ドナルド・トランプ米大統領は、ロシアとの「大規模なディーゼル燃料(軽油)取引」を大々的に打ち出した。これにより、ロシアは10月に30万トン、11月に50万トン、12月に100万トンの軽油を国際市場に供給することになる。同大統領の発表の直後、米財務省外国資産管理局(OFAC)のブラッドリー・スミス局長が一般ライセンス第135号に署名した。今回の一時的な取り決めにより、米国の制裁下にあるロシアは2027年4月7日まで、米国向けに軽油を輸出することが許可される。これは軽油価格の引き下げにつながる解決策のように聞こえるかもしれないが、実際はそうではない。
端的に言えば、この程度の量では燃料計の針を動かすことすらできず、ましてや世界的な軽油価格どころか、米国内の価格でさえ引き下げることはできない。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の軽油消費量は月間8億5500万バレル、重量にして1億1500万トン弱に上る。つまり、10月分の30万トンという量は、1日当たりの消費量で換算すると、わずか11分間の消費量を賄える程度に過ぎないのだ。別の言い方をすれば、これは米国の1日当たりの輸出量のわずか5%程度だ。もう1つ重要な点は、その軽油が米国に輸出されようと、世界の他の地域に供給されようと、価格への影響は変わらない、すなわち「影響は皆無」だということだ。この供給量では、世界の軽油の需給バランスを変えるには到底足りないのだ。なぜなら、今回の取引によって国際市場に出回る軽油の量が増えるわけではなく、軽油価格は国際的に決定されるからだ。ニューヨークに送ろうが、北京に送ろうが、価格の結果に違いはないのだ。
IEAによると、8月時点でロシアと中東の軽油の生産量は日量160万バレル減少した。これらの地域では、石油精製能力も日量420万バレル失われている。これにより、過去7カ月間にわたり軽油の在庫が徐々に減り続けており、米国だけで在庫が2400万バレル以上減少し、5年平均を12%下回る水準となっている。ロシアとの軽油供給に関する取り決めが結ばれても、世界の軽油消費量は依然として生産量を上回ることが予想されるため、供給不足はさらに拡大していくだろう。しかも、こうした事態は世界的に軽油の需要が高まる北半球の秋から冬にかけて進行している。消費量を上回る生産体制を確立し、在庫の積み増しが始まるまでは、軽油価格の大幅な下落は見込めないだろう。
トランプ大統領が軽油価格を抑制する方策を模索していることは、確かに好ましい動きだ。燃料価格の高騰は、インフレ率や経済のあらゆる側面に波及するからだ。しかし、結局のところ、供給の拡大に勝る解決策はない。供給を増やすことが、価格を適正な水準に戻す唯一の確実な方法なのだ。また、価格引き下げに向けたこうした取り組みがもたらす真の影響について、人々が正しく理解し、それに基づいて事業計画を立てられるようにすることも重要だ。「記録的な水準で価格が下落する」といった誇張された見通しを語ることは、適切な指針を必要としている企業にとって大きな不利益をもたらすことになりかねない。



