執筆:オリオール・イグレシアス(Esade教授 兼 研究担当副学部長)
企業のコーポレートコミュニケーションは信用危機に直面している。あまりにも多くの組織が報告書を飾り立て、都合のいい半分の事実だけを語り、根拠のない感情的なメッセージに投資している。欧州委員会(EC)の報告によると、環境に関する主張(グリーンクレーム)の53%があいまい、紛らわしい、あるいは根拠がない情報であり、40%は裏付けとなる証拠を欠いているという。
こうした慣行はステークホルダーの懐疑心をあおり、信頼を損ない、企業のレピュテーション(評判)を脆弱なものにする。しかし企業は、「透明性(transparency)」「具体性(tangibility)」「追跡可能性(traceability)」という3つの柱に基づくアプローチである「誠実なコミュニケーション(conscientious communication)」を通じて、信頼を再構築することができる。
透明性とは、成功だけでなく失敗についてもオープンにすることを意味する。また、何がうまくいかなかったのか、それをどのように対処するつもりなのか、そしてコミットメント(約束)を果たすために何が必要かを説明することも求められる。オーストラリア発のソフトウェア企業アトラシアン(Atlassian)を例に挙げよう。同社のコアバリューの一つは、そのアプローチを驚くほど率直な言葉で表している。「オープンな会社、ごまかしなし(Open company, no bullshit)」だ。同社のサステナビリティ報告書は、是正措置とともに進捗と不備の両方を記録することで、この原則を実践している。例えば、2025会計年度の報告書では、出張による排出量の増加を認め、その問題への対処を支援するための社内炭素課金(インターナル・カーボンプライシング)の計画を打ち出している。
このような情報開示は、ステークホルダーが業績を評価するうえで、より信頼できる根拠を与える。不十分だった点を進んで認める企業は、進捗についての説明にも説得力が増す。
誠実なコミュニケーションには具体性も不可欠だ。具体性とは、意欲的な目標を具体的かつ測定可能な情報に落とし込み、進捗を定期的に報告することを意味する。例えば「2035年までにカーボンニュートラルを達成する」というコミットメントは、その企業が今日何に取り組んでいるのかをステークホルダーにほとんど伝えない。そのコミットメントを評価するためには、中間目標、実績データ、そして企業がどのように移行を管理しているかの説明が必要となる。信頼性は、約束の背後にある取り組みを可視化できるかどうかにかかっている。
オランダのチョコレート会社トニーズ・チョコローリー(Tony's Chocolonely)はこのアプローチを体現している。同社のミッションはカカオ産業における搾取の撲滅を支援することであり、カカオの調達方法や農家への支払方法の改革を通じて貧困と児童労働に対処している。その野心は自社製品にとどまらない。「トニーズ・オープン・チェーン(Tony’s Open Chain)」を通じて、他社にも同社の調達原則を採用するよう働きかけている。同社はカカオを供給する協同組合における児童労働の情報を公開し、業界全体の基準と比較することで、その目標を具体化している。また、農家への支払いに関する情報とともに、売上総利益(粗利益)を含む財務情報も開示している。重要なのは、同社の報告書がサプライチェーン内に依然として児童労働が存在していることを認め、それを特定し対処するための取り組みを説明している点だ。このレベルの細部まで公開することで、ステークホルダーは事業がどのように運営され、ビジネスモデルのどこに改善が必要なのかを精査できるようになる。これは大まかな倫理的コミットメントを、人々が検証可能な形へと変換するものだ。
誠実なコミュニケーションの3つ目の柱は、追跡可能性(トレーサビリティ)である。これはバリューチェーン全体において、生産の起点、条件、影響を可視化することを意味する。ステークホルダーは、企業がどの原材料を使用し、それらがどこから来て、どのような条件で調達され、完成品へと加工されたのかを理解できるべきだ。
パタゴニア(Patagonia)は早くからこの分野に取り組んだ企業の一つだ。米アウトドア衣料品会社である同社は2007年、製品がどこから来て、それを作るためにどのような資源が必要なのかについて情報を共有するため、「ザ・フットプリント・クロニクルズ(The Footprint Chronicles)」を立ち上げた。この取り組みは当初、一部の製品を対象としていたが、時間とともに拡大し、炭素排出量、エネルギー使用、水消費、廃棄物といった製造上の影響に関する情報を提供するようになった。他の企業も同様のアプローチを採用している。スペインのファッションブランドであるエコアルフ(Ecoalf)はBComeと提携し、原材料の採取から倉庫に届くまでの衣類を追跡し、その影響を評価している。製品にはQRコードがついており、調達プロジェクトやその背後にいる人々に関する情報を消費者に届けている。
「透明性」「具体性」「追跡可能性」が合わさることで、ステークホルダーとのより強固な感情的つながりを築く土台が生まれる。その理由を理解するには、2000年以上前のアリストテレスに遡るのが役立つ。
アリストテレスは説得の3要素として、理性に訴えかける「ロゴス(Logos)」、感情に訴えかける「パトス(Pathos)」、そして話し手の信頼性や人格である「エトス(Ethos)」を挙げた。これをコーポレートコミュニケーションに応用すると、有益な教訓が得られる。「透明性」「具体性」「追跡可能性」は、ロゴスを支える裏付けを与える。そして一貫した行動に裏打ちされたとき、それらは「エトス」、つまりその企業が信頼に値するという確信を確立するのにも役立つ。どちらも、誠実で、アクセス可能で、検証可能な情報を必要とする。感情に働きかけるコミュニケーションは、そうした基盤の上に立つことで初めて説得力を増す。ビジネスリーダーにとっての示唆は明確だ。ブランドと感情的につながることを消費者に求める前に、証拠を示し、信用を獲得すべきだということだ。あまりにも多くの企業が、メッセージの信ぴょう性を高めるための労力を払う前に、感情的なキャンペーンを展開してしまっている。
また、誠実なコミュニケーションを行うには「いつ発信すべきか」を判断する洞察力も求められる。直感に反するように聞こえるかもしれないが、コミュニケーションを行わない適切なタイミングを知ることも、信頼構築において不可欠な要素なのだ。その意思決定を行うための有用な指標となるのが、「アイデンティティ」と「レジティマシー(正当性)」という2つの軸での評価である。
アイデンティティとは、ある問題が企業のパーパス(存在意義)や原則とどの程度合致しているかを指す。そのテーマは、その企業が何を大切にしているかを反映しているか。そのつながりは、ステークホルダーが認識できるほど明確か。一方、レジティマシーとは、その問題に取り組むうえでの企業の信頼性を指す。自らのターゲットを理解しているか。関連する経験や能力、データを持っているか。価値ある貢献を提示し、行動を通じてメッセージを裏付けることができるか。
アイデンティティとレジティマシーの両方が強い場合、コミュニケーションは優先されるべきだ。企業には関連性のある貢献を行う理由があり、それを行う信頼できる根拠がある。アイデンティティは強いがレジティマシーが弱い場合、企業は発信する前に準備すべきである。自らの対象を理解し、必要な能力を磨き、行動の実績を積み上げなければならない。感情に訴えるキャンペーンは、その取り組みの後に行うべきだ。レジティマシーは強いもののアイデンティティとのつながりが弱い場合は、メッセージの発信が明確な目的にかなうものかどうかを検討すべきである。専門性は貢献を正当化するかもしれないが、事業やステークホルダーとの関連性はなお明確である必要がある。アイデンティティとレジティマシーの両方が弱い場合、コミュニケーションはより大きなリスクを伴う。企業のパーパスから切り離され、能力に裏打ちされていないテーマでキャンペーンを展開すれば、グリーンウォッシングやピンクウォッシング、あるいは見せかけのコミットメントだと批判される可能性がある。
誠実なコミュニケーションには、キャンペーンを開始するはるか以前からの自律的な規範(ディシプリン)が求められる。不備を開示し、進捗を示し、バリューチェーンを可視化し、いつどのような発言・介入を行うかを慎重に選択しなければならない。そうした実践こそが、感情に訴えるストーリーテリングに、時を経ても揺るがない信頼性を与えるのだ。



