の実用化
インテルは先端半導体の製造技術「Intel 18A」を、パソコン向けプロセッサー「Core Ultraシリーズ3」の量産に導入した。製品の開発コード名は「Panther Lake」だ。さらに、一部の製造工程ではオランダの半導体製造装置メーカーASMLの「High-NA EUV」露光装置を使用している。High-NA EUVは、極端紫外線を使って従来より微細な半導体回路を形成するための、次世代の露光技術だ。
High-NA EUVを早期に導入することで、インテルはTSMCなどの競合より先に新技術の量産経験を積める可能性がある。さらに次世代の「Intel 14A」では、2027年に自社製品向けの試験的な生産を始め、2028年に量産を拡大する計画だ。ただし、製造技術が進歩しても、外部の半導体設計企業から十分な発注を得られなければ、受託製造事業の収益改善には結び付かない。
消費電力を抑えるAI推論技術と、投資先を巡る利益相反
インテルは、AI推論用の半導体やシステムを開発するSambaNova(サンバノバ)への投資を計画している。協業計画の対象には、少ない電力で高い推論性能を目指す「データフロー型」の処理技術が含まれる。インテルが狙うのは、GPUとの単純な処理速度の競争だけではない。電力需要の増加、電気料金の上昇、送電網の制約に直面するデータセンターでは、消費電力1ワット当たりの処理性能が重要になる。
インテルは独自のAIアクセラレーターも開発している。SambaNovaなどが手がける異なる処理方式への投資は、AI推論の技術が多様化した場合に備える意味もある。
ただし、タンはSambaNovaの取締役会長を兼ねており、インテルによる出資計画には利益相反の懸念が生じた。インテルは、タンが金銭的な利害関係を持つ企業への投資判断には、タン自身が関与しない必要があると説明している。幅広い業界人脈と技術投資の経験はタンがCEOに起用された理由だが、タンの人脈がインテルの出資先企業と重なれば、利益相反の問題も生む。
2026年10月9日時点では、CEO就任以降、利益相反の懸念を跳ね除け150%超上昇した。投資家は懸念よりも、タンが企業価値を高める手腕に期待を寄せているようだ。



