重要なお知らせ 「Forbes」の名称を使用した営業活動にご注意ください

経営・戦略

2026.10.13 08:07

コスト削減の落とし穴──競争優位を支える「プレッシャー・モート」が失われるとき

Adobe Stock

Adobe Stock

すべてのオペレーションリーダーが同じ判断に直面したことがあるはずだ。社内のケイパビリティ(組織能力)は維持費が高く、当年度のリターンが見えにくい。コスト査定を行えば、まさにそれを見つけ出してしまう。コスト査定とは本来、そうした項目をあぶり出すために設計されているからだ。「効率化の罠」とは、最も削減しやすい費目が、実は競争上の優位性を静かに支えているものである場合がある、ということだ。それを削る本当の代償は何年も表面化せず、その原因となった判断がもはや忘れ去られた頃に現れるかもしれない。

プレッシャー・モート(参入障壁・防壁)とは、企業が後戻りできないコミットメントから生じる複利的なリターンであり、実践を通じてノウハウが蓄積される場所で構築される。効率化とモートが衝突するのは、両者が同じ予算を奪い合うからだ。削減に最も適しているように見えるケイパビリティは、状況が変化し、対応に必要な知識が社内にあるかどうかが問われる段になって初めて、その価値を証明することが多い。

閾値(ハードル)か、モート(防壁)か

コスト査定が一括りにしがちな2種類のケイパビリティを区別しておくと役立つ。一つは「閾値(シキイチ)」だ。コスト、スピード、基本品質といった、競争力を維持するための最低条件を指す。もう一つは「モート(防壁)」だ。情勢が変化した際に自社の立ち位置を守るケイパビリティを指す。

閾値は測定しやすく、四半期ごとに改善できるため、最適化の対象になりやすい。一方でモートは、それが必要とされる年まで目に見える成果を生まない。これは、自社が独自に優れている中核能力を見極めて守れという、従来型のコア・コンピタンス論ではない。ここでの罠は、さらに見えにくい。あるケイパビリティが重要だと正しく認識されていても、それでも削られることがある。なぜなら、その削減が承認される四半期こそが、その能力が測定可能なリターンを生まない唯一の四半期だからである。

筆者が知る最も速い判定法はこうだ。明日、自社製品に深刻な問題が起きた場合、その業務を委ねようとしているサプライヤーを呼ばずに、自社の人材だけで根本原因を社内で診断できるか。答えが「ノー」なら、そのケイパビリティは閾値ではない。それはモートであり、コスト査定はまさにそれを誤って分類しようとしている。

エヌビディアが投資を続けたもの

逆の選択を示す最も明快な例は、その価値が広く認識されるまでに何年もかかったケイパビリティである。2006年、エヌビディア(Nvidia)は同社のグラフィックチップを汎用計算に利用する技術「CUDA」を発表した。今日のAIコンピューティング市場が登場する何年も前のことだった。

エヌビディアは何年もの歳月をかけてCUDAの開発を続け、ソフトウェア、ライブラリ、開発者ツールからなる広範なプラットフォームへと育て上げた。2012年以降にディープラーニングが本格化した際、長年にわたるソフトウェア、ライブラリ、そして開発者の習熟度の積み重ねによって構築されたそのエコシステムは、単一の製品とは異なり、短期間で模倣することが極めて困難になっていた。

2023年までに、エヌビディアのデータセンター事業は同社売上高の半分以上を占めるようになった。モートは、それが価値を持つようになった時に買われたものではない。ソフトウェア、ライブラリ、開発者による採用が何年もかけて蓄積したものであり、従来型のコスト査定が見落としがちな、まさに複利的な蓄積なのである。

GEが再構築を迫られたもの

エヌビディアの例は、ケイパビリティの戦略的重要性が明らかになるずっと前から、その価値が蓄積され得ることを示している。逆に、コスト会計上その価値が見えなくなったケイパビリティを企業が削減すると、同じ力学が逆方向にも働く。

ゼネラル・エレクトリック(GE)の経営陣は、そうした逆転劇の一例を語っている。2012年の『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌の記事で、当時のGEの最高経営責任者(CEO)は、同社が数十年前に家電製造の多くを低コスト地域へ移転したこと、そしてその後、アウトソーシングはその事業にとってもはや時代遅れのモデルになったと結論づけたことを説明している。

イメルトはまた、GEが家電事業における社内のイノベーション能力と製造能力を再構築するために投資したことも述べている。より広い教訓は、いったん社外に移したケイパビリティを再構築するには、多大な時間と投資が必要になり得るということだ。

これがコストの問題というよりガバナンスの問題であることを示す隣接的な証拠もある。筆者が共著者として参加した『インターナショナル・ジャーナル・オブ・プロダクション・エコノミクス』誌の研究では、400社以上の製造業者を対象にした調査データから、先進技術の導入だけでは十分ではないことが示された。より強い成果は、その導入を取り巻いて企業が構築したITの高度化とサプライチェーン・ケイパビリティを通じて生まれていた。技術は、それ自体で優位性に転換されるわけではなかった。この研究は生成AIを扱ったものではないため、筆者はこれを本稿の主張を検証するものではなく、以前の波から得られる類例として位置づけている。

削る前に実施すべきテスト

プレッシャー(コスト削減の圧力)がかかると、これは理論上のリスクから、よくあるリスクへと変わる。実際に圧力がかかっている状況では、当四半期を守ることが合理的な対応となる。そして最も削りやすい項目は、なくなっても目に見える破綻をすぐには生まないものになりがちだ。だからこそ、そのテストは削減後ではなく、削減前に重要になる。損害ははるか後になって、競合が失った能力を突いてきた時、あるいは組織がもはや自力で問題を解決できないと気づいた時まで、表面化しない可能性があるからだ。

だから、来年の計画で最大の効率化策について、追加のフィルターを1つ通すべきだ。資金力のある競合も同じ節約を買えるだろうか。そうなら、それはコスト削減として扱えばよい。その削減によって、突然必要になった場合に組織が再構築に苦労するケイパビリティが失われるだろうか。そうなら、その節約は無償ではない。それはモートからの引き出しである。

効率化が敵なのではない。閾値とモートを取り違えることが敵なのだ。規律とは、削減を減らすことではない。圧力が到来する前に、コスト査定のどの費目が静かに競争上の立ち位置を支えているのかを把握し、その理解を伴って予算を承認することである。

(forbes.com 原文)

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事