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2026.10.29 11:00

物流の構造課題にM&Aという選択肢──スピカコンサルティングが描く次世代の物流

日本経済と人々の暮らしを支える物流は、欠かせない社会インフラだ。一方、ドライバー不足や多重下請け構造など、個社では解決が難しい課題も抱える。持続可能な物流をどう築くのか。物流業界のM&Aを支援するスピカコンサルティング 宮川智安の視点から、再編の先にある物流の姿をひも解く。


現在の物流業界について、スピカコンサルティングで物流業界のM&A支援を手がける宮川智安(以下、宮川)は、ドライバーとトラックという経営資源の不足を大きな課題に挙げる。

「ドライバーは全産業平均と比べて労働時間が長い一方、賃金水準には課題があり、若い世代の担い手も減っています。トラックも価格が上昇し、納車まで長い時間を要する。人と車両の両面で、必要な経営資源を確保することが難しくなっています」

加えて、限られた経営資源を十分に活用できていないという問題もある。その象徴が、トラックの積載効率だ。例えば、往路では荷台の8割を使っていても、復路に運ぶ荷物がなければ、往復での積載率は4割にとどまる。実際、業界平均の積載率は約41%とされている。

また、宮川が構造的な課題として挙げるのが多重下請けだ。物流業界では、荷主から受注した仕事が複数の事業者を経て、3次請け、4次請けの運送会社が実際の輸送を担うケースもある。

「実際にトラックを走らせている会社が、損益分岐点を下回る価格で仕事を受けていることもあります。利益が残らなければ新しい車両や設備への投資ができず、付加価値を高めることも難しい。結果、下請けから抜け出せないという循環が生まれています」

多重下請けの是正など、制度面から業界構造を変える動きも進む。一方で、宮川は制度によって取引環境が整っても、すべての企業が成長できるわけではないと考えている。

「制度が変わり下請けが2次までとなっても、現在3次、4次請けにいる会社がそのまま仕事を得られるとは限りません。今後選ばれるのは、環境の変化に対応し、付加価値を提供できる会社だと考えています」

宮川が物流業界に向き合う背景には自身の原体験がある。群馬県で100年以上続く水産卸を営む家に生まれ、幼いころから父の仕事を身近に見てきた。

「父は午前1時には家を出て、新潟で仕入れた魚を飲食店やホテル、学校へ自社のトラックで届けていました。厳しい仕事ですが、父のような人たちがいるからこそ、飲食店やホテルに物が届いている。そのことは子どものころから身近に感じていました」

大学卒業後は、中小企業の力になりたいとM&A業界へ。経営者と向き合い、その企業が大切にしてきた考えや経営哲学を理解したうえで成長を支援できる仕事に魅力を感じたという。2020年、日本M&Aセンターに入社し、立ち上がったばかりの物流専門チームに配属された。

「身近にトラックがある環境で育ったこともあり、物流への配属は率直にうれしかったですね。物流業界が抱える課題をM&Aによって解決し、企業が変わっていく姿を見られることに、この仕事の意義を感じています」

経営資源を組み替え、付加価値を高める

個社では解決が難しい物流業界の課題に対し、宮川が有効な手段のひとつと考えるのがM&Aだ。往路に荷物を積み、復路が空車となる場合も、グループ内に帰路と同じエリアから運ぶ仕事があれば、帰り便に荷物を積むことができる。車両についても、複数の4トン車で運んでいた荷物を大型車に集約するなど、グループ全体で効率的な運行を組めるようになる。

「限られたドライバーや車両を、グループ全体で補完し合えるようになる。M&Aは、会社の規模を大きくするだけではなく、今ある経営資源をどう生かすか、という選択肢が増えます」

宮川は、効率化だけを求めているわけではない。重要なのは、自社の延長線上では難しかった付加価値を生み出せることだと話す。

「運送会社が3PLへ事業を広げるには、倉庫や作業員、WMS(倉庫管理システム)、運営ノウハウなどが必要です。すべてを自社でそろえるのは容易ではありませんが、すでにそうした機能を有する企業と組めば、これまで提供できなかったサービスを顧客に提供できるようになります」

M&Aによって新たな価値を生み出した例として宮川が挙げるのが、相模原の運送会社だ。当時、同社は経営・財務面に課題を抱え、他の仲介会社から支援を断られていた。しかし宮川は、その企業がもつ物流拠点としての立地に着目した。

「財務状況だけを見れば難しい案件でしたが、私には立地に大きな価値があるように見えました。物流では、荷主や配送先との位置関係から拠点を置きたいエリアが決まります。ただ、希望するエリアに土地が空いているとは限らない。土地や人材、トラックを一から確保することを考えれば、すでに稼働している拠点を引き継げる価値は大きい。この会社なら特定の2社と組める可能性があると考えました」

スピカコンサルティング物流業界支援2部部長 宮川智安
スピカコンサルティング物流業界支援2部部長 宮川智安

宮川が候補と考えた2社のうち1社とのM&Aが成立。グループ入りした同社は1年足らずで黒字化し、その後は自ら買い手としてM&Aに取り組むまでに成長し、保有車両も当時の約5倍に増えたという。

企業同士の組み合わせを考える際、宮川が見るのは財務や経営資源だけではない。運送会社を訪れると、トラックの状態や装備にも目を向ける。

「トラックがきれいな会社と汚れている会社では、経営者の考え方も違います。フロントグリルやハンドルカバーなどを見れば、ドライバーによるカスタマイズを会社がどこまで許容しているかもわかる。そうした細部に、社員との関わり方や運行管理に対する経営者の考え方が表れます」

宮川は運行管理者の資格をもち、点呼や車両管理、タコグラフなど、運送会社に求められる実務にも精通する。財務資料だけではとらえにくい企業文化や経営者の価値観まで把握し、双方の相性を見極めることも、物流業界に特化してきた経験が生きる部分だ。

業界再編の先にある物流の姿

物流業界の再編は、今後さらに進むと宮川は見る。M&Aの対象も小規模事業者だけではなくなり、中堅企業が大手グループに加わるケースや大手同士の再編も目立ち始めている。その先に宮川が見据えるのが、「フィジカルインターネット」という構想だ。企業の垣根を越えて物流網や拠点を共有し、限られた人員や車両を効率的に活用する物流インフラの構築を目指す。

「業界再編によって、個々の企業がもつ物流網がつながり、小さなネットワークが生まれていく。それらがさらに連携することで、物流そのものがインフラとして機能するようになる。私は、フィジカルインターネットが業界再編のひとつのゴールになると考えています」

宮川の視線は、物流の仕組みだけでなく、そこで働く人たちにも向けられている。

「物流業界の方々にとって、最も身近に相談できる存在になりたい。そして、ドライバーをはじめ物流に携わる人たちの地位を高め、若い人たちが憧れる仕事にしていきたいと思っています」

物流を支える企業の価値を見いだし、組み合わせ、新たな競争力へと変えていく。その積み重ねが、限られた経営資源で社会の物流を支えていく一つの道筋になるのかもしれない。

スピカコンサルティング
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みやかわ・ともやす◎スピカコンサルティング物流業界支援2部部長。群馬県出身。実家は7代続く水産卸。早稲田大学卒業後の2020年、日本M&Aセンターに入社し、物流業界専門のM&A業務に従事。21年度には同社で最も多くの物流業界M&Aを成約に導く。23年スピカコンサルティングに参画。

Promoted by スピカコンサルティング | text by Motoki Honma │ photographs by Takayuki Abe │ edited by Aya Ohtou(CRAING)