直感は科学の対極にあるものではない。直感もまたデータであり、スプレッドシートより速く、意識に上りにくい形で処理されているにすぎない。神経科学者のアントニオ・ダマシオは、ソマティック・マーカー仮説を提唱した。この仮説によれば、身体は過去の決定がどのような結果をもたらしたかを記憶し、その結果を素早い身体的シグナルとして蓄える。似たような選択に直面すると、意識的な推論が追いつく前に、これらのシグナルがどちらか一方へと背中を押す。
直感とは実際には何か
アイオワ・ギャンブリング課題では、参加者は4つの山からカードを選ぶ。一部の山は、短期的には勝てる一方で、長期的には損失を生むように仕組まれていた。参加者がどの山が危険かを意識的に説明できるようになるずっと前から、彼らの身体は、悪い山の上に手がかかるとすでにストレス反応を生じさせていた。分析できるようになる前に、直感が先に到達していたのである。
アイオワ・ギャンブリング課題の発見が重要なのは、直感とは何かを捉え直すものだからだ。直感とは、実際の経験から構築されたパターン認識を、神経系が圧縮してまとめたものである。数十件の交渉に臨んできた経営幹部の神経系は、そのパターンで訓練されている。たとえそのパターンを明確に言語化できなくてもだ。
直感の限界は、そのメカニズムと同じくらい重要である。ソマティック・マーカーは自分自身の履歴からつくられる。つまり、その有用性は背後にある経験の質に左右される。10年にわたって経験してきた状況に対する直感には、実際のシグナルが含まれている。経験したことのない状況に対する直感は、直感というより推測に近い。
直感は分析に勝ることがあるが、常にそうとは限らない
専門家の意思決定に関する研究では、特に救急医療や消防のような強いプレッシャーがかかる分野において、直感がゆっくりした分析を上回ることが一貫して示されている。とりわけ、素早いフィードバックループがあり、同じパターンに繰り返し触れる機会が多い領域ではそうだ。50件の契約を成立させてきた営業担当者は、どの交渉が本当の理由で停滞しているのか、どれが戦術として停滞しているのかについて、素早く信頼できるパターン認識を発達させる。まさにこうした領域では、直感に相応の重みを置く価値がある。
直感について私たちが誤解していること
直感を信じるかどうかをめぐっては、2つの失敗パターンが繰り返し現れる。
1つ目は、経験に裏打ちされた強い直感があるにもかかわらず、スプレッドシートが別のことを示しているという理由で、それを退けてしまう人である。その結果、数カ月後になって初めて、スプレッドシートには、直感がすでに織り込んでいたものの言語化できなかった情報が欠けていたと気づく。
2つ目は、自分の実際のパターン認識経験が乏しい決定について、やりたくない分析を省略する口実として「自分の直感を信じる」と言う人である。
したがって問うべきは、自分が抱いている感覚の背後に、実際の反復経験がどれほどあるのかを、その感覚にどれだけ重みを置くか決める前に、正直に見極められるかである。
直感を鍛える方法
直感は、あるかないかのものではない。他のパターン認識スキルと同じように、意図的なフィードバックを通じて築かれる。直感を信じるべきタイミングを見極めるのがうまくなる人は、たいてい1つの単純なことを継続している。結果がわかる前に、その決定と理由を書き留め、後で振り返って、直感と分析のどちらがより正しかったのか、そしてなぜそうだったのかを確認するのである。十分な数の意思決定を重ねるうちに、その習慣は「自分はたいてい人を見る目がある」という曖昧な感覚を、自分の直感を信頼できる領域と、なお時間をかけた分析プロセスが必要な領域を示す、実証に基づく見取り図へと変えていく。
直感と分析を組み合わせる
より良い意思決定に向けて最も信頼できるアプローチは、直感かデータ分析かを選ぶことではない。両者を互いの確認に使うことである。
直感と分析が一致するとき、その収束は強いシグナルである。両者が食い違うときは、その不一致自体が有用な情報であり、どちらか好ましい方を選んで決着させるためのタイブレーカーではなく、検討に値するものだ。
数字と矛盾する強い直感的反応があるなら、いったん立ち止まる価値がある。それは、経験が捉えている何かを分析が見落としていることを意味する場合もあれば、実際には当てはまらない経験に基づいてパターン照合していることを意味する場合もある。
いずれにせよ、進むべき道は、一方の入力をもう一方のために抑え込むことではない。必要なのは、これが実際にはどの種類の決定なのかを問うだけの時間を取ることだ。素早いフィードバックと深い反復経験が背後にある決定なのか、それとも直感が頼れる実データをほとんど持っていない決定なのか。その1つの問いを正直に投げかけることは、純粋な直感か純粋な分析のどちらかに最初から頼るよりも、意思決定の質を高めるうえではるかに大きな効果を持つ。



