AIについて語る最高経営責任者(CEO)と、自ら毎週AIを使っているCEOとの間にある乖離、すなわち「CEOギャップ」のことが、今月筆者が参加したシリコンバレーのAI関連の集まりのいたるところで話題に上った。IBMビジネス価値研究所(IBV)の「2026年CEOスタディ」によると、このCEOギャップがAIの導入を停滞させているという。経営幹部がAIを使用する時間は週平均わずか1.5時間であり、定期的にAIを利用している従業員は25%にとどまっている。
この同じトピックは、HTECの「エグゼクティブAIディナー」、「イノベーション・イン・アクション」、「Dreamforce(ドリームフォース)」、「AIインフラサミット」、スタンフォード大学の役員セッション、そして「GetOnBoard Week」でも浮上した。HTECのディナーテーブルを囲んだのは、同社CTO(最高技術責任者)のダルコ・トドロヴィッチ、オートデスクのマーカス・イースト、コンドイト(Condoit)のCTOペイトン・シャーウッド、および眼科および画像診断用AIを開発している医師のマット・ラングレンらだ。
いくつかの研究調査が、この現状を数値で裏付けている。全米経済研究所(NBER)のワーキングペーパー「Firm Data on AI(企業におけるAIデータ)」が約6000人の経営幹部を対象に調査したところ、3分の2以上がAIを定期的に使用しているものの、その平均時間は週にわずか1.5時間だった。一方、ボストン コンサルティング グループ(BCG)の「AI Radar 2026」によると、AI変革を牽引するCEOは、自身のスキル向上に週に8時間以上を費やしているという。
キャリア再構築を支援するリープ・アカデミー(Leap Academy)の創業者兼CEO、イラナ・ゴランは明快に語る。「CEOは適応力を他人に委ねることはできない。トップがチームの目の前でツールを学ぼうとしなければ、部下全員がそれを『今は静観していてもいい』という許可と受け止めるだろう」
1500人以上の経営幹部を対象としたHTECの調査も同様の方向性を示している。回答者の77%が「AIの価値は、テクノロジーよりも人やプロセスによって制限されている」という意見に同意した。同社の最高戦略責任者(CSO)ローレンス・ホイットルは筆者に対し、「CEOは自らAIの利用を増やすだけでなく、コミュニケーション、能力開発、および企業全体での信頼構築にもっと取り組む必要がある」と語った。
IBM、BCG、シリコンバレーが一致する「CEOギャップ」の表れどころ
ある大手製造会社の幹部は、あえて既存のシステムを壊すCEOの姿について語った。そのCEOは、自分のオフィスに届く仕事は事前にAIを通していることを求めており、社内分析が「時期尚早」と判断した際にもAIの導入を強行した。結果的には、それが正しかったことが証明されたと、この幹部は認めている。
しかし、そのようなCEOは極めて稀だ。現在、CEOの72%が自らをAIの主な意思決定者であると答えており、この割合は昨年の2倍に達している。しかしBCGは、断固とした投資と迅速なスキルアップを通じて変革を推進している「先駆者(トレイルブレイザー)」グループに属するCEOは、全体のわずか15%程度にすぎないと指摘している。
コンドイトのCTOであるシャーウッドは、最も望ましい顧客は「フォワード・デプロイ型エンジニア」(実際の現場の作業を見てシステムを構築するために顧客の社内に常駐するシニア開発者)を求めるCEOだと語る。同氏はさらに、AIを使えばコードベースを数週間で倍増できるため、管理体制が追いつくまではいかなるコードもリリースすべきではないと付け加えた。
CEOギャップには、もう1つのパターンがある。ツールを全面的に禁止するCEOだ。フューチャー・トゥデイ・ストラテジー・グループ(Future Today Strategy Group)のCEOであるエイミー・ウェブは、LinkedInへの投稿で、生成AIを禁止した結果、従業員がスマホのAIアプリに会社のデータを貼り付けて使うようになってしまったあるCEOの例を紹介している。彼女はこれを、心理学者のジャック・ブレームが提唱した「リアクタンス(制限された自由をより強く欲する現象)」と結びつけている。「長期的なダメージを与えるのは、制限そのものであることは稀で……経営陣によるリアクションなのだ」と彼女は記した。
IBM調査が示す、中間管理職から見た「CEOギャップ」
買収された企業群から成る多国籍グループを率いるあるリーダーは、AIの導入に消極的だったチームが動き出したのは、AIの利用がKPI(重要業績評価指標)に組み込まれ、トークン(モデルが処理するテキストの最小単位であり、AIの利用量を計測する基準)の消費量が追跡されるようになってからだったと語る。しかし、一部の技術者はKPIを確実に達成するために、中身のない大雑把なコードでトークンを無駄遣いするようになった。
非営利団体「All Tech Is Human」とノートルダム大学・IBM技術倫理研究所による新しいホワイトペーパー「Two Views of the Same Transformation(同じ変革に対する2つの見解)」でも、現場から同様の声が寄せられている。中間管理職は、AIのアウトプットをチェックする作業が評価されないまま業務に占める割合を増していると指摘し、一部ではこれを「AIの駄作(slop)の子守り」と呼んでいる。導入を円滑に進めるための調整業務(グルーワーク)は人事評価に反映されず、女性がその負担を多く負っていると報告されている。一方で経営陣は、中間管理職を「削減すべき階層」と捉えながら、その一方で「組織全体の脱スキル化(deskilling)」を懸念している。
2000人以上のCEOを対象としたIBMビジネス価値研究所の「2026年CEOスタディ」は、この2つの見解の距離を測定している。CEOの86%が「従業員はAIを扱うスキルを持っている」と信じている一方で、職場で定期的にAIを使用している従業員はわずか25%にとどまるとCEO自らが見積もっているのだ。
IBMとBCGが提示する、CEOギャップを埋める5つの行動
CEO自らが先頭に立ち、道を切り開かなければならない。しかし、ほかには何が必要なのだろうか。
CEOを含む経営幹部は、以下の取り組みを行うべきだ。
自ら毎週ツールを使い、その成果を社内に示す。学校の数学と同じで、途中式を書かなければ得点はもらえない。AI活用も同様だ。全体会議の冒頭で、自分がAIを使って作成した成果物を披露しよう。社員は、社内通達を読むよりも、CEOが実際に行っている行動をはるかに早く模倣するものだ。
「検証(バリデーション)にかかった時間」をダッシュボードに表示する。AIがもたらした生産性の向上だけでなく、チームがAIの出力をチェックするために費やした時間も併せて報告すること。AIの導入によって10時間節約できたとしても、確認作業に8時間かかっているなら、実際の削減時間はわずか2時間だ。自律型AI(Autonomous AI)の普及はすぐ目の前に迫っている。
調整業務(グルーワーク)を人事評価に明記する。同僚のトレーニングや、戦略をチームの実業務プロセスに落とし込む作業を具体的な評価目標に設定し、実績として認めるべきだ。そして、誰がその負担を背負っているのかを把握する必要がある。
週に一度の「デモ・デイ」を開催する。実際に成果を上げている従業員を見つけ出し、彼らの取り組みや成果を共有してもらう場を設ける。
メンター役を担っている中間管理職を特定する。新人の指導にあたっている人物や、AIが誤った結果を出したときに頼りにされる人物のリストを作り、AIに関する意思決定において彼らの意見を反映させる。この中間層を削減した結果、失われた価値の大きさに気づき、後になって慌てて元に戻そうとした企業は数多く存在する。
あなたの会社のCEOに、週に何時間AIを使っているか尋ねてみよう。そして中間管理職には、AIのチェックに何時間費やしているか聞いてみよう。IBMの調査を読めば、その2つの数字の開きこそが、あなたの組織の「CEOギャップ」であることがわかるだろう。



