ごみ処理からアクセサリー販売、発電まで。パラオで構築する「循環型ビジネス」

ベラウ・エコ・グラス・センターの藤勝雄

ベラウ・エコ・グラス・センターの藤勝雄

9月上旬、パラオのコロールで開催された第55回太平洋諸島フォーラム(PIF)首脳会議が共同宣言(コミュニケ)を採択して閉幕した。12年ぶりのパラオ開催となった本会議は、「Building Economies: Life. Action. Unity(経済の構築:生命・行動・結束)」をテーマに掲げ、気候変動への対応や安全保障、域内経済の強化など多角的な議論が交わされた。

PIFとは南太平洋の島しょ国やオーストラリア、ニュージーランドなど18カ国・地域が加盟する枠組みで、主に政治や安全保障などの分野で地域協力を進めてきた。毎年首脳会合には日米中など対話パートナーの代表も参加している。

今年は日本から内閣総理大臣特使として堀井巌外務副大臣が出席した。在パラオ日本国大使館によると堀井副大臣は、域外国対話パートナー会合や二国間会談などを通して、太平洋島サミット(PALM)を通じた継続的な支援や、太平洋諸島地域が掲げる「2050年ロードマップ」への全面的同意とサポート、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」に基づいた法の支配や安全保障・能力構築(船の提供や海上保安機関の訓練など)の協力といった姿勢を示した。

本会議における最優先課題のひとつとなったのが、気候変動への対策とそれに伴う資金調達の枠組み構築。共同宣言では気候変動に関して「BELAU宣言」が採択され、パリ協定の1.5℃目標維持や公正な手順による化石燃料からの脱却、気候資金への容易な直接アクセスを国際社会へ強く要求した。

また、大陸間弾道ミサイルの発射実験に対する透明性の要求など安全保障に関するトピックや、2026年5月に協定を発効した太平洋レジリエンス基金(PRF)の本格始動と目標資本額5億米ドルに向けた拠出の呼びかけなども盛り込まれた。

議長国パラオが抱えるリスク

では、最優先課題として挙げられた気候変動問題に、議長国パラオはどのように対応しているのか。

世界遺産のロックアイランド群と南ラグーンを有するパラオは、シュノーケリングやダイビングが人気のリゾート地として知られる。沿岸域にはサンゴ礁やマングローブ林などの貴重な生態系が分布し、ジュゴンやタイマイ、アオウミガメなどの絶滅危惧種も生息している。こうした美しい海を生かした観光が主要産業となっているが、近年は海水温上昇によるサンゴの白化を始めとした海洋生態系のリスクの高まりや、海水面の上昇などの危機にさらされている。

パラオのロックアイランド群

そのため2017年には入国時に「島々の美しくユニークな環境を守り、尊重して過ごす」と環境保護を誓約する「パラオ・プレッジ」を導入。2020年にはサンゴに有害な成分を含む日焼け止めの持ち込み禁止に関する法律が施行されるなど、国家単位で強固な環境保全政策を実施してきた。

また、人口は約1万8000人と小規模な島嶼国のため、エネルギー・食糧・日用品のほぼすべてを輸入に頼り、大きな貿易赤字を抱えている。このことが同国の化石燃料依存と輸入ゴミ(プラスチック・ガラス瓶など)の増大という二重の環境負荷を生み、適切な資源循環体制の構築が喫緊の課題となってきた。

「循環型モデル」は島嶼国の希望に

こうした課題に対応する好事例のひとつが、日本人の藤勝雄が立ち上げ、コロール州政府廃棄物管理事務所が推進するリサイクルセンター「ベラウ・エコ・グラス・センター」だ。単なるごみ処理施設ではなく、廃棄物のリサイクル、環境教育、観光、工芸品販売、雇用創出を一体化させ黒字経営を行う持続可能なビジネスモデルである。

「ベラウ・エコ・グラス・センター」の藤勝雄

「たまたま一人の人間が20年間途切れることなく愚直にやってきたこと、それが成功の要因だったのかもしれません」と藤が振り返るように、同センターは小さな変化の積み重ねで成長してきた。

藤は2004年にJICAシニアボランティアとして同州のゴミ管理事務所に着任し、ゴミ管理とリサイクルの指針作りを主導。資源ごみ(ペットボトルや缶など)の回収・分別・輸出などの仕組みを構築したことが評価され、ボランティア期間終了後には同州政府に直接雇用された。

その後リサイクル推進のための法整備もすすめ、2006年には飲料容器の輸入時に1本あたり10セントを徴収する法律(デポジット制度)が可決。1本につき5セントがリサイクル施設の運営費や環境基金に充てられるようになった。

こうした国を巻き込んでの制度・意識改革を進める傍ら、2015年にはガラス工房をつくりアップサイクルもスタート。2021年に規模を拡大して現在のベラウ・エコ・グラス・センターを設立した。同所では、従来からの資源ごみの回収・分別・輸出に加えて、アップサイクル事業として観光客向けに吹きガラス体験やサンドブラスト体験を提供しているほか、ガラスアクセサリーなどの作品も制作・販売。大統領府や外務省の公式ギフトにも採用され、PIFでもファーストレディたちがギャラリーを訪れるなど大きな収益源となっている。

「ベラウ・エコ・グラス・センター」内ギャラリーで販売しているガラス作品の一例

さらに同センターでは、廃棄プラスチックを化学リサイクル(油化)してリサイクル燃料を抽出し発電も行う。これでガラス工房の溶融炉の一部の電気を賄い、サーキュラーエコノミーを実現している。

藤が理想とするのは、一時的な支援ではなく持続的にパラオの経済と社会を支える仕組みづくりだ。「私にも当然寿命がありますから、次のステップとしてこの国の未来のために、ビジネスとして安定させてバトンタッチしたい」。そう話す藤は、同センターの経営体制を整え、ゆくゆくはパブリック・プライベート・パートナーシップ(P.P.P)で運営できる体制を目指している。

廃棄プラスチックと合成ディーゼル燃料

PIF首脳会議において気候変動対策が最優先課題として議論されるなか、パラオで結実しつつあるこの循環型モデルは、同じ課題を抱える島嶼国にとっても大きな道標となるはずだ。


※本取材はパラオ政府観光局の招待(渡航費・宿泊費の提供)により現地にて実施

文=Forbes JAPAN編集部 写真提供=パラオ政府観光局

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