全米の電力需要急増を牽引する大手IT企業は、必要となる電力の調達先について、その大半が大きなスケールで考えてきた。新設のガス火力発電所、新たな送電線、場合によっては自社専用の電源の確保といった具合だ。だが、グーグル(Google)は今、はるかに小さな解決策を検証している。一般家庭にヒートポンプや蓄電池を設置する費用を同社が負担するというものだ。
「SHARE」と呼ばれるこのプログラムは、仮想発電所(バーチャル・パワー・プラント=VPP)の一種だ。家庭用の蓄電池、スマートサーモスタット(高機能温度調節器)、ヒートポンプ、その他の家庭用機器をネットワークで結び、電力網が逼迫した際に電力会社が信号を送って需要を抑制したり、電力を送電網に逆潮流(供給)させたりする。これにより電力会社は、スポット市場で高額な電力を調達するのを回避し、新たな発電所や電線の整備を延期できるようになる。電力大手のパシフィック・ガス・アンド・エレクトリック(PG&E)がサンフランシスコ・ベイエリアの地域コミュニティでこれを運用し、NPOの「リワイアリング・アメリカ(Rewiring America)」が家庭の参加登録を進め、グーグルが費用を全額負担している。
仮想発電所自体は新しいものではない。新しいのは、家庭を「インフラ」として扱うという視点だ。実際、まだ解決されていない疑問は、電力が混雑しているまさにその場所で、発電所のように家庭を頼りにし、呼び出す(制御する)ことができるかどうかである。もし可能であれば、家庭は単なるエンドユーザーではなく、電力システムの一部となる。
「鐘があれば鳴らして大々的に祝いたいところだ」と、PG&Eで仮想発電所の取り組みを主導するプリンシパル・プロダクト・マネージャーのトレバー・ウドウィンは筆者に語った。「これに資金を出しているのはグーグルであり、電気料金を払う一般の加入者(レートペイヤー)ではない」
約25年間にわたり需要が横ばいだったPG&Eの供給地域では、ハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)や産業部門、電気自動車(EV)の台頭により、電力使用量が増加に転じている。ウドウィンによると、同社のサービスエリアだけで全米のEVの約8分の1を占めているという。カリフォルニア州の電気料金は、すでに全米でもトップクラスの高さだ。そして、新設の送電線を建設するという従来の解決策は、計画に何年もかかり、建設にはさらに何年もかかる。
SHAREは、既存の電力システムで時間と容量の余裕を稼ぐことを目的としている。グーグルは顧客へのインセンティブ、機器、プログラムの運営費用を資金提供している。テスラ、サンラン、リニュー・ホームを通じて、すでに顧客の家庭に設置されている約2万1000台の機器の登録を進めており、これらにより約11メガワットの容量が確保できる見込みだ。さらに、キヤリア(Carrier)製の蓄電池付きヒートポンプをはじめとする大幅に割引されたアップグレード機器を数百台導入する。PG&Eとディマンド・サイド・アナリティクス(Demand Side Analytics)は、グループ全体の機器を単一のリソースとして調整・統括する。実証実験は2027年まで行われ、新設される機器によって2028年までにさらに1メガワットが追加される。
住宅所有者に頼れるのか
電力会社がこれまで20年間にわたって実施してきたデマンドレスポンス(需要応答)プログラムとSHAREを分かつのは、「精度」だ。旧来のモデルは、システム全体のピーク時に電力会社が管内すべての利用者に節電を要請するという、一括での「オン・オフ・スイッチ」のようなものだった。それに対してSHAREは、ボトルネックが生じている特定の送電網区間をターゲットにする。登録された多種多様な機器群に対し、時間ごとの詳細な指示を送信する。蓄電池、サーモスタット、ヒートポンプ、そして送電網に電力を戻すことが可能なEVが、すべて同一の信号に従って作動する。
目標は、PG&Eの計画担当者に対し、これまで持ち得なかったもの、すなわち家庭用機器を送電線と同等の信頼性で頼りにできるという「証拠」を提供することだ。計画担当者がこれらのリソースを確実に頼りにできるようになるまでは、送電網がどれだけの新規需要を新たに受け入れられるかという意思決定に組み込むことはできない。
グーグルが支払うのは、得られた成果に対してのみだ。すでに蓄電池を所有している住宅には、PG&Eの要請に応じて供給した追加電力に対してのみ対価が支払われ、仮に要請がなくても発生していたはずの成果には支払われない。ヒートポンプに関しては、ピーク時間帯には備え付けの蓄電池が装置自体を動かす仕組みになっている。PG&Eの供給地域のうち特に気温が高い地域では、冷房需要がピーク需要の大きな割合を占めるため、専用の蓄電池で稼働する高効率なヒートポンプは、電力網が最も逼迫するまさにそのタイミングで負荷を軽減する。
導入は2段階で進められている。PG&Eはすでに加入者宅の蓄電池にテスト信号を送信し始めている。リワイアリング・アメリカは今年秋から来年にかけて、新規機器の導入を希望する家庭の募集を開始する。参加する住民が日常の習慣を変える必要はない。
「ここで住民が行動を変える必要は一切ない」と、リワイアリング・アメリカの創業者兼CEOであるアリ・マトゥシアクは筆者に語った。機器自体は住宅所有者の所有物であり、蓄電池は二重の役割を果たす。停電時には家庭にレジリエンス(回復力・災害対策)を提供し、送電網が逼迫した際にはPG&Eが活用できるリソースとなるのだ。
マトゥシアクは、SHAREをより大きな構想の試金石と捉えている。「家庭は、毎月電気代を払うだけの末端の顧客としてではなく、エネルギーインフラとして考えられるべきだ」
現在、データセンターの開発事業者は、新たな発電設備の建設、送電網増設費用の負担、自社での電力供給のいずれかの選択肢から選んでいる。マトゥシアクは、その選択肢に「家庭」を加えたいと考えている。ハイパースケーラーが発電所や送電線に費用を投じる代わりに家庭に投資すれば、ヒートポンプや屋根置き型太陽光発電、蓄電池の初期導入費用を引き下げることができる。マトゥシアクによれば、機器のアップグレード費用は大幅に割引され、場合によっては実質無料になるという。売りは「スピード」だ。
「家庭のアップグレードは今日の午後にも始められる」と彼は言う。「許認可を取得し、建設するのに何年もかからない」
懐疑派の主張
懐疑派の論理はシンプルだ。経済学の基本原則として、新規の供給がないまま需要が増加すれば価格は上昇する。そしてデータセンターは新たな巨大需要源だ。PG&Eとグーグルは、SHAREが特定のデータセンタープロジェクトに紐づくものではないと強調する。しかし、今回の実証実験は、将来的にデータセンター事業者が混雑する送電網へのアクセス権を買い取るためのモデルケースとなっている。
大幅に割引されたヒートポンプを得る住宅所有者は、良い取引だと言うかもしれない。一方、新たなサーバーファームの近くに住む近隣住民は、地域社会がビッグテック(巨大IT企業)の電力を補助していると結論づけるかもしれない。
実用上の懸念もある。電力会社が個々の加入者宅に機器を導入しようとするよりも、データセンターの隣に太陽光発電・蓄電池プラントを建設する方が容易かもしれない。参加登録に関するデータもまだ存在しない。さらに、ハイパースケーラー側は送電網が逼迫した際にも自らの電力使用量を削減することがほぼできず、柔軟性に乏しいままだ。
さらに、スケール(規模)の問題もある。SHAREが確保する約12メガワットという容量は、100〜500メガワット以上を消費する単一のデータセンターのほんの一部分をカバーするに過ぎない。
その答えは、送電網のコスト構造の仕組みにある。電柱、電線、変電所といった設備は固定費であり、システムがフル稼働していようが半分空いていようが、すでにコストが支払われている。
「現在の当社の送電網には、十分に空きがある時間帯が存在する」とPG&Eのウドウィンは言う。「高速道路に車が一台も走っていないような時間帯だ」。そうした時間帯により多くの電力を販売し、電気が混雑している時間帯に需要を削減すれば、同じ固定費をより多くの売電量で分散させることができる。そうすれば、すべての人々の電気料金を引き下げることにつながるはずだ。
マトゥシアクも、電力システム全体のメリットは確かにあるものの、現れるのが遅く、料金を支払う家庭からは見えにくいことを認めている。だからこそ、家庭へ直接投資することに意味があるのだ。新しいヒートポンプや電気代の削減という形で、効果を即座に実感できる。PG&E側も、信頼性と料金への影響が分析で証明されるまでは、このモデルを拡大しないとしている。
「100%確信が持てないものを拡大したくはない」とウドウィンは語る。最大の未知数は、同時に最大の機会でもあるかもしれない。人々の車庫にある車だ。「これらは、私たちが慣れているものと比べて巨大な蓄電池だ」と彼は付け加える。
データセンターをめぐる議論は、これまでビッグテックの旺盛な電力需要と一般家庭の電気料金を対立させる構図で語られてきた。SHAREは、その対立を組み替え、住宅所有者が請求書を押し付けられる側ではなく、解決策の一部になれるのかを試している。



