予測AI(predictive AI)は、顧客がサービスを解約する可能性を推定できる。しかし、予測が正しくても、企業の利益が増えるとは限らない。AIの精度だけでなく、予測結果を使って誰にどのような対応をすれば、どれだけの収益を得られるのかを測る必要がある。
独自の予測モデルを用意せずに使える「Jev」への注目
「Jev」と競合製品が、AI業界で急速に注目を集めている。JevはTypeSafe AIが開発した、顧客の意向などを判断し、その結果を確率で返すAIモデルだ。こうした新しい種類の「判断モデル」は、さまざまな用途に使える大規模な基盤モデルの能力を、顧客の行動などを予測する予測AIに活用する。個別の予測課題に合わせて独自モデルを追加学習することなく結果を予測できる「ゼロショット予測」にも対応するため、導入の大きな障壁を取り除ける。
Jevの開発元は2026年10月9日、提供開始からわずか数週間で8億7000万ドル(約1375億円)を調達し、企業評価額が75億ドル(約1兆1850億円)になったと発表した。米経済誌『フォーチュン』が売上高を基に選ぶ米国企業500社のうち、29.4%がJevを利用しているとも説明した。
AIの予測精度では、企業の利益への貢献を測れない
ところが、Jevの利用者の多くは重大な間違いをしている。事業にどのような成果が生まれたかを調べず、AIの予測精度など技術的な性能だけを測っているのだ。例えば、AIを使って求職者と採用企業を結び付ける「Jack & Jill」は、人材の適合性を判定する業務の一部で、従来使用していた有力な基盤モデルをJevに置き換えた。その判断材料として、適合する候補者と適合しない候補者をどの程度見分けられるかを表すAUC(ROC曲線下面積)が、従来のモデルと同程度だったことを挙げた。ただし、AUCの良さは、そのシステムが企業の利益にどれほど貢献するかを直接示すものではない。
正解率80%でも、解約しそうな顧客を発見できない理由
事業価値を測らなければ、事業価値を目指してAIを運用しているとはいえない。正解率やAUCだけでは、AIが生む金銭的価値はほとんど分からない。例えば、顧客から届いたメッセージの20%に解約意向があり、残る80%には解約意向がないとする。統計上は解約意向があるメッセージを「陽性」、ないメッセージを「陰性」と呼ぶ。解約という否定的な内容でも、検出したい対象なので「陽性」に分類する。
この場合、AIが全件を「解約意向なし」と判定しても、正解率は80%になる。解約する可能性がある顧客を1人も発見していないのに、高い正解率が出てしまう。企業が代わりに測るべきなのは、予測モデルを実際に使った時に、どれだけの利益を得られるかだ。



