スプリント(Sprint)とTモバイル(T-Mobile)の合併は、2つの全米規模の携帯キャリア、2つのネットワーク、そして数万人の従業員を統合するものだった。どのような合併にも困難は伴うが、このケースは特に異例だった。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより全米がロックダウンに突入するまさにその時期に、合併が完了したからである。
当時、私はスプリントの全米営業部門を率いており、約1万4000人の従業員を統括していた。両社の統合方法を学びながら、事業をどう継続するか、一般向けサービスをどう維持するか、そして店舗で働く従業員の安全をどう守るか、その舵取りをしなければならなかった。
合併における一般的なアプローチとして私が想定していたのは、両社それぞれの最良の運営原則を、統合後の会社に取り入れることだった。
しかし、経営陣は異なる判断を下した。私たちは全員、Tモバイルのビジネスモデルと企業文化に統合されることになった。スプリントの従業員は、慣れ親しんだ働き方を手放し、全面的に適応する必要があった。
当初、私はその決定に疑問を抱いた。しかし今では、私が見てきた中で最も賢明な統合判断の1つだったと考えている。統合の道筋について全従業員にもたらされた明確さは、運営モデルそのものよりもはるかに重要だった。大規模な変革において明確さが欠けると、すべてのスピードが落ち、チームは抵抗し、あらゆることが難しくなる。
大規模な変革を監督する取締役にとって、「どのように」に焦点を当てることは極めて重要である。取締役会が戦略、財務業績、資本配分、全社的リスクに多くの時間を割くのは当然だ。だが、取締役が探るべきもう1つの次元がある。それは、組織がその変革を実行する準備がどれほど整っているか、である。
大規模変革で注力すべき3つの領域
私は常に、企業は継続的に変革しなければ取り残される、と述べている。しかし、ガートナー(Gartner)が2024年に4300人超の経営幹部を対象に実施した調査では、デジタル施策のうち、平均してビジネス成果目標を達成または上回ったものは48%にとどまることが明らかになった。戦略が強固であっても、チームが変化に備えていなければ失敗し得る。
取締役は、自社が大規模な変革を進めている際に、次の3つの行動を検討すべきである。
1. 変革の実行を事業リスクとして扱う
どのような変革においても、堅実な戦略は出発点にすぎない。問うべきは、組織がその変革を実行できるかどうかである。変革の管理が不十分であることこそ、そもそも多くのリスクが顕在化する理由だからだ。
取締役が変革プロセスを管理すべきではないが、それが重大なリスク要因にならないよう、必要な問いを投げかけるべきである。私がよく尋ねる問いには、「この変革における人の側面について、誰が責任を持つのか」「このプロセスに関わる従業員に対し、どのような明確なメッセージを伝えるのか」といったものがある。
また、変革を伝え、従業員を準備させ、定着度を測定し、抵抗や予期せぬ事業への影響を特定するための、明確な経営責任体制も必要である。
2. 必ず変革計画を求める
スプリントとTモバイルの統合から私が得た最も有益な教訓の1つは、戦略と実行計画を結びつけることの価値だった。取締役会には常に、3年から5年の戦略計画が提示される。それが強固で、全面的に賛同できるものであったとしても、最終決定の前に、経営陣がそれに伴う適切な運営計画を持っているかを確認するため、いくつかの基本的な問いを投げかけるべきである。
・「この戦略を実現するために、組織内で何を変える必要があるのか」
・「最も大きな抵抗や混乱はどこで起こると想定しているのか」
・「実行が戦略に遅れを取り始めていることを示す早期警戒サインは何か」
これら3つの問いは、実行計画が戦略計画と同じくらい練られているかどうかを見極める助けになる。
3. リーダーが変化の中で人々を導けるかを評価する
変革には、リーダーが日々の業務で用いるものとは大きく異なるスキルが求められる。
スプリントとTモバイルの統合時、私たちはパンデミックの不確実性の中で事業を運営しながら、従業員と顧客の安全を念頭に置きつつ、新しいプロトコル、システム、プロセス、期待値、関係性の下で事業をどう回すかを見極めなければならなかった。
最も効果的だったリーダーは、すべての答えを持っているふりをすることなく、チームに明確さを提供できた。彼らは前面に立ち、コミュニケーションを取り、透明性を保ちながら、周囲の組織が変化する中でもチームが成果を上げ続けられるよう支援した。
したがって、大きな変化を評価する取締役は、経営陣にもう1つのシンプルな問いを投げかけることができる。「戦略を前進させる中で、組織を変化の中で導けるリーダーは配置されているのか」
変革の道筋を統治する
今でも私は、特にパンデミックのさなかに、合併に向けた戦略および運営計画について難しい決断を下したマイク・シーバート(Mike Sievert)とその経営チーム、そして取締役会を大いに評価している。統合が成功したのは、人々が自分たちの向かう先と、自分たちに期待されていることを明確に理解していたからである。
当初は意外に見えた決定、つまり2つの文化を対等に融合させないという判断は、変革型リーダーシップに関する重要な教訓となった。それが機能したのは、私たちが道筋における明確さを持ち、戦略的統合をどのように実行するかを定義していたことでスピードを得られたからである。
組織が重要な変革に取り組むとき、取締役はさらに1つの問いを投げかけるべきである。「これらの計画を確実に実行できる運営上の変革フレームワークに、私たちは自信を持てるか」
なぜなら、「どのように」、すなわち運営計画を理解しないまま、目的地である「戦略」を承認することこそ、多くの施策が苦戦する理由だからである。



