かつてベンチャーキャピタル(VC)は、個人的な関係や富裕層同士の取引、どの投資先が最も有望かという「勘」の上に成り立つ、一種の秘密結社のようなものであった。しかし現在、それはアートというよりも、より具体的な科学へと変化している。VCaaS(Venture Capital as a Service:サービスとしてのベンチャーキャピタル)は進化を遂げ、個人や企業が何に投資するかだけでなく、どのような手法で投資するかさえも変えつつある。
この進化の中核にあるのが、ベンチャーキャピタルの土台を形成するオペレーティングシステム(OS)だ。現在、このシステムは人工知能(AI)を活用したテクノロジースタックへと進化している。大きな摩擦を伴う手作業のプロセスの代わりに、データを原動力とするスムーズで効率的なプロセスへと、ベンチャーキャピタルを変化させているのだ。
名刺帳からリアルタイムシグナルへ
従来のモデルにおいて、ユニコーン企業を見つけるということは、パロアルトにある適切なコーヒーショップに適切なタイミングで居合わせることを意味していた。今日では、VCaaSプロバイダーはAIを活用した独自データを用いて、創業者(ファウンダー)がピッチデック(提案資料)を作成するよりもはるか前に「シグナル」を察知する(※開示事項:ペガサス・テック・ベンチャーズもこのソリューションを提供している)。
VCaaSプラットフォームはデータを活用し、インテリジェントで財務的にプラスとなる投資を行う。オープンソースへの貢献度を分析し、急激な動きを正確に監視する機能を備えているため、開発者のアクティビティ情報などを提供できる。
人材の流動性の面では、成功するスタートアップを特定する手法の1つとして、アマゾン、インテル、マイクロソフトといった成功した大企業を離れて起業する人材を発見することが挙げられる。
VCaaSは、アプリストアの成長、クラウド支出、配送トレンドといったデータを分析するためのシステムと専門知識を提供する。実績豊富なVCaaSプロバイダーは、自らの専門知識や機械学習アルゴリズムなどのツールを活用し、スタートアップのイノベーションの全体像と、それをいかに活用できるかを企業クライアントに提示する。投資家は案件がデスクに届くのを待つ代わりに、予測ソーシングによって新たなトレンドのアラートを受け取ることで、企業評価額(バリュエーション)が妥当な水準にあるうちに打って出ることが可能になる。
重要な検討事項
どのVCモデルを選択する場合でも、その課題を理解することが不可欠だ。AI主導のデータ活用に革新的な焦点が当てられているからといって、情報を盲目的に受け入れるのではなく、VCaaSモデルにおける投資の専門家は情報が正確であり、正しいコンテキスト(文脈)にあるかを確認・検証する必要がある。これを怠ると、過ちが生じ、間違った結論に至るおそれがある。多くのVCaaS企業は、投資を行う企業に代わってこの責任を担っている。
企業は自社にとってどのモデルが最適かも検討すべきである。インテル・キャピタルやグーグル・ベンチャーズのようなコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)組織が適切な選択肢となる場合もある。この従来のアプローチは、多額の資金を有し、社内に投資組織を構築するという難易度が高くコストのかかるプロセスに強いコミットメントを持つ企業に適しているだろう。
従業員に影響を与えることなく、目標や戦略、予算をいつでも柔軟に変更したい企業にとっては、案件の発掘(ソーシング)、デューデリジェンス(詳細調査)、継続的な管理を外部委託できるVCaaSの方が適している可能性がある。
VCのテクノロジースタック
かつて、企業のパートナーやファミリーオフィスは四半期に1度、まとまりのないPDFレポートを受け取っていた。今日、ベンチャーOSは一元化されたダッシュボードを提供しており、証券口座を確認するのと同じくらい直感的にベンチャーポートフォリオを管理できるようになっている。
VCaaSの重要な要素の1つが、継続的なディールフロー(投資案件の流れ)だ。VCaaS投資モデルは、人工知能によって強化された経験豊富な専門家の知見に基づき、企業にディールフローを提供する。スタートアップは、企業の目標や戦略的方向性にどれだけ合致しているかに基づいてスクリーニング(絞り込み)される。
あらかじめプログラムされたデューデリジェンスは、自然言語処理(NLP)などのツールを用いて実行される。こうしたツールが法的文書の審査、キャップテーブル(資本金テーブル)の確認、データの精査を行い、潜むリスク(レッドフラグ)を特定する。人力だけでははるかに時間がかかる作業だ。また、VCaaSは信頼性の高い内部収益率(IRR)の計算、投資倍率(TVPI:払込資本に対する総合価値)、即時の市場評価額を提供し、企業の投資判断を支援する。
ダッシュボード感覚で容易になるベンチャー投資
VCaaSのOSの目標は、ベンチャーキャピタルにおける認知負荷を取り除くことだ。富裕層や企業の幹部は、シリーズAの延長調達やプロラタ権(持分比率維持権)といった細かい作業に追われることを望んでいない。実務上の煩わしさを避け、戦略的なアルファ(超過リターン)を得たいと考えているのだ。
自動化されたレポーティングにより、ポートフォリオ管理はプッシュ通知で完結する体験へと変わった。ポートフォリオ企業が特定のマイルストーンを達成したり、ダウンラウンド(前回評価額を下回る調達)の警告を発したりした場合、AIが概要を生成し、ファンド全体への影響を評価したうえで、取るべき対応策を提案する。
このダッシュボード重視のアプローチにより、企業は案件の1ページ要約を確認するだけで、迅速かつ容易に承認を下すことができる。また、VCaaSに特化したOSは、どのポートフォリオ企業が事業部門との連携に成功したかを分析する。これは企業が投資の真の価値を理解する上で非常に貴重だ。
VC環境において、VCaaS企業はAIを活用した予測を用いて、見込まれるエグジット(出口戦略)の予測を支援する。これにより、提携企業は税金への影響やキャッシュフローの動向を計画できるようになる。
企業投資の民主化
VCaaSはベンチャーキャピタルのオペレーティングシステムを一変させた。従来トップクラスのVC企業が提供してきたバックオフィス業務を自動化する確立されたシステムを提供する。VCaaSは、小規模なファミリーオフィスから中堅製造業者まで、あらゆるタイプのクライアントに機関投資家レベルのインフラをもたらす。
ただし、VCaaSの導入を検討している企業は、こうしたメリットにはトレードオフが伴うことも忘れてはならない。サービスのコスト、AIによる示唆を人間の判断に取って代わるものではなく補完するものとして機能させるための人的監視の必要性、そして社内にどれだけの専門知識を保持したいかといった点だ。
今日、最高のオペレーティングシステムを備えていることが大きな強みとなる。AIが有望企業を見極め、定型業務を自動化する能力を磨き続ける中、ベンチャーキャピタルはもはやメモ帳を持った人間が担う仕事ではなく、アルゴリズムによる競争となっているのだ。



